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[ロクスコ]不思議な同行者

  • 2026/06/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

スコール in FF6
[始まりの前に]の続き





ニケアを出港した船は、一晩をかけてサウスフィガロの港に着いた。
ニケアよりも広く人の多い市場が立ち並び、客を呼び込む威勢の良い声があちこちで飛んでいる。
波止場をうろついている猫に魚を取られた店主が怒りの声を上げるのも聞こえた。

その市場を歩く間、ロックの奇妙な同行者───スコールは落ち着かない様子で辺りを見回している。

ロックにしてみれば、サイスフィガロの街は規模こそそれなりに大きいものだが、見た目としては然程目新しいところはないものだ。
行商人や旅人、傭兵を当てにした宿場に、武器防具を取り扱う鍛冶屋に、日々の生活を賄う野菜や魚や肉を扱う店。
ついでに酒場も大小含めればあちこちにあるが、それもこの規模の街ならよく見る光景だった。


「見慣れないか?」


半歩前を歩きながら、肩越しに振り返ってロックは言った。
案内人の後ろをついて来る形で歩いていたスコールが、視線をこちらに向けて、眉間に皺を寄せる。


「……多分」
「そうか。じゃあ、ここも馴染みじゃないってことなんだろうな」


答えたスコールにロックがそう返せば、もう一度「……多分」と返事があった。

濃茶色の髪に、蒼灰色の瞳と、黒と白を基調にした一風変わった出で立ちの若者。
その腰には草臥れた布を鞘替わりに巻き付けた、これまた風変りな形状の剣がある。
端正に整い、近づきがたい印象の皺を浮かべた眉間には、刃傷のような傷痕がくっきりと浮かんでいた。
全体の色味で言えば地味な印象だが、着ている服や腰に携えた獲物などが、どこか異質な存在感を匂わせている。

そんな変わった青年とロックが出逢ったのは、ニケアの港でのことだ。
少々賑やかな騒ぎを切っ掛けに相対した二人は、取りも遭えずの話の流れで、同行することになった。
詳細に言えば、記憶喪失であるが故に行く宛のなかったスコールを、ロックが傭兵として雇う形で誘った、と言うものである。

ロックは、一先ず腹ごなしをしよう、と波止場を過ぎた先にある酒場に入った。
船乗りの客も多いそこは、中央で見世の踊り子が舞い、ニケアよりもずっと賑やかだ。
やんややんやと踊り子を冷やかす客の隙間を抜けて、ロックはカウンター席に座った。
隣にスコールも腰を下ろし、また辺りを見回す。


「ここは……?」
「酒場だよ。飯でも酒でもあり付くならここだ。入ったことくらい───ないか?」


市場にしろ、船にしろ、どうにも見慣れない様子のスコールに、ロックは常識の範疇を一旦退けて尋ねてみる。
スコールは傷のある眉間に深い皺を浮かべ、しばらく考えた後、


「……俺の知ってる飯屋じゃない、気がする」
「酒場なんて、どこでも大体こんなもんだと思うけど……いや、ドマならそうでもないかな…?」


ドマは海を隔てた南の大陸にある国だ。
“侍”と言う特殊な剣技を扱う戦士を擁している他、言葉こそ公用語で通じるものの、文字や装飾には独特のものが使われている。
封建閉鎖的な傾向の国である為、ロックはドマの酒場を利用したことはなかったが、他国との文化との違いを考えると、どこかしらに差異があっても可笑しくはないだろう。
それを記憶喪失のスコールが、感覚として“違う”と感じることは、あるのかも知れない。

ロックはマスターを呼び、適当にメニューを注文した。
表情ばかりは愛想の良いマスターが頷いて、程なく女給からジョッキがふたつ運ばれてくる。


「ま、ともかく飯にしよう。平気そうだったから気にしなかったけど、船酔いはしてないよな?」
「問題ない」
「それなら食えるな。じゃあ飯が来るまで、ここからの予定を説明するか」


ロックは懐から地図を取り出した。
カウンターなので全面広げる訳にはいかないので、サイスフィガロから次の目的地の部分を見せる。


「今いるのがここだ。で、この後は北西の洞窟を抜けて、砂漠にある城に行く」
「城……?」
「この街はフィガロって言う国の領土にある。その国の本城が砂漠の中にあるんだよ。俺は何度も行ってるけど、この世界じゃ一番広い砂漠の真ん中にあるからな。ちょっと念入りに準備して行く」
「砂漠については理解した。その前にあると言う洞窟は、危険なのか?」
「魔物が棲みついてる。大体は虫の生態の魔物だから、火でも焚いてれば多少は追い払える。俺一人でも行けるから、個々の危険度は高くない。ただ、数がな。うっかり大群に出くわすときつい」
「……軍隊アリでも出るのか」
「似たような奴はいるな。アリじゃなくてハチだ」


ロックの言葉に、スコールは判りやすく顔を顰めた。
虫が嫌いか、多数を相手取る面倒を想像したか。

魚介を具にしたパスタが二皿、到着する。
一皿を隣に回すと、スコールは手を付けて良いものか、逡巡するようにしばしパスタを見詰めた。
ロックが食べ始めるのを確認してから、ようやくスコールも手を付ける。


「あんたの目的地は、砂漠にある城か」
「いや、そこはただの中継点。本命は砂漠から更に北だ」


ロックはパスタを食べながら、地図を手繰ってフィガロの砂漠から北を見せる。


「砂漠を北に抜けて、渓谷沿いに進むと、炭鉱がある。俺の目的地はそこ」
「炭鉱───」
「名前はナルシェ。聞き覚えは?」
「……」


スコールは首を横に振った。


(この大陸とは縁がない、ってことか?そうなると、いよいよドマか帝国辺りしか残らないんだけど───)


ロックは燻製サーモンを噛みながら、同行の傭兵について考える。
しかし、いくら思案を巡らせたところで、元より碌な情報もないのだ。
本人でさえ、自分自身の情報を探しあぐねているのだから、雲を掴むようなものである。

ロックは頭を切り替えて、ナルシェについて説明して置くことにした。


「ナルシェは炭鉱都市で、位置としてはフィガロ国に近いけど、自治都市だ。別に余所者お断りって訳じゃないけど、住人はちょっと取っつき難いかもな。最近はピリついてるだろうから、特に」


ロックの言葉に、スコールの双眸が微かに細められる。


「そのピリついた場所に行くのは、何が───」


そこまで言って、スコールは止まった。

続く言葉は恐らく「何が目的だ」と言ったところだろう。
問われて当然の言い方をしたな、と思いつつ、そこで止まったスコールに、今度はロックが眉根を寄せる。


「なんだ?」
「……いや」


訝しむロックに、スコールは視線を反らした。
目の前のパスタを見て、黙々と食べ進めるスコールに、ロックの方が落ち着かない気分になって来る。


「聞きたいことがあるなら言えよ。ちゃんと答えるつもりはあるぞ?」
「……いい。俺はあんたの傭兵だ。雇い主の意向に従うのが仕事だ」
「辺鄙なところに連れていかれて、何をやらされるか。悪いことでもやらされると思ったんじゃないか?」


傭兵に犯罪の片棒を担がせるなんて、よくある話だ。
地獄の沙汰も金次第、と支払い次第でそれを引き受ける輩は、決して珍しくない。
その傍ら、悪罪を背負(しょ)いこまされるのは御免だと、警戒するのも当然である。

青年もそれ考えたのではないか、とロックは言った。
スコールは図星を突かれたように口を一度噤むも、ジョッキを掴んで口元に運ぶ。
喉奥に何かを押し込むように、液体をぐびりと飲んで、言った。


「俺は傭兵だ。命令には従う」
「命令ってほどでもないんだけどなあ……」


硬質な声のスコールの言葉に、ロックは頭を掻いた。
彼を引き連れるにあたり、腰に携えたものと併せ、無難な言葉で誘いをかけたのはロックの方だが、どうもスコールにとって“傭兵”とはかくあるべしというものがあるらしい。
そこまで頑なにされてもロックの方が困るのだが、記憶喪失ながらに縁とするのがその単語であるなら、こちらからは触れるまい。

スコールが食事をすることに終始しているので、ロックもまあ良いか、と思うことにした。
どうせこの青年の正体と言うのは判らないのだ。


(ナルシェに行った時に、どう動くか。帝国絡みなら、何かある筈だ。その時に考えれば良い)


何せ、スコールの“記憶喪失”と言うのも、彼の自称でしかない。
ロックの直感で言えば、強ち嘘とも言い難いが、それは個人的な感情が齎すものであることは否めなかった。
若しかしたら、ロックが身を置く地下組織リターナーが討たんとしている、ガストラ帝国の関係者である可能性も、未だ否定はできないのだ。
故にロックは、彼を傭兵として同行にしながらも、彼に与える情報は少しずつ限定的に開示するに留めていた。

パスタの皿がふたつとも空になり、ロックはジョッキを開けた。
その横で、スコールも少しずつジョッキの中身を減らしていたが、半分ほどまでになると、その動きが止まる。


「……」
「スコール?」


俯き加減に沈黙したスコールに、ロックは声をかけた。

スコールは、両手でジョッキを捕まえるように持ち、皿の片付けられたテーブルを見下ろしている。
何か深く思案しているようにも見えるのだが────と思っていた時だった。

ぐら、とスコールの体が斜め横に傾いて、背凭れのない椅子の上でバランスが傾く。


「っおい!」


そのままゆっくり床に落ちていく体を、ロックは咄嗟に腕を掴んで捕まえた。
かくんと頭が重力に従って、体は斜め、それに対して首は90度になっている。

腕の力で引っ張って体勢を戻させるが、スコールの体は今度はロックの方へ傾いて来た。
完全に力の抜けた重みがロックに乗って、ぐったりと寄り掛かる。


「スコール?おい、大丈夫か?」
「……」
「……お前、ひょっとして、酔ったのか?」


胸元に顔を埋める形になっているスコールを見下ろして、ロックは言った。
返事はなく、「うん……」とむずがるような声が聞こえてくるだけだ。

ロックはスコールの頬やら肩やらを叩いてみるが、反応は芳しくなかった。
ぐでんと力の抜けた体は、すっかりロックに体重を預け、瞼は半分以下まで落ちている。
目元をとろんとさせたスコールの頬は薄らと赤らんで、耳や首筋まで紅潮して見えた。

ちらとロックがテーブルを見れば、飲みかけのジョッキがある。
中身は特段珍しくもない、どこの安酒場でも提供されるエールだ。


(……飲めない奴だったか?一応、今後の為に、覚えておくか)


意外、と思いつつ、ロックは海を越えて初めて知る青年の詳細情報を更新する。

スコールは完全に意識を飛ばしてはいないものの、宙に浮いている状態だ。
このままではどうにもなるまい、とロックは食事代をテーブルに置くと、スコールを背負ってカウンターを離れる。

酒場の奥にあるドアを潜れば、宿屋と繋がっている。
受付に行って二人分の寝床のある部屋を取り、そこへスコールを運び込んだ。
綺麗なリネンで整えられたベッドにスコールを横たえてやると、スコールは眉根を寄せながら数回寝返りを打った後、丸く縮こまって静かになる。

ロックは、ベッドの真ん中で丸くなったスコールに声をかけた。


「スコール。俺、色々調達に行ってくるけど」
「……」


瞼が薄く開いて、蒼灰色がぼうと揺蕩いながらロックを映す。
スコールはじっとこちらを見詰めたまま動かない。

ロックは肩を竦めつつ、まあ良いか、と思った。
どのみち、今日は諸々の準備に費やして、東の洞窟へ向かうのは明日にするつもりだったのだ。


「今日はここで寝るから、ま、大人しくしててくれよ」


なんとなく子供に聞かせる口調になって、ロックは言った。
返事がなかったので、念を押す気持ちも込めて、濃茶の髪をぽんぽんと軽く叩く。

ぼうっとロックを見つめるスコールの貌からは、眉間の皺が薄らいで、どこか幼い輪郭が覗いていた。
その双眸が次第に薄く細められて、瞼がすっかり閉じた後、すぅすぅと寝息が立てられる。
大人になり切らない寝顔に、妙な奴を拾ったなあ、と今更思うロックであった。




6月8日と言うことで、ロクスコ。
以前に書いたスコール in FF6(本編スタート前)が楽しかったので、続きを考えてしまった。

FF6ってキャラクター数が多く、年齢幅も上から下まで広いんですが、ロックって25歳なんですよね。ゲームのキャラグラフィックからはあまり判らないけど、良い大人。
スコールの見た目が大人びていること、この設定だと記憶喪失なので実年齢が情報としてはっきりしないので、ロックは同年くらいの感覚で扱っているつもり。少なくとも20歳は数えているだろと思っている。なのでエールも二人分注文してました。
スコールにしてみると、水ではなさそうだけど、ここに来るまでちゃんと水分も取れていなかったので、一応飲んでおこうと思った……と言う。ここまでの疲れや緊張もあって回ったんでしょうね。

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