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[セフィレオ]その眼に映る

  • 2026/07/08 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



広大とも言える街並みが続いている。
だが、そこに生き物の気配は少なかった。

人の営みの気配も少ない。
かつては何万、何十万と言う数があったのだろう住人は、今はその千分の一にもならなかった。
いずこ遠くからやって来た───帰って来た───人々は、小さな一画に身を寄せ合うように集まって暮らしている。
その生活も頻繁に心無い影に脅かされていると言うのだから、戻って来たのにすぐに出て行く者も少なくはなかった。

この世界には、闇色が濃く燻ぶっている。
それもその筈で、街は十年以上もの間、闇に覆われていたのだと言う。
その間、住民たちは散り散りに他の世界へと渡り、喪われた故郷を懐かしみながら暮らしていた。
鍵の勇者によってようやく世界を覆う闇は払われたが、場所ばかりが元の形に戻ったとて、そこは人が生活できる環境ではなくなっている。
勇者の軌跡を追う形で、一番最初にこの地に戻った者ですら、途方に暮れたのは想像に難くない。

だが、セフィロスにとってはどうでも良い話だ。
この世界の成り立ちも、辿った歴史も、今から歩もうとしている未来すら。

眺める夕暮れの景色には、感慨も沸かない。
何を思っているのか、自分自身にすら興味はなかった。
ただ、待っているだけの時間と言うのは退屈を飽かすに十分で、俄かの暇潰しが欲しくなることもある。
かと言って、暇潰しになるものを積極的に求め探しに行く訳でもないのだが───目についたものを追う程度のことは、稀に、ごく稀に、起きることだ。


(熱の入ることだな)


細めたセフィロスの双眸に映るのは、壁上の回廊のひとつ。
空の上からぼうと眺める景色の中で、ひとつぽっかりと空間の空いた場所だ。
そこは周囲の民家よりもひとつ抜きんでた高台になっており、鐘楼ほどではないものの、街を一望するには手軽な位置だった。

その高台の上で、一心不乱に剣を振っている男がいる。
肩にかかる濃茶色の髪を靡かせながら、見えない何かを追うように、銀色の刃が幾度も軌道を描く。
じっと見下ろす者がいることなど、知りもせず。


(四日目だったか)


男は空かずに高台に来ては、ああして剣を振るっている。
時間としては概ね夕暮れが濃くなる時、街の一画で微かに夕餉の気配がする頃合いだ。
それから東の空が夜になり、灯りの乏しい街並みに心無い影の徘徊が増えてくる塩梅になると、去っていく。

男はいつも一人だが、昨日は仲間と思しき少女がやって来て、何事か声をかけていた。
短い遣り取りの後、少女はさっさと帰って行き、男はまたしばらくの間、剣を振るい、夜の帳が拡がる頃に帰って行った。


(飽きもせず)


恐らく、飽きる飽きないの話ではないのだろう。
男はストイックに自己鍛錬を行っていて、ここ数日はルーティンに組み込んでいる。
この時間は男にとって必要なものであり、熟すべきノルマなのだ。

男がどうしてそうも自分を苛めているのか、セフィロスは知る由もないし、知る意味もない。
セフィロスが佇む場所から、彼が鍛錬場所として使っている高台がよく見えるので、目につくだけの話だった。

────と。

何度となく振り下ろされた銀刃が、ふと動きを止めた。
男は滲む汗を拭いながら、腕を下ろしている。
そのまま幾許かの時間が流れた後、つい、と男の頭が此方を向いて、


(……)
「…………」


狭間に傷を抱いた蒼灰色の双眸が、じっとこちらを見つめている。
冷ややかな、じんわりと苛立ちを滲ませた宝玉の無言の圧に、ああ、とセフィロスは理解した。
自分がここにいることを誰も知りはしない、と言う認識は、改めねばなるまい。

黒の片翼が久方ぶりに風を叩く。
揚力に従って移動した体は、ゆっくりと高台の上へと下りた。
存外と小奇麗な石畳を敷き詰められた地面は、何も言わずに傍観者を着地させる。

男と、セフィロスと、数十メートルとあった距離は、今はほんの数メートルしかない。
一足で男が飛び掛かることも可能なら、その瞬きの間にセフィロスが男を寸断することも可能な距離だ。


「……」
「………」


距離はそれだけ縮まったが、二人の貌は変わらなかった。
男は眉間に深い皺を寄せ、不機嫌を隠さない。
それを見つめるセフィロスも、空の彼方で男を見ていた時のまま、眉のひとつと動いていない。

そのまま幾年でも過ごしているかと思う程、沈黙は長かった───少なくとも、男にとっては。
ともなれば焦れるように苛立ちも募るもので、口火を切る。


「何の用だ」
「別に、何も」


直線で問う男に、セフィロスはありのままに返した。
男は不審に肩眉を顰めたが、右手に持った獲物は離さずとも、構えようとはしない。
警戒しているが、今すぐにどうこうする必要はないことを、この男は悟っている。

はあ、と男は溜息を漏らした。


「じろじろと見ていただろう。それで何も用はないと?」
「ない。元より、私の視界に入ってきたのはお前の方だ」
「……成程。その理屈なら、俺の方が後客ではあるな」


納得はしていない表情だが、男は取り合えずそれは飲み込んだらしい。
男はもう一度溜息を漏らして、


「俺がここにいるのが目障りなら、明日から場所を変えるが」
「目障りとは?」
「あんたの視界に俺が後から入って来たんだろう。じろじろと見ていたから、てっきり、邪魔になっていたと思ったんだが」


違うのか、と問われて、セフィロスは首を傾けた。


「さてな」
「……」


セフィロスの反応に、男の瞳が胡乱に細められる。


「ずっとこっちを見ていただろう」
「ああ」
「邪魔だったからじゃないのか」
「別に」
「ただ見ていただけだと?」
「そうだな」


より正確に言うならば、“見えていた”と言う方が当て嵌まる。
セフィロスはそう言ったが、見られていた男からすれば、結果として大差はない。

男は傷のある額に左手を当てて、唇を固く引き結んでいる。
表情は見えないが、何を言わんとするやを硬い意思を押し留めているのが感じ取れた。


「……そうか」
「ああ」
「……」


額から手を放した男の顔には、諦念が浮かんでいる。
滲む疲労の色は、鍛錬に費やした体力の所為と言うよりは、目の前の人物───セフィロスが読めない存在であると理解したからだろう。

セフィロスは、男のそんな様子を見つめていた。
空の上で、高台で剣を振っていた男を見ていた時と同じように、じっと視界の中心に置いている。
男も次第にその視線の強さに居心地悪さを感じたか、先とは別の意味で不機嫌な表情を浮かべた。

しかし、既に遣り取りをするだけ徒労であることを理解しているからか。
男は再三の溜息を吐いて、自分に向けて呟いた。


「どうでも良い視線が邪魔になるのは、俺が未熟な証拠か……」


ぎ、と愛剣を握る右手が、微かに軋む音を鳴らす。
蒼灰色に浮かぶ苛立ちは、目の前の存在ではなく、彼自身へと向けられていた。

それがどうにも、セフィロスの琴線を揺らす。

立ち尽くす男の下へと、セフィロスはゆっくりと近付いた。
はっきりと鳴る足音に、男が顔を上げて、まとう空気が警戒に剣呑さを増す。
伏目勝ちにしていたブルーグレイの瞳が、真っ直ぐに自分を見据えると、セフィロスは得も言われぬ感覚が昇ってくるのが判った。


「良い目だな」
「……」


二人の距離は、どちらかが腕を伸ばせば届く程に狭くなっていた。
睨む眼に夕暮れ色の光が反射して、冷たい蒼の中に燃えるような赤が映り込んでいる。
正反対の色が齎す蒼灰の輝きに、セフィロスはおもむろに手を伸ばしていた。

頬を撫でた手が、するりと滑って登り、男の眦を擽る。
直後、ぱしん、と乾いた音が鳴って、男がセフィロスの手を払い除けていた。


「生憎、赤の他人に目玉をくれてやる趣味はない」


じっと睨み据えたまま告げた男の言葉に、く、とセフィロスの喉が震える。


「それは残念だ。大事にしてやろうと思ったのだが」
「……丁重に断らせて貰う」


剣呑な目には、悍ましいものを吐き捨てる冷たさが宿っている。
異常者とでも見られたのだろう。
強ち否定するものでもない、とセフィロス自身、理解している。

だが、駄目と言われれば欲しくなると言う人間心理は、セフィロスの内にもあるらしい。
そんな自分にまた可笑しな笑みが浮かぶと、相対する男からは、己を馬鹿にされたと見えたようだ。
きち、と男の右手で金属が掠れる音が鳴った瞬間、セフィロスは翼と共に地を蹴った。


「っ!」


ぶん、と振り抜かれた銀刃が宙を斬る。
狙いを外した蒼灰色が、剣を構えて空に佇む銀糸を見上げた。


「街に害がないなら放っておいて良いと───クラウドの奴に任せているつもりだったが、そう言う訳にもいかないようだな」


男は腰を深く落として、地面を強く蹴った。
跳躍した男が剣を振り被るのを、セフィロスは変わらない表情で眺めている。

セフィロスがほんの少し体の角度と位置をずらせば、振り抜いた剣はまたしても空気を裂き、男の体は重力と慣性の法則に従って地面へ下りる。
下りた体は直ぐに向きを変えて再びセフィロスと向き合ったが、宙をふわふわと浮く男をどう追い駆けたところで、男が捕まえられる訳もない。
忌々し気に睨む蒼灰色を、セフィロスは薄く笑みを浮かべた貌で見下ろしていた。

───が、じわりと空気に溶けるように滲む気配を感じ取って、セフィロスは眉尻を下げる。


「来たか」
「……クラウド?」


セフィロスの短い言葉に、それが指し示すものを男は的確に拾った。
睨みつけていた蒼の瞳が、僅かに剣呑が薄れるのを、眇めた翠の目が捉え、


「お前との語らいは、次の楽しみとしておこう」
「俺は別に────」


あんたとの語らいなんて。
そう続くであろう言葉は、片翼が風を叩く音にかき消される。

遠く高い空の上から見えるのは、遥かに広がる粒のような街並み。
それだけの距離があれば、最早人の姿や影も見える訳もなく、ジオラマよりもその存在感は小さくなる。
空気を滲み渡って届いていた気配も、ここまで来れば既に薄らぎ、あちら側から己の存在を辿ることも叶うまい。



夜と夕暮れが交じり合う空の境界で、セフィロスは鮮やかに閃く蒼玉石を思い出していた。





7月8日と言うことで、セフィレオ。
訳の分からないちょっかいをかけられて迷惑している図。

KHのセフィロスは原作やリメイクよりも、輪をかけて真っ当な遣り取りが成立する気がしない。
見られていることに我慢できなくなって目を合わせてしまったレオン。後悔先立たず。
こんな構い方をしてはとっとといなくなるのを繰り返していく内に、レオンの方から警戒心がうっかり鈍化しそうな気がしないでもない。

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