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[バツスコ]背中の熱と、傷の跡

  • 2016/05/08 23:00
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背中の重みが心地良い。
もう少しこのままでいたいと、思う位に。



スコールとバッツの二人で秩序の聖域を出発し、エルフ雪原でイミテーション退治をしていた。
ちらほらと出現するイミテーションの中に、少々厄介なレベルまで成長した物が在ったが、それの駆除も終わった。
しかし、騎士と道化のイミテーションを同時に相手取っていたスコールが足を負傷してしまった。
戦闘中は治療している間も惜しいと、気合と気力で殺していたダメージは、一段落ついた所で一気に襲い掛かって来た。
駆け回っている間に傷は悪化し、出血も少なくはない。
バッツが直ぐに回復させる事が出来れば良かったのだが、此方も幻想と英雄のイミテーションと同時に戦っていた為、魔力をすっかり使い果たした。
出血だけはなんとか止める事が出来たものの、スコールが自分の足で立って歩く程には至らない。
スコールの負傷、バッツの魔力も枯渇となれば、これ以上イミテーション退治は続けられない。
空はまだ夕焼けも見えていなかったが、今日はもう帰ろう、と言うバッツに、スコールも頷いた。

近辺のイミテーションは掃除する事が出来たので、帰路は比較的安全である。
とは言え、雪原を棲家にする魔物がいない訳ではないし、最も警戒すべきは、神出鬼没の混沌の軍勢だ。
帰路は出来るだけ早く進みたい────が、足を負傷したスコールには難しい。
そこで、バッツが「おれがおんぶするよ」と言い出した。
初めこそスコールは赤い顔で「断る!」と言っていたが、幾らも歩かぬ内に痛み出す足と、此処で意地を張ってもバッツの足を引っ張るだけと思い直してからは、バッツの背に甘える事にした。

雪原を抜けた先にあるテレポストーンへ向かうバッツの歩調は、のんびりとしている。
急いだ方が良いんじゃないのか、とスコールは思うのだが、バッツも疲労していない訳ではないのだ。
自力で歩けない自分が急かしても詮無い事で、大人しくバッツの背中で揺られている。


「おっ、ウサギ」


カサカサと音がした茂みの向こうを見て、バッツが言った。
見れば、確かにバッツの言う通り、茶色と白のまだら模様のウサギがいる。


「良い大きさだな。食ったら美味そう」
「…あんた、腹減ってるのか」
「もーペコペコ。だから魔力も中々回復しないんだよ、多分」


ウサギを見るなり、胃袋を鳴らしたバッツに、スコールは呆れた溜息を吐く。
昼にあれだけ食べた癖に、と聖域出発前の昼食時の光景を思い出すが、バッツの燃費の悪さは今に始まった事ではない。
何より、今のバッツは魔力が底を尽いているのだ。
ティナやルーネス、セシルにも見られる傾向であるが、魔力が尽きると空腹感を覚えるものらしい。
魔力が尽きると言う事は、魔力を当たり前に有する魔法使いにとって、スタミナエネルギーの枯渇と同等の意味を持つのだろう。
早い内に空腹を満たす事が出来れば、魔力の回復も早まるようだが、現状のバッツにそれは望めない。

腹減ったなあ、と言いながら、バッツは緩やかな坂道を上っている。
その言葉が聞こえたかのように、茂みの向こうにいたウサギが逃げ出したのを、スコールは見た。
お前を捕まえる気力もない、と見えなくなったウサギに呟いて、スコールは歩を進めるバッツに言った。


「…腹が減ってるなら、もう下ろせ。俺を背負ってるんじゃ余計に辛いだろ」
「おっ、スコールが心配してくれた。お陰で元気出たぜ」
「……ふざけてないで、さっさと下ろせ。もう足も痛くない」
「そんな訳ないだろ。あんなに血が出てたんだから」


下ろせ、と繰り返すスコールに、ダーメ、とバッツは言う。
スコールの両脚を抱えるバッツの腕は、しっかりと力が込められていて、離すつもりはないようだ。
スコールは唇を尖らせ、バッツの剥き出しの肩を抓って、下ろせ、と急かすが、バッツは痛がる様子も、足を止める事もない。


「もうちょっと魔力が回復したら、スコールにケアルかけるからさ。そしたらスコールも今より歩き易くなるだろ?」
「…だから、俺を背負っていたら、その魔力も回復が…」
「これ位、大した事ないって。スコールって軽いから」
「………」


自分が戦士としてはウェイトが軽い事は、スコールにとって喜ばしくない事だ。
しかし、こうして他人に背負われている状態では、重いよりは軽い方が良い事は確か。
拗ねた顔はしつつも、スコールは大人しくバッツに背負われている事を諦めて受け入れた。

辿り着いたテレポストーンにバッツが触れると、二人の視界が白く反転する。
一秒、二秒もすれば、次の瞬きの時には、辺りの風景はすっかり変わっていた。
茂る森の木々の向こうに、聖域の中央に位置する白銀の塔が見える。
バッツは、よいしょ、とスコールを背負い直すと、聖域に向かって歩き始めた。

ゆっくりと近付く聖域のシンボルに、スコールは、相変わらずのんびりと歩くバッツに声をかけた。


「…バッツ」
「んー?」
「……聖域に着く前には下ろせ」
なんで?」
「………」


この状況を見られたくないからだ、とスコールは唇を尖らせる。
負傷した情けない姿を見られるのも癪だし、バッツに背負われているのも、正直余り見られたくない。
スコールとバッツが付き合っている事は、秩序の戦士達の間では周知されているのだが、知られているからこそ、スコールは余計に今の状態に抵抗があった。
揶揄って来るような人間はいないとは思うが、ジタンやティーダは遠巻きにニヤニヤと此方を見ていたり、セシルやクラウドからは生温かい視線を送られるに違いない。
スコールはそれが嫌なのだ。

しかし、バッツはまだスコールを下ろす気はなかった。
いっそ自力で降りようか、と背中でもぞもぞと身動ぎするスコールには気付いているが、彼の足はまだ自由に動ける状態ではない。
止血しただけでどうにかなる傷ではなかったのだ。
スコールもそれが判っていない訳ではないだろうに、未だに彼は、こうして恋人と密着している事を他人に見られるのが苦手らしい。

案の定、もがくだけ無意味だったスコールは、はあ、と溜息を吐いて、バッツの背に体重を預ける。
バッツの項を、スコールの柔らかい髪がくすぐった。


「……バッツ」
「ん?」
「あんた、魔力はまだ……」
「うーん。イマイチ」


バッツの歩調はゆっくりとしており、散歩にも思えるものであった。
しかし、このまま歩いていれば、バッツがケアル一回分の魔力を回復させるよりも早く、聖域に着くだろう。


「もう帰ってから誰かにケアルして貰った方が良いかもな」
「……そうか」
「ティナもルーネスもセシルも、今日は聖域で待機だったっけ。皆、おれより魔法が上手いし、綺麗に治してくれるよ」
「……ああ」


彼等の丁寧な治癒魔法は、生傷の絶えない生活の中で、非常に重宝されている。
バッツも治癒魔法が使えるが、専門職には及ばない所はある、らしい。


(でも……)


スコールの視線が、すぐ目の前のバッツの頭から、抱えられている自分の足へと落ちる。
なけなしの魔力を使い切って止血を止めた傷には、破ったバッツのマントが包帯代わりに巻かれている。
聖域に着き、誰かに治療して貰う時には、この包帯は解かれる────それは何も構わないのだけれど、


(……あんたに、治して欲しかった───かも知れない)


治療魔法なんて、誰から受けても違いはない。
魔法を使う本人の腕に差はあっても、癒してくれるのなら、それで十分有難い事だ。
特にスコールは、自身の魔法は彼等に遠く及ばない事、使う為に一定のリスクを課せられる分、その有難みは一入強いものになる。
だから、誰が治療してくれるにしろ、相手に感謝の念を忘れる事は無い。

けれど、個人的な我儘が許されるのなら、バッツが良い、とスコールは思う。
何故と問われると非常に答えに窮してしまうのだが、“彼が良い”と望む自分がいる。
しかし、それを口に出せる程、スコールは自分が素直な人間ではないと自覚がある。

ひっそりと溜息を吐いて、スコールはバッツの肩に頭を乗せた。
バッツが歩く度に揺れるスコールの髪が、バッツの首をふわふわとくすぐる。


「スコール?」


心配そうに呼ぶ声が聞こえたが、スコールは顔を上げなかった。
足が痛いのかとバッツは問うが、やはりスコールは答えない。
そのまま黙っていると、寝ちゃったかな、とバッツが呟いたので、そう思って貰う事にした。

スコールを起こさないように慮ってか、バッツの歩調が更に遅くなる。
お陰でスコールへ伝わる揺れは小さくなり、揺り籠で揺られているような気分になった。
背負われている所を誰かに見られるのは嫌だったが、それも段々とどうでも良くなる。
ほんのりと草いきれの匂いがするバッツの肩に顔を埋めて、とろとろと目を閉じた。



自分を背負って歩く青年が、こっそりと遠回りしながら帰路を歩いている事を、スコールは知らない。





5月8日でバツスコ!

言えば良いのに、なスコールでした。
バッツもバッツで、傷を治す為には、早く聖域に着いた方が良いんだけど、そうしたらスコールを下ろさなきゃいけない、二人きりの時間も終わるので、ゆっくり帰ってたって言う。

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