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[ティナスコ]秘密の放課後

  • 2016/06/08 22:52
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幼い頃から、自己主張が苦手だった。
なまじ空気を読む事に長けたいたものだから、この雰囲気を壊してはいけない、此処でこの発言は間違い、と悟ってしまい、結果的に、大きい物に捲かれる形で、和を乱す事を避けていた。
そうしたスコールの言動は、なんとなく他の子供達も感じていたのだろう。
「本音で話そう」等と言う学級会でも、スコールは出来るだけ自分の存在を小さくし、「悪い所があるなら正直に言い合って直そう」と先生に言われても、「特にありません」で通していた。

仕方がなかったのだ。
保育園にいた頃から、消極的な性格と、運動神経もあまり良くない事が相俟って、遊びの輪について行けずにいる内に、仲間外れにされたり、いじめられたりするようになった。
自分の所為で空間のペースが乱れると、良くない結果を生んでしまう事を、スコールは早過ぎる内に学んでしまった。
そう言う事を大人に相談すると、いじめられないように学級会を開こうとか言われたり、貴方もきちんと嫌な事は嫌だと言わないと駄目、と言われてしまう。
学級会なんてもので、何も知らないクラスメイトにまで巻き込んで、大仰な話し合いをして欲しいなんて望んでいない。
先生は、クラスの皆が仲良く過ごして欲しいと思っているようだったが、スコールは自分をいじめる子と仲良くしたいなんて思わなかったし、いじめられなければ、自分が辛い思いをする事がなくなればそれだけで良かったのに、それでは駄目だと先生は言う。
自分の意思を言えなんてものは、一朝一夕で出来るものではなく、自分を小さくして隠れている事が処世術であったスコールには、海を一足飛びで越えて、見えない島へ辿り着けと言われる程、難題であった。
そんな調子だから、スコールはどんどん意志を示さなくなり、その方が今以上に哀しい事も起きない事を学び、段々と無口になって行った。

スコールが露骨ないじめに遭っていたのは、小学生の頃まで。
中学生に上がる時、スコールは学区外の進学校に入学した。
地域ではそれなりに高レベルと言われている進学校に進むのはスコールだけで、殆どの児童は学区内、それ以外も別の中学校へ進んだ。
お陰でスコールは、自分の過去を誰一人知らない場所で、新たな生活を始める事が出来た。

その頃にはスコールはすっかり無口になり、対人関係への消極的さもあって、友人と呼べるものは殆どいなかった。
いじめられなければそれで良い、嫌な思いをする事がなければそれで良い。
そんな気持ちで中学校の三年間を過ごし、高校もまた、レベルの高い場所に受験する事を決めた。

高校の入学試験の際、最も優れた成績で入学を果たしたスコールは、新入生代表の挨拶を任された。
誰にも見付からないように隠れ過ごしていたスコールにとって、出来れば嫌だと言いたい話ではあったが、相変わらずそんな事が言える筈もなく、なし崩しに引き受ける事となる。
幸いなのは、挨拶文は今まで行われてきたものを参考にと見せて貰える事が出来たので、それを部分的に改変するだけで済んだと言う事だ。

そして、入学式の直前、スコールは他の生徒よりも一足早く学校へ入り、生徒会役員の先輩に案内されて、式辞の際の段取りを聞いていた。
普通は教師がこうした案内を行うようだが、この学校では生徒の自主性が重んじられており、何事も生徒が率先して行動する事に重きを置いているらしい────それはともかく。
未だに人前に出る事への憂鬱さは拭えなかったスコールは、案内の時分から緊張と不安で顔色が青くなっており、生徒会役員からも随分と心配された。
「大丈夫?」と聞かれ、なんとか小さく頷く事は出来たが、顔色の悪さは変わらない。
そんなスコールに、一人の少女が、「何かあったら、私達がついてるから」と微笑んで、彼の体温の低くなった手を握った。
それが、当時二年生の書記を務めていた、ティナ・ブランフォードである。




新入生代表を務めたと言う経緯から、スコールは一年生になって早々、生徒会役員に推された。
推薦で名前を出された時、心の底から「は!?」と思ったが、反対意見が出る事もなければ、他に推薦者も出ず、当然ながら立候補などいる訳もなく。
その後、他のクラスからも選出された役員候補を含め、一年生全体で、学年代表ともなる生徒会役員選挙が行われる筈だったのだが、前述の通り、クラスメイトの事も判らなければ、学校のこれからの事も知る筈のない新入生に、それ程意欲がある筈もなく。
立候補者が定員内で治まってしまった為、貧乏クジを引かされる形で、スコールは生徒会に所属する事になった。

正直、死ぬほど面倒臭いと思っていたのだが、予想に反して、生徒会の空気は然程悪くない。
想像していたような厳格なものではなく、かと言って無法地帯になっている訳でも、絶対的な権限で圧政を働いている訳でもない。
大きな行事の時には忙しさで嫌気も差すが、生徒会室の雰囲気はいつでも明るく和やかだ。
ゲーム機の持ち込みなど、校則に引っ掛からない範囲───授業中に遊ぶとか───であれば許されている為、備品のテレビを使ってちゃっかり遊んでいる者もいたりする。
スコールも、暇があればカードゲームに興じる余裕が許されていたので、妙に気合の入った先輩がいると言う噂のある体育委員や、お局先生がいると噂の美化委員に入るよりも良かった、と思っている。

そんなこんなで、意外と悪くない生徒会生活を送りながら、スコールは二年生になる。
クラス代表とも言える生徒会役員を、改めて考え決めると言う話し合いがクラスで催されたが、結果はスコールの予想通り、「経験のある人間が良いだろう」と言う事で、引き続きスコールになった。
大体、生徒会役員は各学年ごとの立候補と選挙で決められているのに、一人だけ話し合いで下ろされる可能性があると言うのが可笑しいのだ。
この辺りは、学級会好きのクラス担任が、議題のネタが尽きたので、無理矢理持って来た議題なのではないかと噂されている。
一体何の為に開かれた話し合いなのか判りもしない、とスコールは胸中で愚痴るが、結果的にはそれで良かったとも思う。
一年間を其処で過ごし、特に大きなミスもなく───勿論、其処には他の生徒会役員の補助もあった事は忘れていない───やり通したのに、急に下ろされ、勝手の判らない場所に飛ばされても、スコールには困るだけだからだ。

クラスで改めて生徒会役員を決める話し合いがある事は、生徒会の諸メンバーにも伝えてある。
隣のクラスで同じく生徒会役員となっていたジタンと、三年で新生徒会長となったバッツからは、やめるなよまた一年一緒にいようよと泣き付かれたが、話し合いは担任が言い出した事だから仕方がない、と一蹴した。
結果的に、その涙は全くの無意味であった訳だが。
改めてスコールが生徒会を継続する事を聞いたら、彼等はまた、大袈裟に喜んでみせるのだろう。
そんなに騒ぐ必要もないだろうに、と嘆息しつつ、スコールは三日ぶりに生徒会室のドアを開けた。


「あ、スコール」


生徒会室にいたのは、三年生のティナだった。
男ばかりの生徒会にあって、ティナは唯一の女子生徒である。
その為か、生徒会のメンバーは揃いも揃ってティナに甘いが、それも無理はない。
亜麻色の髪にリボンを結び、ふわふわと柔らかく笑う少女を見ていると、守りたい、と思う。
それでいて彼女は芯が強い所があり、包容力もあって、下級生からは「姉になって欲しい人№1」と言われていたりする。

スコールは肩にかけていた鞄を下ろし、黒板を掃除しているティナを見た。
ティナが毎日綺麗に掃除しているお陰で、黒板は使われた形跡もない程ピカピカだ。
掃除の最後には、黒板消しを叩いてチョーク粉を飛ばしているので、こちらもいつも綺麗に保たれている。

ぽんぽんぽん、と窓辺で黒板消しを叩く音がする。
スコールはしばらく、ぼんやりとその後ろ姿を見ていたが、彼女のふわふわと揺れる赤いリボンが何かに似ている気がして、何だったかと首を捻る。
くるりと辺りを見回すと、木箱のロッカーの上に飾られた、赤い花を見付けた。
窓から滑り込む風にふわふわと揺れる花弁に、ああ、と納得し、


「……花瓶の水、替えて来る」
「あ、待って、私も行くわ」


ティナは黒板消しを元の場所に戻すと、小走りでスコールを負う。

ロッカーに飾られた花瓶は、大小の二つがある。
一つは一輪挿しのアクリル製で軽いもの、もう一つは大きな陶器製で重い。
スコールは陶器の花瓶を持って、出入口へと向かった。
一輪挿しの花瓶を持ったティナがドアを開けてくれ、すまない、と言って廊下に出る。

最寄の手洗い場へと向かう道すがら、ティナが嬉しそうに言った。


「ジタンから聞いたわ。今年の生徒会役員、スコールのままだって」
「…ああ」
「ふふ、良かった。スコールがいなくなっちゃうと寂しいものね」
「……大袈裟だ。誰がなっても同じだろ、こんな役」


言いながら、同じと言う程同じではないか、とも思う。

往々にして貧乏クジと思われ勝ちな生徒会役員だが、それなりに美味い事もある。
教師の評価や成績と言ったベタなものもあるが、自由な校風と言うモットーと、恵まれた諸先輩の影響か、この学校の生徒会は、イメージ程堅苦しくはない。
しかし、それなりに行動力と責任感のある人間でなければ、行事の時の忙しさにはついて行けないだろう。
メンバーも前年度からの引き継ぎが多い為、それぞれの人となりを知っており、連携もスムーズに行えなければ、この学校の生徒会は回らない。
此処に来て、二年生で会計を務めるスコールが抜けるのは、生徒会にとっても痛手だったかも知れない。

手洗い場で花瓶から花を抜き、花瓶の水を全て棄てる。
水道水を入れて、簡単に水洗いを済ませ、また花を活けた。
濡れた花瓶をハンカチで軽く吹き、滑り落とさないように気を付けながら、生徒会室へと戻る。


「よいしょ…っと」


ティナが花瓶をロッカーに置く。
一輪挿しの花がきちんと見えるように角度を調整するのを見て、スコールも陶器の花瓶を回し、花の角度を変える。

一仕事を終えて教室に向き直るが、相変わらず其処は無人であった。
スコールが時計を見ると、そろそろ会議が始まる時間なのだが、


「誰も来ないね」
「……ジタンとティーダは遅刻する」
「そうなの?」
「テストで赤点になったからな」


春休み開けの試験で早々に赤点を喰らった仲間達に、スコールは呆れるばかりだ。
休みの間、気を付けろと言っていたのに、と溜息を吐くスコールの隣で、ティナがくすくすと笑う。


「大変ね、二人とも」
「自業自得だ」
「ふふふ。でも、そっか。そうなんだ」


遅くなるんだね、とティナが何処か楽しそうに言う。
あの二人の赤点なんて珍しくもないのに、何がそんなに面白かったんだ、とスコールが首を傾げていると、


「あのね、スコール。バッツとフリオニールもね、今日は遅いの」
「バッツはともかく、フリオニールもか?」
「サッカー部の練習試合があって、助っ人が断れなかったみたい」
「…ああ。ティーダもそんな事言ってたな。補習で行けなかったけど」


サッカーがあるのに!と泣きながら補習授業を受けていたティーダ。
生徒会役員でありながら、サッカー部にも所属し、どちらも両立させるように奮闘しているティーダの事は尊敬する。
が、其処で勉強ももう一つ頑張ってくれれば、言う事はないのに、と言うのはティーダのクラスの担任の言葉だ。
全く以て、ご最も、とスコールも思う。

現三年生で生徒会副会長を任されているフリオニールは、そんなティーダの穴埋めに呼ばれたに違いない。
彼はティーダの練習相手をよく努めている為、サッカー部エースと渡り合える数少ない人材だ。
サッカー部としては、是非とも入部してティーダと共に活躍して欲しい所だろうが、フリオニールは生徒会で手一杯だから、と断っている。
その割に、サッカー部のみならず、色々な運動部から助っ人を頼まれては、断れずに引き摺られて行ってしまうので、実質的に彼は複数の運動部と生徒会を掛け持ちしているような形になっている。


「……それで、バッツは?」


フリオニールの事を聞いたので、ついでに、とスコールは訊ねた。
ティナは眉尻を下げて、少し困ったように笑いながら答える。


「ホームルームが終わったら、マティウス先生に捕まっちゃった」
「また何かしたのか?」
「今日は何もなかったと思うけど……数学の時にいなかったから、その所為かなあ。マティウス先生は厳しい人だから」


生徒会長であるバッツだが、彼は非常に落ち着きがない。
サボり同然にいつの間にか姿を眩まし、かと思えばいつの間にか戻って来ている。
かと言って素行不良と言う程でもなく、要領が良いのか、成績もちゃっかり上位に食い込んでおり、教師としては下手な不良より反って扱い辛いと定評があった。
視野が広く、何事も器用に卒なく熟し、気さくな性格もあって同級下級生問わずに人気が高く、昨年度に晴れて新生徒会長として選ばれたのだが、その後も彼の落ち着きのなさは相変わらずだった。

そんなバッツを目の仇にしているのが、三年生の数学を担当しているマティウスである。
授業のサボりは勿論、居眠りや忘れ物にも厳しいマティウスは、風来坊気質のバッツを如何にして机に縫い止めるか頭を悩ませているらしい。
今の所、自由度の高いバッツが白星を稼いでいるようだが、偶に捕まると、サボりの罰として大量の補習プリントを課しているようだ。

今日のバッツは、そのプリントが終わるまで、生徒会室には来られない。


(……これじゃ会議にはならないな)


ジタンとティーダは、バッツと同じく、補習授業。
此方も終わるまでは解放されない。
フリオニールはサッカー部の練習試合が終われば来るだろうが、いつ終わるのかはスコール達には判らなかった。

そんな訳で、生徒会室にいるのは、スコールとティナの二人だけ。
これでは会議も何も始まらないし、会長も副会長もいないのでは、会議の議題すら上がらない。


(……帰るか……?)


そんな事を考えていたスコールだったが、ふと、頬に何かが当たっているような気がして、目を向ける。
其処にはティナが立っており、彼女が自分に触れている事はなかったが、代わりに藤色の瞳がじっとスコールの顔を見詰めていた。


「………」
「……」
「…………」
「……ふふ」


見つめ合う形でスコールが固まっていると、ティナがふわりと笑う。
嬉しそうなその笑顔に、何が楽しいんだ、とスコールが益々混乱に固まっていると、


「スコールと二人っきりって、初めてね」
「……そう、だな」


ティナの言葉に、スコールは頷いた。

昨年は、前年度の三年生がおり、基本的に真面目揃いであった為、別件の用事でもなければ、生徒会に遅刻してくる者はいなかった。
全生徒会長に至っては、生徒会が行われる日は、ホームルームが終わると直ぐに生徒会室に赴いていた程だ。
それでいて、自由な校風は今と変わらず、自由な中の文鎮役として構えており、バッツとは違うカリスマ性を備えていたものだ。

前年度が終わり、三年生が卒業し、生徒会役員は減った。
メンバーは引き継ぎ続投となったのだが、このメンバーも生徒会室に集まるのは吝かではないので、呼集率は高い。
今日はフリオニールが助っ人で遅くなるが、そうでなければ、彼も真面目な性格なので、スコールよりも早く来ている事は珍しくなかった。
加えて、スコールの周りには必ずと言って良いほど、ジタンやバッツ、ティーダがじゃれついているので、スコールがティナと二人きりで過ごす事がなかったのである。

其処まで考えて、スコールは改めて、現状に気付いた。
女子と二人きり。
特別な間柄ではないとは言え、思春期真っ只中の少年には、中々緊張する状況だ。
途端に落ち付かない気分になって、どうすれば、とスコールが視線を彷徨わせていると、


「皆、まだ来ないかな」


時計を見て、ティナが言った。
倣ってスコールも時計を見ると、スコールが此処に来てから、30分が経っている。
ティーダとジタンの補習授業が終わるには、もう少しかかるだろう。
バッツとフリオニールの事は判らないが、グラウンドではまだ賑やかなサッカー部の声が聞こえるし、マティウスが教員用の下駄箱から出て行く姿も見えない。


「……多分、まだ、なんだろう」
「…そっか」


スコールの答えに、ティナは呟いて、もう一度スコールを見上げる。


「じゃあ、もう少しだけ、スコールを一人占め出来るのね」


そう言って微笑むティナに、スコールは再三固まった。
そのまま、ぽこぽこと頬を赤らめて行く後輩に、かわいい、とティナが思っている事を、スコールは知らない。





6月8日なのでティナスコ。
うちのティナはスコールを見るのが好きだな。可愛いから仕方ない。

前生徒会3年:ウォル、セシル、クラウド
現生徒会3年:バッツ、フリオニール、ティナ
現生徒会2年:スコール、ジタン、ティーダ
参加予定の1年:ルーネス(まだ1年生の役員は決まっていない)
……と言う、どうでも良い詳細設定。すごく眩しい生徒会だ。

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