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[バツスコ]名残の熱に

  • 2020/05/08 22:00
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放つ為に蓄積された魔力は、コントロールを誤れば、暴走に至る事もある。
それは高威力の魔法である程起こり得るもので、故にそう言った魔法を使う時には、そうしたリスクも考えた上で準備に入らなければならない。
戦闘中であれば尚の事、機転の早さ、その判断も大事で、若しも正当なルートでの放出が叶わないのであれば、大なり小なりの犠牲を伴った上で、手順を短縮化させて放つ事も考えなくてはならないのだ。
そうしなければ、巨大な魔力を抱えた無防備な格好のまま、敵の攻撃を食らう羽目になってしまう。

そうした理屈はイミテーションも同じようで、上位格の固体程、強力な一撃を仕掛ける事に慎重になる。
格下のイミテーションは、そもそも扱える魔力量が多くはないのか、思考力も弱い一因になるのか、余り大技を使ってくる事はなかった。
しかし、中には“変異種”と呼ばれる固体が存在する。
イミテーションは固体によって多少の性格の差異はあれど、基本的には模倣された人物の行動パターンに則って仕掛けて来る。
“変異種”はその法則を無視し、全く別のパターンや、特定の行動に固執したような動きを見せるものがあった。
中には特大の攻撃を仕掛ける事に躍起になる固体もあり、これらが複数の下位・上位イミテーションを従えた形で襲ってくると、戦況を引っ掻き回す非常に厄介な存在になってしまう。

バッツ、スコール、ジタンの三人を襲ったのは、皇帝のイミテーションだった。
他にティナ、クジャ、ケフカと言った、魔法に抜きん出た人形達を従えて来た暴君は、前衛を人形達に任せ、自身は後衛を陣取ってフレアを乱発して来た。
ターゲットを追尾する性能を持ったフレアが、魔法が飛び交う中に追って来るのだから、厄介極まりない。
魔法の扱えるバッツが遠方から撃破を狙ったが、他のイミテーション達が常に付きまとってくるので、まともに狙いが付けられない。
とにかく雑兵を片付けなければ話にならないと、三人三様に散って只管人形を砕き続けた。
その甲斐あって、人海戦術さながらであった人形の軍勢は数を減らし、暴君を射程圏に捉える事が出来た。
だが、その時既に暴君は、極大魔法の術式を完成させていた。
次元の彼方より呼び寄せた隕石を頭上に召喚し、自身を中心とした数百メートル圏内を吹き飛ばす、凶悪な魔法だ。
それを発動させる訳には行かないと、ジタンがその懐に飛び込み、短刀をガラスの胸に突き刺した。
致命傷となったその一撃により、暴君はノイズ混じりの断末魔を上げながら絶命した。
────それと同時に、完成済みの術式に蓄積された魔力が、出口を求めて暴走し、破裂したのである。

爆心地に最も近い位置にいたジタンは、一瞬、自分の周囲が真空化したように感じた。
その直後、飽和した大量の魔力は、周囲の空気を押し、極小規模の範囲に爆風を起こした。
周囲の空気全体が外側に向かって強烈な力を持って流れる動きに対し、人間は余りにも非力である。
爆風に対し身構える余裕もなく、周囲のイミテーションと戦っていたバッツとスコールは、囲んでいたイミテーション諸共、その身を宙へと放り出された。
そして直ぐ傍に聳えていた崖の下へと、落下したのであった。

───落ちる瞬間と言うものは、どうにもバッツにとって鬼門であった。
足が地面についていない不安定感や、中空にいる時の曖昧な重力感も苦手なのだが、何より嫌いなのは落下の瞬間だ。
宙にあって自由にならない体が、唯一判る、“下”へ吸い込まれていく恐怖とでも言うのか。
幼心に根付いたトラウマもあって、その感覚に襲われると、本能が防御か拒否反応でも示すかのように、バッツの躰は硬直する。
その状態のままで地面に叩きつけられたので、受け身も取れず、バッツは一瞬意識が飛んだ。
が、幸いにもそれは一瞬の事で、打ち付けた肩の痛みを直ぐに自覚して、目を開ける事は出来た。


「ってぇ~……」


じんじんと痛む肩を逆の手で押さえながら、バッツはのろのろと起き上がる。
何処にどう落ちたのかと首を巡らせると、前には遠く見下ろす森と、後ろには崖があった。
どうやら、崖の途中が出っ張っていたようで、遠い地面にまで落ちる事は免れたようだ。

からん、と頭上から落ちて来た小さな石が音を立てて、その方向に目を向けると、黒衣の少年が倒れている。
バッツは急いで立ち上がると、その傍らへと駆け寄った。


「スコール!」


一緒に吹き飛ばされて落ちたのだろうその名を呼ぶと、投げ出されていた指先が動いた。
眉間の皺を寄せて、小さく呻く音を漏らしながら、ゆっくりと睫毛が持ち上がる。


「う……、バッツ……?」
「うん。大丈夫か?起きれる?」
「……いっ……!」


バッツの言葉に行動で示そうと、起き上がろうとして、スコールは顔を顰めた。
何処か怪我をしたのか、とバッツがスコールの躰の状態を確認すると、スコールは苦い表情で自分の右足を睨んだ。


「…く……っ」
「ああ、無理するなよ。えーと……あそこに取り敢えず、座るか。おれが運んでやるから、じっとしてろよ」


バッツはスコールに動かないように釘を刺してから、ゆっくりとその体を抱え起こした。
その間に患部と思しき右足をゆっくりと動かして、スコールの表情が小さく顰められる様子を確認する。
抱き上げられると運ぶのも楽だったのだが、バッツの痛む肩がそれをさせてはくれなかった。
仕方なく肩を貸しながらそっと立ち上がらせ、スコールの足を引き摺りながら崖壁の前へと移動し、スコールを座らせる。

スコールは崖に背を預けて、ふう、と息を吐いた。
その額にじんわりと汗が滲んでいるのを見て、結構痛いのかも知れない、とバッツは考える。
スコールはじりじりと足を寄せると、靴と靴下を脱いで、ズボンの裾を持ち上げた。
露わになったのは、薄紫色を帯びた足首で、見た瞬間にこれは駄目な奴だとバッツは勿論、スコールも悟った。


「うわ、痛いな。回復───したいけど、ごめん。おれガス欠だ……」
「……だろうな」


バッツの魔力は、ケアルも使えない程に枯渇していた。
大量のイミテーションを相手にしていたのだから、体力も魔力も殆ど空っぽになっているのは無理もない。
しかし、スコールの足が回復できないとなると、二人がこの崖の中腹から移動する事は困難だ。
せめて回復魔法一回分の魔力があれば、スコールの足か、バッツの肩を治して、一人を背負って崖を上る事も出来るのに。

となると、頼みの綱は、此処にはいないジタンだ。
彼は爆風の最も中心地に近い場所にいたから、バッツ達よりも吹き飛ばされているかも知れない。
そんな彼が、崖の中腹に取り残された二人を見付けられるのか、そもそも彼も無事でいるのかと、バッツが思案していると、


「おーい!スコール、バッツ!いるかー!」


頭上から聞こえて来たよく通る声に、バッツとスコールは顔を上げた。
直ぐにバッツは立ち上がり、頭上数メートルの崖上ぬ向かって声を張る。


「ジターン!ジタン、おれ達ここだぞー!」
「バッツ!バッツか!」


耳の良い彼は直ぐにバッツの声を聞き留め、何処だ、と繰り返し仲間の名を呼ぶ。
こっちだこっちだ、とバッツが呼び続けると、次第に崖上から聞こえる呼ぶ声が近くなって来る。
ひょこり、と小さな影が崖上に現れたのを見て、バッツは大きく左腕を振って存在をアピールした。


「ジタン!」
「バッツ!スコールも一緒か!」


仲間達の姿を見付け、声を弾ませるジタンに、スコールも右手を上げて返事をする。


「良かった。さっきの爆発で下まで落ちたのかと思ったぜ」
「ジタンはなんともなかったのか?」
「吹っ飛ばされたけど、そうだな。お前らとは反対側だったからさ、戻ってくるのにちょっと時間かかったけど。二人とも登って来れるか?」
「いやー、厳しい。おれ、肩が上がんなくてさ。スコールは足やっちゃってて」
「マジか。オレも手首捻ってるんだよ」


ジタンの言葉に、バッツは眉尻を下げ、スコールは溜息を吐く。
頼みの綱であったジタンが崖上で無事である事は幸いだったが、やはり無傷と言う訳にはいかなかったようだ。


「どうするかな。そうだ、モーグリショップが近かった筈だ。ポーション買ってくるよ。ついでに他に使えそうな物も」
「分かった。おれ達は此処で待ってるよ。ジタンも無理するなよ!」
「大丈夫、大丈夫。なるべく早く戻ってくるからな!」


そう言うと、崖上の小さな影は直ぐに見えなくなった。
どうやら健脚は無事なようで、疲労はあるだろうが、彼の足なら最寄のモーグリショップまでそう時間はかからないだろう。
問題は道中で新たな敵や魔物に襲われないかと言う事だが、こればかりはバッツ達には祈るしかない。

ともあれ、ジタンのお陰で救助の道は担保された。
バッツの枯渇した魔力の回復は、ケアル一回分と言えど、当分の時間を要するだろうから、ジタンが動ける状態であった事は幸いであった。
後はジタンが戻ってくるまで、出来るだけ体力を消耗しないように、休息に徹するのが良いだろう。

ふう、と一つ息を吐いて肩の力を抜き、バッツは足元に座った。


「ジタンが無事で良かったな。スコールも、足の他は何ともない?大丈夫そうか?」
「……今の所は」
「ケアルが出来るようになったら、スコールの足、直ぐ治してやるからな」


笑いかけるバッツの言葉に、スコールは小さく「……ん」と返事をした。

ジタンが戻って来て、崖の上に上がれたら、聖域まで戻る為に歩かなければならない。
ジタンがポーションを購入してくれば状態は良くなるが、それで完治するとも思えなかった。
此処から聖域に戻るまで、それなりの距離がある事を思うと、スコールの足は出来るだけ早く治しておくべきものだ。
スコールの足は、動かすだけで痛みを伴うようで、彼は出来るだけ刺激をしないように、足を動かさないように努めている。
この状態だと上に上がるのも自力は辛いかも知れないなあ、とバッツが思っていると、


「…バッツ」
「ん?」
「あんたも、怪我」


スコールがバッツの顔へと腕を伸ばす。
その指先が、バッツの口元に触れるか触れないかの所で止まった。

バッツが口元に手を遣ると、ちりりとした痛みがあって、指先にじんわりと液体の感触が伝った。
見れば指先に鮮やかな赤色が付着しており、口蓋の下部が薄く切れているようだ。


「ああ、平気だよこれくらい。舐めときゃ治るって」


戦闘中に切ったのか、崖から落ちた時のものなのかは判らないが、何れにしろ大した事ではない。
スコールの足の怪我に比べれば、わざわざ治癒しなければと言う物でもなかった。
心配しなくて大丈夫だとバッツが笑いかけると、「…そうか」と呟きが零れ、じゃり、と土が擦れる音が小さく鳴る。

スコールの背が崖の壁から離れて、バッツへと近付く。
蒼灰色の瞳が柔らかく細められているのを見て、バッツはぱちりと瞬きを一つ。
スコールのその表情は見覚えのあるもので、いつもなら夜、二人きりの時に見ているもので────


「……ん、」


仄かな熱を孕んだ瞳がバッツの視界を埋め尽くす中、弾力のあるものがバッツの唇をくすぐった。

え、とバッツが目を丸くした時には、蒼の瞳はすいと逃げていた。
壁に背を預け直したスコールは、明後日の方向を向いており、瞳の代わりに赤い耳が髪の隙間から見えている。
バッツの口元には微かに濡れた感触が残り、徐に其処に指を当てると、血の感触はもうなくなっていた。

スコールが何をしたのか、自分が何をされたのかを理解して、バッツは一気に自分の体が熱くなるのを感じた。
戦闘の後の疲労と高揚が混じり合ったような熱が湧き上がるのを自覚しながら、バッツはそわそわとスコールの横顔を見詰める。
恐らく、スコールも同じものを抱いている。
だからこその大胆な行動なのだと、バッツも判っていた。


「スコールぅ~」
「……」
「キスしたい。して良い?」
「……却下」


素っ気ないスコールの返事に、なんで、とバッツが唇を尖らせる。
スコールはそんなバッツの反応を横目に見て、


「……これ以上は、止まらなくなるから、駄目だ」


熱の名残を残した体と、動物の本能を悪戯に刺激する血の感触。
そんな事に意識を傾けていられる程、悠長な状況ではないのだが、しかし今は大人しく時を待つしかない。
足の速い仲間がいつ戻ってくるかは勿論、体力を消耗しない為にも、静かに休息にしているのが一番だ。

だから駄目だと言うスコールに、じゃあ帰ってからなら良いのか───とバッツは聞かなかった。
聞くのはきっと野暮だろうと飲み込みながら、バッツはそわそわと、赤い耳へと食いつきたい衝動を堪えるのだった。





5月8日と言う事でバツスコ!

戦闘の後なので昂っているのと、バッツの血を見てじわじわ興奮していたスコールです。
そんなスコールに煽られたのでバッツも興奮してますが、此処はぐっと我慢です。
我慢してれば後が美味しい。

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