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[クラレオ]ドランク・プレイ

  • 2020/06/02 20:38
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レオンがあまり酒に強くない事は、クラウドもよく知っている。
しかし全く飲めない程に弱いとか、そもそも味が駄目、と言う訳でもない事も判っていた。

故郷を失い、シドの下で身を寄せ合って成長して来た少年少女達の中で、彼は一番の年長者だった。
当然、最初に成人の年齢を迎えたのも彼であったが、彼は“大人だから出来る”娯楽や歓楽の類は基本的に興味を持たなかった。
所謂、酒、博打、女、と言うものだ。
成人でなくとも興味があれば手を出してしまい勝ちな享楽であるが、彼はそれらについて根本的に無関心であり、それよりも自身の無力を覆す為の努力に必死だった。
ストイック過ぎて、肩に力が入り過ぎているんじゃないかと、放任主義を宣うシドが真面目に心配した位だ。
その肩の力を抜かせる為にと、シドが気晴らしにどうだと酒を勧める事がなければ、今でも彼は酒の味を知らなかったのではないだろうか。

レオンが酒に弱いのは、多分遺伝的な体質だろうとシドが言っていた。
シドが知っている彼の父親も、息子同様、酒に弱かったらしい。
平時から賑やかな人物だったらしいが、アルコールが入ると一層口がよく回り、相手に喋らせる暇を与えない程によく喋るようになったそうだ。
だが、体質は受け継いでいても、酔った時の言動は父親とは違ったようで、レオンの場合はぼんやりとする表情が増える。
言葉数も───比較的多弁にはなるが、何せ普段が積極的に喋る性質ではない───少ないもので、相手の会話に対する相槌の回数が増える位だろうか。
そしていつの間にか、静かに眠りに就いている、と言うのが、皆がよく知るレオンの酔っ払うパターンであった。

クラウドが酒の味を知ったのは、レオンよりもずっと早い。
レオンが成人するよりも前、つまりはまだクラウドが15歳そこらの時に、彼はちゃっかり飲酒をした。
生活に必要な資金を作って行く為、トラヴァーズタウンで道具屋を始める為の準備をし、それに疲れたシドが酒を飲みながら寝落ちていた。
そう言う時、大抵はレオンかエアリスが片付けをしているのだが、その日は二人も、ユフィも準備の手伝いで疲れ切っており、台所は散らかったままだったのだ。
其処にのっそり目を覚ましたクラウドが来て、出しっぱなしになっていた酒の瓶に好奇心が惹かれ、保護者の目を盗んで初めての飲酒をした。
正直、その時の事は余り良くない思い出で、詰まる所、初めての酒を旨いとは思わなかった訳だが、その晩、ふわふわとした気分で眠れたのが少し心地が良かった。
それ以来、保護者の目を盗んでこっそりと、グラスの底数ミリ分の酒を舐めるように飲んでいた。
そんな事をしている内に、酒の味わい方と言うものを覚えて来て、舌もそれに慣れて行き、成人する頃にはそこそこ酒に強くなっていた。
成人祝いだとシドが持ってきた酒を、平然と飲んで行く様子から、知らない訳じゃねえなと過去の功罪についてバレてしまったが、シドとて若い内に似たような事をしていた口だと言う。
自分の限界は把握しとけよ、とだけ言って、彼はそれ以上は言わなかった。

自分の酒量の限界と言うものを、クラウドは勿論、レオンも理解しているつもりだ。
だが、判っているからと、いつもそれを守れるかと言われると微妙な所である。
気分の良い酒はついつい杯が捗るし、疲れが溜まっていれば、少しの量で目が回る事もある。
レオンがよく失敗するのは後者の方で、様々な要因から疲労を貯めた体が、アルコールの齎す緩みを受けて、よく表面化する。
レオンの平時は眠りが浅く、自警団的な真似をしていたトラヴァーズタウンでは、何かあれば直ぐに飛び出せるように構える癖がついているからなのだが、故郷に帰って来た今でも、彼のその癖は変わっていない。
帰って来たホロウバスティオンでも、黒い影は蠢いており、その被害は後を絶たないから無理もない事ではあるのだが、かと言って常に緊張の糸を張っていれば、体が本当の休息にありつけず、疲労を溜め込んでしまう事になる。
そんな彼を熟睡させる為に、シドは意図的に彼を酒の席へと誘うのだが────


(……あんたまで寝潰れてどうするんだ)


偶々ホロウバスティオンに戻って来たクラウドがユフィに捕まり、引き摺るようにハートレス退治へと駆り出されたのが、今日の正午頃。
それからなんだかんだと過ごした末に、エアリスが夕飯を作ってくれたから食っていけ、とレオンに引き摺られて、『再建委員会』なる彼等の拠点である魔法使いの家に連れていかれたのが、夕方。
食事も終わって、寝床は借りられるだろうかとレオンに打診しようとして、ちょっと付き合え、とレオン諸共シドに捕まったのが、今から約二時間前の事。

クラウドの前には、平時は会議なり食卓なりと使っているラウンドテーブルに突っ伏し、健やかな寝息を立てているレオンと、椅子の背凭れに寄り掛かって天井を仰ぎ、豪快な鼾を掻いているシドがいる。
前者はそう言う目的で飲ませたのだろうから仕方がないとして、後者は少し無責任ではないかと思う。


(まあ、パターンとして判っちゃいたが)


シドが気分の良い酒を飲んだ後、寝潰れるのはよくある事だ。
レオンと二人きりで飲んでいて、彼を寝かせる目的で誘ったのなら、敢えて酒量をセーブする事も出来るのだが、今日はクラウドもいる。
後の事はクラウドに任せておけば良いと、どんどんビールのタブを開けていた。
それだけ、シドも酒に焦がれる程、疲れが溜まっていたと言う事だ。

クラウドも世界を渡る生活をしていて、疲れていない訳ではないのだが、反面、故郷の事を幼馴染達に押し付ける形になっている事は判っている。
本当は猫の手も借りたい程に日々を追われているレオン達に対して、自分は気紛れに帰って来た時、得意分野での仕事を求められている程度なのだ。
罪悪感と言う程ではないが、一人でやりたい事をやらせて貰っている分、偶の仕事の押し付け位は飲み込んで置こう、と思う程度には、彼等を労う気にはなる。

クラウドは余りキッチンへの出入りをしないので、下手な事はしないように、食器類はシンクに纏めて水に浸けておくに留めた。
明日になったら、エアリスかユフィが片付けるか、魔法使いがなんとかしてしまうだろう。
それからシドを寝室へと運び、物で溢れたベッドの上に転がして、次はレオンの下へ向かう。

────と、突っ伏していたレオンが顔を上げ、猫手で目元を擦っていた。


「起きたのか」
「…んん……」


起きてくれるのならその方が楽だと、クラウドが声をかけてみると、むずがる声が聞こえた。
眠い目を擦りながら、レオンがきょろきょろと辺りを見回し、クラウドを見付ける。
その目はとろりと柔らかく蕩けており、酔っている事が判り易く表れていた。


「……クラウド」
「ああ。シドは部屋に放り込んだ。あんたも帰って寝ろ」
「……そうか……」


一拍遅れた反応を返しながら、しかし一応、クラウドの言葉を理解はしたらしい。
レオンは両手をテーブルについて、重そうな体をゆっくりと持ち上げる。
頭の芯は大分ぼやけているようで、次の一歩を踏み出すまでに随分と時間がかかった。

レオンは片手を顔に当てて、ふらふらと、重い一歩を少しずつ踏み出す。
と、足元に転がっていた一冊の本に爪先が引っ掛かって、それだけで彼はバランスを崩した。


「おい!」
「う」


咄嗟にクラウドが腕を伸ばし、無防備に倒れ込もうとするレオンの躰を掴んで掬う。
そのままだらんと脱力したレオンに、これは駄目だとクラウドも判断せざるを得なかった。


「ああもう……あんた、どれだけ溜めてたんだ」
「……ん……?」
「ストレスの話だ。あんたがそうなる時は、大体そうだと決まってる」


言いながらクラウドは、レオンの腕を肩に回し、彼の重い脚を引き摺りながら外へ向かおうとする。
が、そのクラウドの足に、レオンの足が引っ掛けられて、二人揃って地面に倒れる羽目になった。


「いった……おい、今引っ掛けただろ」
「ふ……くく……」
「この酔っ払いめ」


くつくつと笑うレオンの肩を見て、意図的とは質の悪い、とクラウドは呆れる。
普段はこうした悪戯を諫める方である彼が、その役割を放り投げている。
これでは帰るまでの家路が非常に遠くて面倒臭い、とクラウドは独りで起き上がり、床に座って深々と溜息を吐いた。


「同じ事をするなら、このまま放っとくぞ」
「それは、嫌だな。明日エアリス達に怒られる」
「じゃあ歩け」
「運べ」
「もう少ししおらしく頼んでみろ」


歩く気はないと、片手を伸ばして命令口調で言う年上の幼馴染に、クラウドは言い返した。
頼みを聞いてやる気になるように言い直せ、と。

すると、レオンは床に転んだままでしばし考える素振りを見せた後、のろりと起き上がる。
酒宴の前に、オンオフの切り替えなのか、手袋を外していた手が、ぺたりと床についた。
猫が近付くような仕草でレオンはクラウドへと身を寄せると、


「運べ、クラウド」


しおらしさ等とは程遠い、相変わらずの命令口調。
それから、ちろりとクラウドの耳元を舌が擽って、ぞわりとした感覚がクラウドの背を襲う。
その感覚は嫌悪の類ではなく、熱が一ヵ所に集まる時に起こるもの。

全く今日の酔っ払い方は質が悪いと、クラウドは鼻の先にいる年上の幼馴染を見て改めて思う。
だが、それだけレオンがストレスを溜めていたサインでもあると思うと、振り払うには少々ばつが悪い。
こんな状態にでもならなければ、そうやって自分を苛めるような事をしなければ、まともに眠れない程に疲弊している癖に、彼自身はそんな自分に気付かないと言う悪循環を知っているから、尚更。

クラウドは建物の奥へと続く扉を、ちらりと見遣る。
それから外への玄関口も見て、今の所は人の気配はなく、邪魔はないだろうと思う事にする。


「…あんたみたいな図体の奴を家まで運ぶなんて面倒だ」
「お前なら楽勝だろう。馬鹿力なんだから」
「あんたが邪魔をしなければな」


寝落ちたレオンを背負って彼のアパートまで連れて行った事は、これまでにも何度かある。
だから、悪戯なんて事をしなければ、運んでやっても良かったのだ。
しかし当の本人が協力を妨げる気ならば、此方も考えると言うもので。


「大人しくしていられたら、後で運んでやる」
「そうか。……どうするかな」
「好きにしていろ。俺も好きにする」


そう言いながら、クラウドはレオンのシャツをたくし上げた。
平時ならば即飛んで来る筈の咎める言葉はなく、くすくすと笑う声だけがクラウドの耳を擽る。

触れればその手が冷たかったのだろう、レオンの体が僅かに捩られて逃げを打つ。
抵抗らしい抵抗と言えばそれ位のもので、唇を重ねても、その奥へと侵入しても、レオンは受け入れた。
それ所かクラウドが促す前に、彼のフロントは緩められて、さっさと寄越せと言わんばかりだ。

其処までしている癖に、朝になって酒が抜けたら、きっと彼は忘れているのだ。
こんな風に遊びじみた空気で興じた褥の事など、すっかり頭から抜け落ちて、いつもの真面目を被った貌をする。
どうせなら常にその貌をしていられる位に、根から染まっていれば良かったものを、彼はどう足掻いてもそんな風にはなれなかった。
酒の所為で、無自覚に押し殺していた本音が零れてしまう位には。


(本当に、性質の悪い)


酒も悪いし、本人も。
そして、判っていながら誘いを咎めない自分も。



何もかもが性質の悪い、酔っ払いが見ている夢なのだ。





酔っ払いレオンさんが見たくなったので。
クラウドの我儘やマイペースに振り回されるレオンが好きですが、その実、根っこの部分ではレオンの方が意外とクラウドを振り回していたり、二人きりだとレオンの方こそ依存しているクラレオが好きです。

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