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[バツスコ&ロクスコ]その代償は誰の手に

  • 2026/08/08 21:50
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

中世ファンタジーパロ(FF5世界ベース)




バッツがスコールを拾ったのは、三ヶ月ほど前のことだ。
墓参りに故郷へ行き、それも済んで山を下りている途中、道端に倒れているのを見付けた。
さすがにこれを放っておくのは寝覚めが悪いと、彼を担いで一旦故郷へ引き返した。
一晩後に彼は目覚め、どうしてあんな場所で倒れていたのか聞いてみたが、彼は一切合切を覚えていなかったのである。
少ない荷物からどうにか名前と思しきものを発見し、取り敢えずそれを彼の名前と据えた。
以後、行く宛も寄る辺もないスコールは、自分自身の欠片を探す為、バッツと同行することとなる。

バッツは元々、根っからの風来坊だ。
齢4つを数える頃に、母が亡くなり、父に連れられて旅の空で生きることになった。
故郷には折々に帰ることはあったが、結局父もバッツもそこで根を張るには至らず、実家は年単位で空き家である。
結局、15の時に父も旅先で逝ったことを切っ掛けに、故郷にあった家は売り、母の墓に父の骨を埋めた。
知り合いの多い場所だし、墓もあるしということで時折足を向けるようにはしているが、それもやはり、年単位で一度と言う程度のことだ。

一人旅だったバッツがスコールを伴うようになってから、二ヶ月が経った頃、新たな同行者が加わった。
トレジャーハンターを生業としているロックである。
旅の路銀を稼ぐ為、バッツが引き受けた魔物退治の依頼に、当該対象と一度遭遇していた事から、案内役として依頼人に紹介された。
魔物退治は無事に終わり、バッツは勿論、案内に同行したロックも、十分な報酬を貰っている。
しかし、ロックはそこで、自身の同行を提案したのだ。
急な話にスコールは判り易く顔を顰めたが、その彼の保護者的立場を担うバッツが、笑って良しと頷いたので閉口した。

三人旅となってから、道程はそれなりに順調だ。
旅慣れている人間が二人もいるし、スコールは記憶は定かではないが、どうやら旅自体は苦ではない。
向かう先は特段決めず、その時々の路銀の都合や、噂話を聞いて決めていることが多かった。

野営の準備を済ませ、バッツが作ったポタージュを夕飯にしながら、一行は広げた地図を覗き込んでいる。


「今がこの辺で、こっちがトゥールの村。それを過ぎて南下すると、タイクーン城がある」
「城に用があるのか?」
「まあ、なくもないけど。おれのはついでで、メインはスコールかな」
「……俺?」


スコールが顔を上げて眉根を寄せる。

スコールはいつもバッツに旅の行く先を預けている。
だから彼がそこへ行くと言うのなら、ついて行く他ないのだが、その方針の理由に自分が挙げられたのは、今回が初めてのことだった。

どういうことかと視線で問うスコールに、バッツは木器にポタージュをおかわりしながら答える。


「ここまで幾つか村や街に行ってみたけど、スコール、何も思い出さなかっただろ」
「……ああ」
「城とか城下町とか、そっちはまだ行ってなかったし。スコール、結構戦えるし、真面目なところあるから、城仕えでもしてたことがあるんじゃないかと思ってさ」
「……」
「タイクーンならおれの知り合いがいる。ちょっと話聞いて貰って、この辺りで行方不明の捜索願でも出てないか、確かめて貰うことも出来るよ」


バッツの言葉に、スコールは懐疑するように眉根を寄せる。
それで自分のことが果たして判るのだろうか、と。
だが、結局は今まで通り、バッツの方針に従う意を示した。


「あんたがそこに行くって言うなら、それで良い」
「他に何か見たいものがあるなら、そっちに向かっても良いんだぞ?」
「……何度も言ってるだろう。どこに何があるのかさっぱり判らないから、別に良い」


そう言ってスコールは、自分の器のポタージュを飲み干した。
バッツは「そっか」と言ってスコールの手から空の器を引き取る。


「ロックはどうだ?それで良いか?」
「ああ。俺も特に行きたい所が今ある訳じゃないしな。お前らに付き合うよ」
「じゃあ決まり。トゥールの村には、ここから三日くらいだ。そこで準備して、タイクーン城に向かおう。山の上にある城だから、ちょっと日がかかるんだ」


言いながらバッツは地図を片付ける。
それから十分もしない内にバッツも夕飯を終えた。

太陽が沈み切る前に、焚火に使う薪を拾い足す。
この辺りの森はゴブリンが巣を作っている所があるから、その襲撃を躱す為にも、火が欠かせない。
夜通し炎を絶やさない為に、見張り役が必要だった。


「じゃあ、最初は俺が見張りをするから、スコールとバッツは寝ろよ」
「そうしてくれるんなら、お言葉に甘えるか。次はおれを起こしてくれて良いよ」
「それならスコールは最後だな」
「……了解」


バッツとロックの遣り取りに、異論はない、とスコールは言った。

ロックは愛用のダガーを鞘から抜き、砥石と布を使って手入れを始めた。
スコールとバッツはそれぞれの荷袋から毛布を取り出して、焚火の傍で包まる。
今日もそれなりに長い距離を歩いたからか、程なく寝息が聞こえてくる。

ロックがダガーの刃の様子を確かめる傍ら、ちらと寝転んだ仲間たちを見ると、幼い寝顔がある───スコールのものだ。
その隣では、寝転んだバッツがいるが、こちらはまだ目が開いている。
褐色の瞳は空を見上げていたかと思ったら、隣に並ぶ寝顔を見て、おもむろにむくりと起き上がった。


「寝てるな、スコール」
「そうだな」


バッツはスコールの顔を覗き込み、普段の凛とした面立ちとは異なる、丸みのある頬をつつく。
一見すると硬いと思いきや、その頬肉は案外と柔らかい。
ふに、と指を軽く沈めた感触に、バッツはくすくすと笑いながら、スコールの寝顔を眺めている。

ロックも、すっかり熟睡している様子のスコールに、くつりと喉を鳴らした。


「ようやく、少しは懐いてくれたかな」
「ははは。そうかもな。まあそろそろ一月経つからなぁ」


ロックの呟きに、バッツは眉尻を下げて笑う。


「全然寝なかったもんな、最初の頃は」
「判り易く警戒されてたからなぁ……まあ、信用されてなかったのは仕方ない。俺も押し掛けたようなものだし」
「おれは別に気にしてなかったけど。ああ、でも、スコールに何かしたらどうしようかなーとは思ってたか」
「本当に信用がないな」
「だってロック、あの時からスコールのこと見てたからさ」


バッツの言葉に、ロックは返す言葉がない。
隠しているつもりもなかったが、そうも判り易く晒しているつもりもなかった。
ひょっとしてスコールにも勘付かれていたから、ああも警戒されていたのかと思ったが、


「まあスコールは見られてたってことは気付いてないと思うよ。なんか鈍いみたいなんだよな、そう言うの」
「そうなのか?あれだけ警戒心強いのに?」
「色々考えて警戒してるみたいだけど。そこに自分は入ってないんだよな、スコールって。案外無防備だよ」


バッツの語るスコール像に、確かにそう言う所はある、とロックも思う。

危険や負の可能性については必要以上に頭が回るのに、自分への瑕疵は後段にし勝ちだ。
だから酒場で仕事を探す時など、バッツはスコールを自分の傍から離さないようにしている。
初めこそ少々過保護に見えたロックだが、一月を共に過ごすうちに、バッツの気持ちが判った。
冷静な顔をしている癖に、どうにも危なっかしいのだ。

ロックが苦笑している間も、バッツはスコールの寝顔をつついている。
眠りが深いとは言え、さすがに鬱陶しかったか、スコールは「んん……」とむずがって寝返りを打った。
バッツから逃げるように背中を向けて丸くなる。


「邪魔してやるなよ、バッツ。起きたら怒るぞ」
「大丈夫だよ。寝起きのスコールって、結構ぼーっとしてるから」


バッツはとにかく、スコールのことが構いたくて仕方がない。
昼間もあれやこれやとスコールにじゃれつき、しまいにはスコールが「黙って歩けないのか」と睨んだくらいだ。
それに対してバッツは、「色々見たら何か思い出すかも知れないだろ?」と言う。
自身の記憶喪失のことを引き出されると弱いのか、スコールは苦い顔で閉口する。
結局、バッツが持って来た花だとか石だとかを受け取って、ちゃんと相手をする辺り、律儀である。

そんな日中の様子を思い出して、ロックは両目を細くする。


「……記憶喪失、か」


零れた呟きに、バッツが振り返る。

ロックは、揺れる焚火を見つめていた。
その眼に映るのは、そこで煌々と耀く火ではなく、遠い記憶の残滓だ。

ロックは炎を見つめたまま、バッツに問う。


「なあ、バッツ。スコールの記憶は、戻ると思うか?」
「そんなことおれに訊かれてもなあ。戻れば良いとは思うけど」


記憶喪失が回復するかなんて、医者でも判らないことだ。
バッツも問われたところで、そう答える以上は出来ない。

ロックはダガーを鞘に納めると、足元の小さな土石を拾って、指先でそれを遊ぶ。


「そうだな、俺もそう思う。スコールは自分のことも判らない。何も思い出せないって言うのは、きっと辛いことだ」
「あんまりそんな悲壮感もないけどな、スコールは。でも、色々困ることはあるだろうなあ」


バッツの返す言葉に、そうだな、とロックは頷く。


「でもな。聞いたことがあるんだ」
「何を?」
「記憶喪失の人間が、元の記憶を思い出すと、記憶喪失だった時のことを忘れる───って話」


ロックの言葉に、ぴたりとバッツの動きが止まった。

ロックは過去に、記憶喪失を治す方法を探したことがある。
結局それは見付からなかったが、その道中で、記憶喪失から回復したと言う人にも逢った。
その内の全てと言う訳ではないが、思い出したのと引き換えに、忘れていた時のことが思い出せない、と言う者がいる。
まるで別の人生をそれぞれ歩み、記憶の喪失と回復を条件に、それが入れ替わったかのようだ。
中には、記憶喪失中は全く別の性格になって、回復するとそれ以前のものに戻った、と言うことも。


「スコールの記憶喪失が、回復しない方が良いってことじゃない。スコールには帰る場所があるかも知れないし、待ってる奴がいるかも知れない。いるべき場所に帰してやる為にも、スコール自身の為にも、記憶は戻った方が良い」
「うん。そうだな」
「でも思い出したら、こうして旅をしている間のことは、忘れるかも知れない」


その可能性を考えると、ロックはじわりと胸の奥が冷たくなるのを感じた。
それはいつかの日、掴み零してしまった温もりの喪失を彷彿とさせる。

ぱきり、と指先にあった土石が割れる。
ぽろぽろと地面に落ちるそれを見つめて、ロックは苦いものを噛んでいた。

バッツはそんなロックを見つめ、不可解な様子で首を傾げる。


「そう言う話は、おれも聞いたことがあるけどさ。必ずしも忘れるって訳じゃないだろ?」
「……まあな」
「もし忘れられるとしても、おれはスコールと一緒にいるよ。まあ、スコールがおれと旅をするのが嫌だとか、行けない事情があったりしたら、話は別だけどさ」


バッツはそう言って、隣で眠る少年を見る。
健やかな寝息を立てているその目元にかかる前髪を、少し荒れた指先が梳いた。

寝顔を見つめる褐色の目に、柔く甘い光が燈っていることに、ロックは気付いている。


「スコールの意思は尊重するけど。それが関係なかったら、おれはスコールと離れるつもりはないんだ」
「……」
「ロックもそう言うつもりはあるんじゃないか?」


問い返されて、ロックは口を噤んだ。
喉の奥にある苦いものが、逆流するように押し出てくるのが判る。


「……また忘れられるのは辛いからな」
「また?」
「……俺は一度、逃げたから」


それ以上は口にする気になれなくて、ロックは立膝に頬杖をついた。
ヘイゼルカラーの瞳の中で、ゆらゆらと炎が揺れている。


「……忘れられたら、それまでにあったことは消えるんだ。どんなにこっちが覚えていても」
「………」
「俺は、スコールに……忘れられたくないな」


ようやく、自分が傍にいても、眠ってくれるようになったのだ。
そうなるまでに、睨む蒼に笑い返したり、どうでも良い話を振ってみたり、小さなことを重ねていった。
別にそれを特別なことにしたい訳ではないけれど、そう言う些細な積み重ねで、今がある。
あんなにも警戒していた蒼色が、今は時折、自分を見て微かに笑ってくれるようになったことは、ロックにとって決して小さくない。

けれど、忘れてしまえば、それも全部なかったことになる。
嘗てロックは、それを経験した。
そして、二度と思い出されることもないまま、全ては病の床に沈んだ。
今際に全てが返って来たと話に聞かされたが、本当の所はどうだったのか、ロックには最早知りようもない。


(あの感覚は、もう────)


じんわりと胸に広がる虚無感は、どれだけ月日が経っても薄れない。
それをロックに釘打った出来事も、決して薄れはしないのだ。
ロック自身が、記憶喪失にでもならない限りは。

貝のように口を噤んだロックを、バッツはじっと見ていた。
彼の零した言葉の意味を汲み取れるほど、二人の付き合いは長くない。
それでも、バッツは確かにひとつ、返すべき言葉が見付かっていた。


「ロック。スコールがおれたちのことを忘れても、こうやって一緒に過ごした時間まで、全部なくなる訳じゃないだろ」
「……」
「おれたちが覚えてるんだ。だから消えることはない。それに、スコールがもしおれたちのことを忘れても、また思い出させてやれば良いさ」
「……」
「思い出せなかったら、それでも良い。新しい思い出をまた作れば良いんだよ」


バッツの言葉に、ロックは何も言わなかった。
黙して見つめ返すのみのロックに、バッツは眼を逸らさない。
芯から「おれならそうする」と言っているのが、言葉なく聞こえた。

毛布に包まった少年が、小さく身動ぎをする音があった。
気配に敏感な節のある彼だから、横でいつまでも交わされる遣り取りが煩かったのかも知れない。
バッツはそんなスコールの毛布を直してやって、自分の毛布を手繰って横になった。


「そろそろ寝るよ。おやすみ」
「……ああ」


会話は呆気なく幕切れた。
程なく健やかな寝息が聞こえて来て、後は静寂と焚火の燃える音だけが残る。

一人揺れる炎を見つめながら、ロックはひそりと唇を噛む。


(お前は、知らないから)


それを言うのは簡単だが、それをしたところで何の意味があるだろう。

何より、真っ直ぐにこちらを見つめるバッツの目が眩しかった。
強い光を湛えたそれは、きっと本当にスコールが自分のことを忘れても、そうやって彼に正面から向かって行くのだろう。

それは嘗て、ロックが選ぶべき道だったのかも知れない。
喪われ、拒絶された悲しみに暮れて、傍を離れてしまったことは、ずっと悔恨の念として残っている。
だからスコールのことを放って置けなかったのだ。
過去の残滓に引き摺られ、記憶喪失の彼の世話を焼くことで、嘗ての贖罪を求めている自分がいることは、否定できなかった。

はあ、とロックは溜息を漏らす。
らしくもない話をしたと、唇を指で抓ってやった。


(今から考えたって、どうしようもない話か……)


眠る仲間たちにもう一度目を遣る。

口を開けて寝ているバッツの横で、スコールは寒さを嫌う猫のように丸くなっている。
一月前には、ロックが見張りをしている間、横になることもせずに起きていたのに、今はすっかり夢の住人だ。
そこまで自分のことを信用してくれたことが、どうにも、嬉しい。



どうか、いつかこの距離が失われませんように。
そう祈る以外に、今は出来ることはない。






『バツスコ&ロクスコ』のリクエストを頂きました。
別々の話にする案もありましたが、折角なので今回は二人一緒にスコールを可愛がってもらう方で。

三人旅してみて欲しいなあと思ったんですね。
バッツとロックは職業柄長旅に慣れてるけど、スコールは果たして。世界の基準が違うので、歩き旅での消耗は二人より早いと思います。意地で二人のペースについて行くけど、こっそり世話を焼かれている。
ファンタジーなパロの雰囲気です。世界感としてはFF5がベースですが、多分どこかにFF6の街もある。FF8の街まであるかは謎です(ふんわり設定)。

記憶喪失絡みとなると、ロックはどうしても重い方に行きがち。なのでバッツは逆に行って貰いました。
バッツもDFFでは記憶喪失してるようなものでしたが、僅かに覚えているガラフの振る舞いを真似してみたりと前向きにできる方向にしているので、ロックほど沈みはしないかなと。
割り切って方向を自ら変えられるバッツと、ずっと割り切れずに引き摺ってるロックの違い。スコールは前向きに動く方に引っ張られるのが丁度良いと思うので、今の所はバッツに懐いている模様(拾われた刷り込みもアリ)。

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