[ラグスコ]染まる涙の喜びに
Dom/Subユニバースパロ
[いつか全てを染め変えて]の続き
ラグナロクがエスタステーションに到着して、一時間の後、この国の大統領は無事に大統領官邸へと送り届けられた。
そこまでが彼の護衛依頼を引き受けたSeeDたちの任務である。
今回も何事もなく外遊を終えることが出来たことに、随行したSeeDもエスタ国軍兵も、胸を撫で下ろす。
スコールはSeeD班の点呼と最終確認を終えた後、一人、大統領官邸に残った。
SeeDたちには「大統領から会食に誘われている」と伝えてある。
国と組織のトップ同士の内々の遣り取りがある、となれば、警備の類も再度必要になることもあるが、今回はそれではない。
あくまで個人的な、言ってしまえばプライベートな誘いであるから、物々しい警備は反って不自然だ。
どのみち、傭兵集団であるSeeDの指揮官であり、先の魔女戦争の英雄ともなれば、それだけで戦闘力としては釣りが出る。
SeeDは勿論、エスタの兵士たちも、晴れてお役御免となり、それぞれの帰路へと向かった。
いつもの客間で待つことしばし───その日の予定にあった仕事を終えたラグナがやって来たのは、夕方の頃だ。
「悪い悪い、遅くなっちまって」といつもの調子のラグナと共に、スコールはウォードの運転する車で、彼の自宅へと送られる。
……その間、スコールはずっと、落ち着かない心地でいた。
どうしようもない本能的な衝動が、餓えた体を疼かせる。
あと少し、あと少しと自分自身に言い聞かせ、隣のシートに座る人のことを見ないように努める。
そうしないと、運転席にいる人のことを忘れてしまいそうだった。
閑静な住宅街の中にある、ラグナの自宅に着く頃には、東の空に夜の色が滲んでいた。
玄関シャッターを潜った車が、玄関先へと横づけされ、ウォードが後部座席を振り返る。
「……」
「おう、お疲れさん」
「……」
「ああ。ウォードも気を付けて帰れな」
「ありがとうございました」
言葉なくとも交わされる、ラグナと旧知の友との会話。
その内容をスコールは知る由もないが、形式として自分も挨拶をして、ラグナと共に車を下りた。
ウォードは二人に手を振って、浮遊モーターの音を微かに鳴らしながら、街へと戻って行った。
ラグナが玄関の扉を開けて、中へと入る。
その後ろをついていく形で入ると、「お帰り、スコール」とラグナが言った。
その言葉になんと返して良いか、スコールはまだ上手くまとめられないでいる。
ラグナが自室へ、スコールはほぼ自分専用となっている客室へ行って、荷物を下ろす。
身軽になったスコールは、すぐにラグナの部屋へと向かった。
一国の大統領の私邸と言うにはこじんまりとした家だ。
部屋をふたつ通り過ぎれば、そこにあるドアが家主の部屋である。
スコールがその扉をノックしようとしたところで、ドアは内側から開かれた。
「おっと。もう来てたか」
「……ん」
「リビング───じゃなくて良いか。うん、おいで」
おいで。
ラグナがそう言った瞬間、どくん、とスコールの内側で心臓が跳ねた。
ドアを潜ると、賑やか好きな家主の性格とは裏腹に、そこは綺麗に整頓されている。
日中は殆ど大統領官邸にこもるから、家には寝に帰るくらいだと言っていた。
特筆すべきものと言ったら、壁に並ぶ、ぎっしりと本が詰まった本棚くらいのものだろう。
他にあるのは、端末と接続されたデスク、朝の抜け殻があるベッド、植木鉢の観葉植物は枯らしてしまうからダミーだ。
それらが収められても、部屋の中央はぽっかりと空間が開く余裕があるくらいに、広さはある。
スコールはドアを閉めて、そこでじっと佇んだ。
ラグナはそんなスコールを見て、もう一度、
「おいで、スコール」
今度は明確な命令だった。
スコールの足がふらりと進んで、吸い寄せられるように、部屋の中央に立っているラグナの下へ向かう。
どこまで進んでいいだろう、とスコールは探るように進む。
ラグナが止めないから、距離はじわりじわりと縮んで、スコールはラグナの目の前まで来ていた。
節のある手が伸ばされて、スコールの首筋を撫で辿って、頬に触れる。
「明日はお休み?」
「……そう、してある」
「頑張ってお休みにしたんだ?」
「……うん」
「そうか。良い子」
する、と頬をくすぐる指。
むず痒さに似た、けれど不快ではない感触に、スコールの項にぞくぞくとしたものが通り抜ける。
青の瞳は緩やかに恍惚を映し、白い頬が薄らと赤らんでいた。
「じゃあ、スコール。おすわり」
ラグナの言葉を受けて、スコールの膝から力が抜ける。
ぺたん、とその場に座り込んだスコールに、見下ろす翠の瞳が柔く細められる。
「可愛い顔してるよ、スコール」
「……」
「久しぶりだもんな。今日まで我慢出来て、えらいえらい」
ラグナは見上げるスコールの頬を両手で包んだ。
顔を近付け、額を擦り合わせて褒めてやれば、淡色の唇から、ほうっと吐息が漏れる。
幼い光を宿した蒼灰色の瞳が、うれしい、と零していた。
「ラグナ……」
「ん?」
「……明日、平気……だから……今日は……」
欲しい、とスコールは消え入る声で言った。
それは、彼が熱くて深いものを欲しがっている時のおねだりだ。
うん、とラグナはそれに頷くが、
「良いけど、今日もちょっとだけ、頑張ろう?」
「……」
ラグナの言葉に、スコールは眉尻を下げる。
彷徨う瞳は、少年の胸中に、拭えない不安があることを示していた。
ラグナはそんなスコールの頬をやわやわと撫でながら、優しい声で囁きかける。
「大丈夫だよ。今日までいっぱい頑張っただろ?」
「……でも」
「スコールは出来る。出来るようになってきてる。俺はそれをよーく知ってる」
「……うん……」
「今日、もうちょっと頑張れたら、あとでちゃんと“ご褒美”やるよ」
ぴくり、とスコールの肩が小さく揺れた。
不安げだった瞳が焦点を定め、じっとラグナを見つめて、本当か、と無言で問う。
ラグナがそれに頷いてやれば、スコールもまた、応じる為に小さく頷いた。
「良い子だ、スコール。じゃあ、一時間、な?」
「……わ、かっ…た……」
とくとくと、不安と期待で跳ねる心臓を自覚しながら、スコールは受け入れた。
ラグナは濃茶色の髪をくしゃくしゃと撫でて、触れる手を離す。
座り込んだスコールを、ラグナは目の前に立って見下ろした。
薄い笑みを張り付けて、支配者の顔をした男の醸し出すものに、スコールの体が重くなって行く。
しかし、それは決して嫌な重みや圧ではない。
「スコール、脱いで。全部じゃなくて、下だけ」
「ん……」
ラグナの指示に、スコールは顔を赤くしながら、のろのろと従う。
ベルトを外し、ズボンを脱いで、靴下と一緒に床に捨てた。
湧き上がる羞恥を自覚しながら、下着に手をかけ、子供が着替えをするように、座り込んだままでそれを脱ぐ。
この部屋の床はカーペットが敷き詰められているから、裸になっても冷たさは感じない。
とは言え、カーペットの短い毛足の感触が直に肌に触れるから、スコールは落ち着かない気持ちになる。
下肢をまとうものを奪われたスコールに、ラグナは続けて言った。
「見せて、な」
「……っ」
かあ、とスコールの朱色が強くなる。
それでもスコールは、ラグナの命令に従って、両膝を抱えて左右に割り開いた。
まだ幼いシンボルが、ラグナの目に晒される。
スコールが押し殺した呼吸をするのに合わせて、それはふるふると震えていた。
もう何度となくラグナにそこを見せているのに、初心さを失わない少年の姿に、ラグナの喉が密かに鳴る。
「は……ラ、グナ……」
「そのまま。隠しちゃ駄目だぞ」
「あ、う……ふぁ、あ……っ!」
じっとつぶさに見詰める瞳に、スコールは得も言われぬ光悦を感じていた。
はしたない姿を晒していると、憤死したいと思うのに、この感覚が嬉しい。
ラグナの声で、彼の命令で、彼に従っているということが。
───ラグナはDomで、スコールはSubだ。
魔女戦争の後から、折々に顔をあわせる機会を設け、時間を共にしていく内に、その性質も含めて惹かれ合った。
対外的には勿論秘密の関係で、ぎこちない親子が懸命に相互理解に時間を費やしている、と言う体を取っている。
だから、仕事を理由に会える機会は多くても、こんな時間を取れる時は少ない。
本能の衝動を抑えて過ごす日々は、まんじりともせず息苦しくて、ようやく会えた時に簡単に箍を外す。
恥ずかしい所を余すことなく晒すスコール。
その肌に、ラグナの伸ばした手が滑った。
「あ、ああ……んん……っ」
汗ばんだ肌に指が伝う感触に、スコールは喘ぐ声を抑えられない。
自身の熱が一か所に集まっているのを、ラグナに見られている。
どうしようもなく恥ずかしくて、どうしようもなく熱くて、嬉しかった。
ラグナの手がきわどい所へと下りて行く。
ここから先は“ご褒美”の約束だから、すぐには触れられない。
判っていても、スコールの体は興奮を示していた。
「良い子だな、スコール。ちゃんと言われた通りに出来てる」
「ふ……ふ、う……ん……」
ラグナの声は低く優しい。
その声を聴いていると、頭の中がふわふわとする。
夢見心地の瞳を彷徨わせるスコール。
ラグナはその様子を確かめながら、ちらりとデスクの隅を見遣って、
「スコール、四つん這いだ」
「ん……」
「向きはあっち」
抱えていた膝を離して、スコールは指示通りに四つ這いになった。
ラグナの指定した方向に向きを変えると、臀部を差し出す格好になる。
ラグナの顔が見えないことに、一瞬不安が浮かんだが、今は“躾”の時間だ。
これをきちんと出来たら、“ご褒美”がある。
その期待に縋りながら、スコールはラグナの命令に従い続けた。
それはどこか夢のような感覚を伴って、スコールの思考力が溶けていく。
───それでも、スコールの意識は辛うじて、ラグナと交わした約束を覚えている。
(……時、間……)
四つ這いになったまま、頭を少し上げると、デスクに置かれた時計が見えた。
は、とスコールの喉が震える。
喉奥が乾いて引き攣った感覚がして、指先が冷たくなって行く。
ともすれば溺れたような息苦しさが湧き上がり、心臓がばくばくと異常な速さで駆け出していた。
(セーフ、ワード)
二人で決めたセーフワード。
DomとSubの間で不可欠なもの。
背中に冷たいものが浮かぶのを感じながら、スコールは床に額を擦り付ける。
カーペットの短い毛足を握りながら、はっ、はっ、と詰まった呼気を繰り返し、
「────」
虫にもかき消される声だった。
それがスコールの、精一杯。
途端、がくん、とスコールの体が崩れ落ちる。
床に完全に突っ伏したスコールを、直ぐにラグナが抱き起した。
「スコール!」
「……あ、……う……」
スコールはぐったりとしていたが、蒼灰色は辛うじて世界を見ていた。
ゆらゆらと揺れる蒼色に、心配そうに見つめる翠が映り込む。
目と目が合うと、ラグナは眉尻を下げながらも、小さく笑ってスコールの顔を包み込んだ。
「うん、うん。頑張ったな、スコール」
「……ラグ、ナ……」
「大丈夫。言えた。ちゃんと聞こえたよ」
セーフワードがちゃんと言えた。
そう褒めてくれるラグナに、スコールの乱れていた呼吸が、ほうっと鎮静化へ向かう。
───DomはSubを支配することで充足し、SubはDomに支配されることで安定する。
しかし、そのパワーバランスはともすれば危うく、同意を得ない支配被支配の関係を作り出すこともあった。
Domはあくまで、Subの許可によってSubを支配する。
だからSubが望まないこと、己の身に危険があると感じた時には、その時点で“躾”や“お仕置き”を止めることが出来るように、双方合意の意思としてセーフワードが必要になる。
だが、スコールはセーフワードが言えなかった。
元よりセーフワードはSubが支配の圧に抗うことになる為、負担の大きいものであるが、スコールは輪をかけて強い。
「セーフワードを言うことそのもの」が、スコールにとって反逆行為の如く、禁止行為となっていた。
ラグナはDomとして、スコールを支配すると同時に、大事にしたいと思っている。
傷付けるのも、痛めつけるのも、況してやスコールが苦しむのも、本位ではない。
だからスコールがきちんとセーフワードを使えるように、ゆっくり、じっくり、時間をかけて“躾”をしていた。
脂汗を滲ませて、冷たい指先を震わせているスコールを、ラグナはそっと抱き上げる。
ベッドにその身体を運んで横たえると、一緒に隣に寝転んで、スコールを抱き寄せた。
「良い子だ、スコール。ちゃんと言えた。時間もちゃんと見てたな」
「は……はあ……っ」
「無理させてごめんな。でも、前進だ。よく出来ました」
スコールの視界いっぱいに、囁くラグナの顔が映っている。
それしか見ることが出来なくて、スコールはただただ、そこにある男の顔を見つめていた。
大きな手がスコールの濃茶色の髪をくしゃくしゃと撫でる。
それを黙って受け止めていると、ラグナの唇が頤に触れた。
触れては離れるキスを繰り返した後、ラグナはスコールの顎を取って、二人の唇を重ね合う。
「ん、ん……っ!」
下唇をゆっくりと舐められて、スコールの体が震える。
スコールが薄く口を開けば、その隙間からラグナの舌が入って来て、深い口付けが交わされる。
スコールの呼吸をそっくり奪う程、ラグナは丹念に丁寧に、少年の咥内を寵辱した。
ようやく離れた時には、スコールの瞳がまたぼうと熱に浮かされている。
そんなスコールの様子を窄めた双眸で見つめながら、ラグナはキスの雨を降らせた。
そのままラグナの唇は、下へ下へと少しずつ下りて行き、スコールの白い喉に吸い付く。
「あ……っ!」
強く吸われる感触に、スコールは喉を反らして喘いだ。
ラグナの手が、スコールの体を這いまわる。
着たままのシャツが汗を吸って重く、それを捲り上げられると、部屋の冷たい空気が感じられた。
そこに触れる肌の感触が温かくて、ラグナが触っていることが判る。
これからその手が、何処へ向かうのかを想像して、スコールの体は熱くなった。
「ラグ、ナ……ラグナ……っ!」
「ああ。頑張った良い子に、いっぱい“ご褒美”、あげような」
「……!」
ラグナのその言葉だけで、声だけで、スコールは果てそうになる。
疼く体が、覆い被さる男の熱を求めて止まらない。
そしてラグナも、無心に自分を呼ぶスコールの姿に、幸福感を覚えている。
自分に愛されたくて、一所懸命に命令に従いながら、“躾”に応えようとする姿の、いじらしいこと。
嘗て無理やり刻み付けられた望まぬ“躾”の傷痕から、彼は脱却しようと足掻いている。
それはSubとして強い気質を持つ彼にとって、並々ならぬ苦痛も伴っている筈だ。
それでも、「ラグナが良い」と染め直しを望む様は、彼を独り占めして全て自分だけで愛し尽くしたいラグナにとって、この上ないほど献身的だ。
今日はその一歩を踏めた。
それなら今夜は、たっぷり甘やかしてやらなくては。
縋る少年を抱き締めて、その内側まで愛して行く。
支配の証が己の中に注がれる度、危うい少年は涙を流して、愛しい支配者の名を呼んだ。
『ラグスコのDom/Subユニバースの躾が進んだお話』のリクエストを頂きました。
欲張り詰め込んだ設定の話を気に入って頂けて嬉しいです。この設定楽しいです。
このスコールは過去にガーデン教諭から、意図せず強い“躾”をされて、深層意識までそれが根付いてしまっている状態。
元々ハードプレイを望む質でもあるので、強引に“躾”されるのも合ってしまうタイプ。
Domのラグナと逢って、ラグナが自分を支配してくれる人になったけど、根付いたものの所為で色々と危ない。今後を危惧したラグナが、時間をかけながら矯正を図っている所です。
ラグナはスコールを甘やかしたい。苦しめたくはない。でも過去の“躾”の気配がすると、嫉妬でGlareを放ってしまう為、それを抑えながらの“躾”です。
スコールは自分に関して「セーフワードを言う権利はない」と言うところからだったので、前回の話では「言おうとして言えない」、今回は「辛うじてその単語を音に出した」と言うくらいまで行けました。頑張ったね。