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2026年08月

[セシスコ]良い子悪い子

  • 2026/08/08 22:10
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

R15




優しい顔をしているのに、その身体は厚みがあった。
跳ねる体が逃げるのを咎めるように掴む手のひらは、固い剣胼胝があって、大きい。

セシルの体温を内側で感じている。
奥を突き上げる逞しさに、どうしようもなく意識が溶けて浚われた。
必死に彼について行こうとしても、いつの間にかそんなことを考える余裕すらなくなっている。
何度目か知れない果てまで連れていかれて、頭の中が真っ白になった。


「あ、う、んぁ……!」
「は……っ、スコール、僕も……っ!」


喘ぐスコールの耳元で、切羽詰まった声が零れる。
来る、と思った瞬間に、スコールはぞくぞくとした感覚で喜びを感じた。
どくり、と中に注ぎ込まれるのが判って、スコールは一際高い声を上げる。

赤く染まった躰が弾むのが止められない。
中に注ぎ終わったものが、ゆっくりと内側を擦りながら出て行く。
まだそこにいて欲しいと体が訴えて締め付けたけれど、首筋を柔く撫でてあやされた。
それで体の反応が止まることもないのだが、結局、彼は留まってはくれなかった。


「は、……っん、あぁ……っ」


蓋を失ったところから溢れ出す感触があって、スコールは悩ましい声を漏らす。
身じろぐ体を、大きな手がそっと撫でて慰めた。

乱れに乱れた呼吸は、そう簡単に鎮まってはくれない。
ベッドシーツに顔を半分埋めたまま、はぁ、はぁ、と熱を孕んだ呼吸を繰り返す。
すると肩からそっと抱き起されて、仰向けになった。
首の後ろを太い腕がしっかりと支えながら、頭を少し起こされて、近付いて来た綺麗な顔に、唇を塞がれる。


「ん、ん……っ」


閉じることが出来ない口の中に、とろりとした液体が流れ込んでくる。
水分補給の為の水だ。
汗だくになった身体が、足りなくなった水気に喜ぶのが判った。

こくり、と液体を飲むと、唇が解放される。
長い睫毛を携えた藤色の目が、じっとスコールの顔を見つめていた。


「大丈夫かい。水、まだ飲める?」
「……は、ふ……」


スコールが小さく頷くと、セシルはサイドチェストに置いていた水差しグラスを取る。
一口それを口に含んで、またスコールにキスをした。

グラスの水が半分より少し減った頃に、スコールはもういい、と言った。
セシルは小さく笑みを浮かべ、汗の滲んだスコールの頬をそっと撫でる。
抱き支えていたスコールの首はベッドへと戻されて、疲れ切った躰が楽な体勢に整えられた。

情交の間に昂った熱が、汗で奪われて行かないよう、スコールの体がシーツで包められる。


「……セシル……」
「うん?」


名前を呼べば、何、とセシルは答えた。
スコールは、綺麗な面で見つめる男を見上げて、


「……もっと、したい」


スコールの言葉に、セシルは眉尻を下げて苦笑する。


「嬉しいけど、今夜はここまでにしよう。君にも負担をかけてしまう」


頬に手を添えるセシルは、芯からスコールを気遣っている。
それはスコールも判ったが、望まぬ答えに唇は尖った。


「あんた、俺をそんなにか弱いと思ってるのか?」
「そう言う訳ではないけど。でも、結構大変なことをしているんだよ。今日も意識が飛びかけていたし」
「……それは、あんたの所為だろ。あんたがいつも……いい、ところばかり、突くから……」


言いながらスコールの顔は赤くなる。
初心な反応を隠せない少年に、セシルはくすりと笑って、濃茶色の髪を撫でた。


「感じてる君の顔が可愛いから、つい、ね」
「……」


セシルの言葉に、スコールは益々顔を赤くする。
しかし、拗ねた表情が取れることはなかった。

隣に向き合って横になっているセシルの方に、スコールは重い身体を摺り寄せる。
いつも無骨な鎧に覆われたセシルの体は、しっかりとした筋肉があって、固い。
その胸元に顔を擦り付けてやると、セシルの腕が包み込むようにスコールの背中に回った。

閉じ込めてくれる腕の中で落ち着きながら、スコールは呟く。


「……どうしたら、あんたは二回目をしてくれるんだ」


聞きようによっては、中々大胆なおねだりだ。
しかし、スコールはそれがいつも叶えられないことが不服だった。

上目に睨むように見つめるスコールに、セシルは困った顔をしてみせる。


「君が良い子で寝てくれたら、明日にでも教えるよ」
「それは教える気がないやつだろ」


躱そうとしているのが判って、スコールの声が低くなる。
視界の端でちらちらと揺れている銀糸を摘まんで引っ張ると、「いたた」と言う声があった。


「そんなことは───」
「ないって?」
「うーん」


肯定も否定もしないものだから、やっぱり教えないんだな、と言うことが判る。
曖昧に逃げようとする時は、大抵、そういうことだ。
ついでに、既に何度もそうやって躱されているものだから、いい加減にスコールも、事後の甘さに誤魔化されるほど子供ではなかった。

すぐそこにあるセシルに首筋に歯を立ててやる。
「痛いよ、スコール」とセシルは言ったが、顎に力は入れていないし、単に当てているだけだ。
セシルが参ってしまうようなものでもない。
後に多少、痕にはしてやるつもりで噛んだが、フルアーマーを身に付ける彼なら問題あるまい。


「君に誘って貰えるのは嬉しいけど、今日も結構、無理をさせたからね。これ以上、君に負担はかけられないよ」
「常套句だ。それを言って置けば、俺が大人しく引き下がると思ってるんだ」
「そんなことは」
「ない?」
「うん、ない」


セシルは頷いたが、スコールの尖った唇は引っ込まない。
この遣り取り自体が、セシルにとっては事後の戯れなのだ。
もっとしたい、とねだってくるスコールを、宥めあやして、寝かしつけるまでが。

スコールは本当に、もっと彼が欲しいのに。
まだ感触が残る内側に、追い打つものが欲しいのに。

じんとした感触が下肢に滲んで、体が目の前の男を欲しがっている。
スコールはセシルの足に自分の足を絡めて、より密着した。
一枚のシーツ以外にまとうものはないから、お互いの中心部がまだ熱を持っているのが感触で判る。


「あんたも勃ってるんだから。したいんだろ」
「それは、否定できないんだけどね」
「だったら」


スコールは意図して膨らんだものをセシルのそれに押し付けた。
汗は引いても、出したものはまだ濡れているから、ぬちゃりとした感触が伝わる。

とくとくと脈打つそれが膨らもうとしているのを、スコールは擦り付けて助長させる。


「ん、ん……っ、ふっ……」
「……いやらしい子だね」


次を欲しがって懸命に誘う少年に、セシルの声が低くなる。
最中にそれが耳元をくすぐる度、スコールの体は熱くなった。
今もまた、燻ぶるものが再点火されて、揺れる腰の動きは大胆になっていく。


「は……っ、セ、シル……っ」
「でも駄目だよ、スコール」


腰を揺らすスコールの体を、セシルが強く抱きしめる。
それ以上、スコールが悪戯が出来ないように、細腰に回した腕がしっかりとした力を籠めた。
ぎゅう、と腰骨が締め付けられる感覚が、拘束に似た錯覚を起こして、スコールの体がぶるりと震える。


「あぁ……っ!」


どくん、とスコールの熱が解き放たれた。
たったこれだけで、と自分の体の浅ましさに羞恥が昇る。

はふ、はふ、とあえかに呼吸を繰り返すスコール。
その項をセシルの指が滑って、ぞくぞくとしたものがスコールの背中を駆け抜けた。
強張った躰は更なる解放を求めて、それを与えてくれる男に縋りつく。

しかしセシルは、スコールを抱き締めたまま、それ以上は動かない。


「良い子だからおやすみ、スコール。ちゃんと眠れたら、明日はまた───ね?」
「セシ、ル……っ」
「本当に。ほら、明日も僕たち、待機番だろう?」


明日、急いで出立の準備はしなくて良い。
だったら尚更、今夜のうちにしてくれないのは何故だろう。
スコールはいつもそれが疑問だけれど、問うてもこんな風に躱されてばかりだ。
……躱されて終わる半分は、自分がこうして熱に浮かされ、考える力を失ってしまうからなのだけど。

抱き締められている内に、跳ねていた心臓は少しずつ落ち着いて、伝わるセシルのリズムと一致する。
そうなると段々と心地良さが勝って、意識がふわふわと浮遊感に誘われてしまう。


「セシル……」
「うん」
「明日、続き……」
「うん。してあげる」
「……うん」
「僕も君が欲しいから、ね」


囁く声に、なんとも言えない充足感が満たされる。
あやされていると判っていても、これ以上に我儘が出なくなるのは、その所為だ。

明日。
明日になったら、今度こそ。
次はこうやって誘ってみようと、ふやけた頭で考えながら、目を閉じる。
眦に触れる柔い唇の感触を覚えながら、意識は夢の中へと揺蕩っていった。

────疲れ切った少年の体は、彼が思っているよりもずっと早く、睡魔に負ける。
それほど彼の体は酷使されているのだが、彼自身はその自覚はない。


(だからこっちが大人にならないとなぁ)


すぅ、すぅ、と子猫のように静かに眠る恋人を見つめて、セシルは眉尻を下げて笑う。


(でも、そろそろ厳しいかも知れないな。判ってやったのか、無自覚なのか判らないけど、あんな誘い方をされるのは……)


濡れた体をしどけなく擦り付けられたのは、全く予想外だった。
この手で抱く度、スコールは大胆さを増して行く。
何も知らなかった体が、日毎に花開いては自分を欲しがるその様は、セシルに得も言われぬ興奮を齎した。

その情動のままに抱いたら、きっと抱き潰してしまう。
前後不覚になったスコールが、泣いてやめてと訴えても、揺さぶることをやめられない。
それでスコールに嫌われることは、多分、ないとは思うけれど、だからこそ、セーブしなくてはならないのだ。
彼の幼い好意に甘えて、無体を強いてはいけない。
例えその無体の原因が、どんなに愛情深くとも。


「……本当に、大事にしたいんだよ、スコール。そう言ったら君は、大丈夫だと言うだろうけど」


スコールをか弱い人間だとは思っていない。
それでも、そんなスコールだからこそ、壊してしまう程に荒々しく出来てしまいそうで、いつも抱く度に歯止めが切れそうになる。
この衝動は、一度吹き出してしまったら、止めることが出来ないから。

眠るスコールの横顔は幼く、少し悪戯心で首筋をなぞると、ぴくりと小さく震えるのが判る。
たったこれだけで、こんなにも良い反応をしてくれるから、今以上のことをしたら、果たしてどんなに乱れてくれるのか。


「見てしまったら、戻れなくなると思うんだ。僕は君が思っている程、優しい男じゃないからさ」


大人びた顔をしながら、スコールはどこか幼い。
そんな彼を怯えさせてしまわないように、セシルは優しい仮面を被っている。

けれどいつか、スコール自身の手で、それが剥がされる日は来るだろう。
愛しい恋人を宥めあやしながら、そんな日が来ることを、心待ちにしている自分がいた。






『アダルティでえっちなセシスコ』のリクエストを頂きました。
もっとして欲しくて、体も使っておねだりするスコールと、煽られても堪えてるセシル。
宥めているけど、本音はそういうスコールのことも可愛いし、もっと激しく愛したいと思ってるセシルです。

セシルに本気を出させたら、スコールは一回後悔しそうですけど、嫌がりはしない。
寧ろ癖になるので、もう一回、が延々続くようになると思います。
一回越えたらブレーキがなくなるのが予想できているので、セシルは尚更耐えているんですね。

[ラグスコ]染まる涙の喜びに

  • 2026/08/08 22:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

Dom/Subユニバースパロ
[いつか全てを染め変えて]の続き




ラグナロクがエスタステーションに到着して、一時間の後、この国の大統領は無事に大統領官邸へと送り届けられた。
そこまでが彼の護衛依頼を引き受けたSeeDたちの任務である。
今回も何事もなく外遊を終えることが出来たことに、随行したSeeDもエスタ国軍兵も、胸を撫で下ろす。

スコールはSeeD班の点呼と最終確認を終えた後、一人、大統領官邸に残った。
SeeDたちには「大統領から会食に誘われている」と伝えてある。

国と組織のトップ同士の内々の遣り取りがある、となれば、警備の類も再度必要になることもあるが、今回はそれではない。
あくまで個人的な、言ってしまえばプライベートな誘いであるから、物々しい警備は反って不自然だ。
どのみち、傭兵集団であるSeeDの指揮官であり、先の魔女戦争の英雄ともなれば、それだけで戦闘力としては釣りが出る。
SeeDは勿論、エスタの兵士たちも、晴れてお役御免となり、それぞれの帰路へと向かった。

いつもの客間で待つことしばし───その日の予定にあった仕事を終えたラグナがやって来たのは、夕方の頃だ。
「悪い悪い、遅くなっちまって」といつもの調子のラグナと共に、スコールはウォードの運転する車で、彼の自宅へと送られる。

……その間、スコールはずっと、落ち着かない心地でいた。
どうしようもない本能的な衝動が、餓えた体を疼かせる。
あと少し、あと少しと自分自身に言い聞かせ、隣のシートに座る人のことを見ないように努める。
そうしないと、運転席にいる人のことを忘れてしまいそうだった。

閑静な住宅街の中にある、ラグナの自宅に着く頃には、東の空に夜の色が滲んでいた。
玄関シャッターを潜った車が、玄関先へと横づけされ、ウォードが後部座席を振り返る。


「……」
「おう、お疲れさん」
「……」
「ああ。ウォードも気を付けて帰れな」
「ありがとうございました」


言葉なくとも交わされる、ラグナと旧知の友との会話。
その内容をスコールは知る由もないが、形式として自分も挨拶をして、ラグナと共に車を下りた。
ウォードは二人に手を振って、浮遊モーターの音を微かに鳴らしながら、街へと戻って行った。

ラグナが玄関の扉を開けて、中へと入る。
その後ろをついていく形で入ると、「お帰り、スコール」とラグナが言った。
その言葉になんと返して良いか、スコールはまだ上手くまとめられないでいる。

ラグナが自室へ、スコールはほぼ自分専用となっている客室へ行って、荷物を下ろす。
身軽になったスコールは、すぐにラグナの部屋へと向かった。

一国の大統領の私邸と言うにはこじんまりとした家だ。
部屋をふたつ通り過ぎれば、そこにあるドアが家主の部屋である。
スコールがその扉をノックしようとしたところで、ドアは内側から開かれた。


「おっと。もう来てたか」
「……ん」
「リビング───じゃなくて良いか。うん、おいで」


おいで(Come)
ラグナがそう言った瞬間、どくん、とスコールの内側で心臓が跳ねた。

ドアを潜ると、賑やか好きな家主の性格とは裏腹に、そこは綺麗に整頓されている。
日中は殆ど大統領官邸にこもるから、家には寝に帰るくらいだと言っていた。
特筆すべきものと言ったら、壁に並ぶ、ぎっしりと本が詰まった本棚くらいのものだろう。
他にあるのは、端末と接続されたデスク、朝の抜け殻があるベッド、植木鉢の観葉植物は枯らしてしまうからダミーだ。
それらが収められても、部屋の中央はぽっかりと空間が開く余裕があるくらいに、広さはある。

スコールはドアを閉めて、そこでじっと佇んだ。
ラグナはそんなスコールを見て、もう一度、


おいで(Come)、スコール」


今度は明確な命令(Command)だった。
スコールの足がふらりと進んで、吸い寄せられるように、部屋の中央に立っているラグナの下へ向かう。

どこまで進んでいいだろう、とスコールは探るように進む。
ラグナが止めないから、距離はじわりじわりと縮んで、スコールはラグナの目の前まで来ていた。
節のある手が伸ばされて、スコールの首筋を撫で辿って、頬に触れる。


「明日はお休み?」
「……そう、してある」
「頑張ってお休みにしたんだ?」
「……うん」
「そうか。良い子」


する、と頬をくすぐる指。
むず痒さに似た、けれど不快ではない感触に、スコールの項にぞくぞくとしたものが通り抜ける。
青の瞳は緩やかに恍惚を映し、白い頬が薄らと赤らんでいた。


「じゃあ、スコール。おすわり(Kneel)


ラグナの言葉を受けて、スコールの膝から力が抜ける。
ぺたん、とその場に座り込んだスコールに、見下ろす翠の瞳が柔く細められる。


「可愛い顔してるよ、スコール」
「……」
「久しぶりだもんな。今日まで我慢出来て、えらいえらい」


ラグナは見上げるスコールの頬を両手で包んだ。
顔を近付け、額を擦り合わせて褒めてやれば、淡色の唇から、ほうっと吐息が漏れる。
幼い光を宿した蒼灰色の瞳が、うれしい、と零していた。


「ラグナ……」
「ん?」
「……明日、平気……だから……今日は……」


欲しい、とスコールは消え入る声で言った。
それは、彼が熱くて深いものを欲しがっている時のおねだりだ。

うん、とラグナはそれに頷くが、


「良いけど、今日もちょっとだけ、頑張ろう?」
「……」


ラグナの言葉に、スコールは眉尻を下げる。
彷徨う瞳は、少年の胸中に、拭えない不安があることを示していた。

ラグナはそんなスコールの頬をやわやわと撫でながら、優しい声で囁きかける。


「大丈夫だよ。今日までいっぱい頑張っただろ?」
「……でも」
「スコールは出来る。出来るようになってきてる。俺はそれをよーく知ってる」
「……うん……」
「今日、もうちょっと頑張れたら、あとでちゃんと“ご褒美”やるよ」


ぴくり、とスコールの肩が小さく揺れた。
不安げだった瞳が焦点を定め、じっとラグナを見つめて、本当か、と無言で問う。
ラグナがそれに頷いてやれば、スコールもまた、応じる為に小さく頷いた。


「良い子だ、スコール。じゃあ、一時間、な?」
「……わ、かっ…た……」


とくとくと、不安と期待で跳ねる心臓を自覚しながら、スコールは受け入れた。
ラグナは濃茶色の髪をくしゃくしゃと撫でて、触れる手を離す。

座り込んだスコールを、ラグナは目の前に立って見下ろした。
薄い笑みを張り付けて、支配者の顔をした男の醸し出すものに、スコールの体が重くなって行く。
しかし、それは決して嫌な重みや圧ではない。


「スコール、脱いで(Strip)。全部じゃなくて、下だけ」
「ん……」


ラグナの指示に、スコールは顔を赤くしながら、のろのろと従う。

ベルトを外し、ズボンを脱いで、靴下と一緒に床に捨てた。
湧き上がる羞恥を自覚しながら、下着に手をかけ、子供が着替えをするように、座り込んだままでそれを脱ぐ。
この部屋の床はカーペットが敷き詰められているから、裸になっても冷たさは感じない。
とは言え、カーペットの短い毛足の感触が直に肌に触れるから、スコールは落ち着かない気持ちになる。

下肢をまとうものを奪われたスコールに、ラグナは続けて言った。


見せて(Present)、な」
「……っ」


かあ、とスコールの朱色が強くなる。
それでもスコールは、ラグナの命令に従って、両膝を抱えて左右に割り開いた。

まだ幼いシンボルが、ラグナの目に晒される。
スコールが押し殺した呼吸をするのに合わせて、それはふるふると震えていた。
もう何度となくラグナにそこを見せているのに、初心さを失わない少年の姿に、ラグナの喉が密かに鳴る。


「は……ラ、グナ……」
そのまま(Stay)。隠しちゃ駄目だぞ」
「あ、う……ふぁ、あ……っ!」


じっとつぶさに見詰める瞳に、スコールは得も言われぬ光悦を感じていた。
はしたない姿を晒していると、憤死したいと思うのに、この感覚が嬉しい。
ラグナの声で、彼の命令で、彼に従っているということが。

───ラグナはDomで、スコールはSubだ。
魔女戦争の後から、折々に顔をあわせる機会を設け、時間を共にしていく内に、その性質も含めて惹かれ合った。
対外的には勿論秘密の関係で、ぎこちない親子が懸命に相互理解に時間を費やしている、と言う体を取っている。
だから、仕事を理由に会える機会は多くても、こんな時間を取れる時は少ない。
本能の衝動を抑えて過ごす日々は、まんじりともせず息苦しくて、ようやく会えた時に簡単に箍を外す。

恥ずかしい所を余すことなく晒すスコール。
その肌に、ラグナの伸ばした手が滑った。


「あ、ああ……んん……っ」


汗ばんだ肌に指が伝う感触に、スコールは喘ぐ声を抑えられない。
自身の熱が一か所に集まっているのを、ラグナに見られている。
どうしようもなく恥ずかしくて、どうしようもなく熱くて、嬉しかった。

ラグナの手がきわどい所へと下りて行く。
ここから先は“ご褒美”の約束だから、すぐには触れられない。
判っていても、スコールの体は興奮を示していた。


「良い子だな、スコール。ちゃんと言われた通りに出来てる」
「ふ……ふ、う……ん……」


ラグナの声は低く優しい。
その声を聴いていると、頭の中がふわふわとする。

夢見心地の瞳を彷徨わせるスコール。
ラグナはその様子を確かめながら、ちらりとデスクの隅を見遣って、


「スコール、四つん這い(Roll)だ」
「ん……」
「向きはあっち」


抱えていた膝を離して、スコールは指示通りに四つ這いになった。
ラグナの指定した方向に向きを変えると、臀部を差し出す格好になる。

ラグナの顔が見えないことに、一瞬不安が浮かんだが、今は“躾”の時間だ。
これをきちんと出来たら、“ご褒美”がある。
その期待に縋りながら、スコールはラグナの命令に従い続けた。
それはどこか夢のような感覚を伴って、スコールの思考力が溶けていく。

───それでも、スコールの意識は辛うじて、ラグナと交わした約束を覚えている。


(……時、間……)


四つ這いになったまま、頭を少し上げると、デスクに置かれた時計が見えた。

は、とスコールの喉が震える。
喉奥が乾いて引き攣った感覚がして、指先が冷たくなって行く。
ともすれば溺れたような息苦しさが湧き上がり、心臓がばくばくと異常な速さで駆け出していた。


(セーフ、ワード)


二人で決めたセーフワード。
DomとSubの間で不可欠なもの。

背中に冷たいものが浮かぶのを感じながら、スコールは床に額を擦り付ける。
カーペットの短い毛足を握りながら、はっ、はっ、と詰まった呼気を繰り返し、


「────」


虫にもかき消される声だった。
それがスコールの、精一杯。

途端、がくん、とスコールの体が崩れ落ちる。
床に完全に突っ伏したスコールを、直ぐにラグナが抱き起した。


「スコール!」
「……あ、……う……」


スコールはぐったりとしていたが、蒼灰色は辛うじて世界を見ていた。
ゆらゆらと揺れる蒼色に、心配そうに見つめる翠が映り込む。
目と目が合うと、ラグナは眉尻を下げながらも、小さく笑ってスコールの顔を包み込んだ。


「うん、うん。頑張ったな、スコール」
「……ラグ、ナ……」
「大丈夫。言えた。ちゃんと聞こえたよ」


セーフワードがちゃんと言えた。
そう褒めてくれるラグナに、スコールの乱れていた呼吸が、ほうっと鎮静化へ向かう。

───DomはSubを支配することで充足し、SubはDomに支配されることで安定する。
しかし、そのパワーバランスはともすれば危うく、同意を得ない支配被支配の関係を作り出すこともあった。
Domはあくまで、Subの許可によってSubを支配する。
だからSubが望まないこと、己の身に危険があると感じた時には、その時点で“躾”や“お仕置き”を止めることが出来るように、双方合意の意思としてセーフワードが必要になる。

だが、スコールはセーフワードが言えなかった。
元よりセーフワードはSubが支配の圧に抗うことになる為、負担の大きいものであるが、スコールは輪をかけて強い。
「セーフワードを言うことそのもの」が、スコールにとって反逆行為の如く、禁止行為となっていた。

ラグナはDomとして、スコールを支配すると同時に、大事にしたいと思っている。
傷付けるのも、痛めつけるのも、況してやスコールが苦しむのも、本位ではない。
だからスコールがきちんとセーフワードを使えるように、ゆっくり、じっくり、時間をかけて“躾”をしていた。

脂汗を滲ませて、冷たい指先を震わせているスコールを、ラグナはそっと抱き上げる。
ベッドにその身体を運んで横たえると、一緒に隣に寝転んで、スコールを抱き寄せた。


「良い子だ、スコール。ちゃんと言えた。時間もちゃんと見てたな」
「は……はあ……っ」
「無理させてごめんな。でも、前進だ。よく出来ました」


スコールの視界いっぱいに、囁くラグナの顔が映っている。
それしか見ることが出来なくて、スコールはただただ、そこにある男の顔を見つめていた。

大きな手がスコールの濃茶色の髪をくしゃくしゃと撫でる。
それを黙って受け止めていると、ラグナの唇が頤に触れた。
触れては離れるキスを繰り返した後、ラグナはスコールの顎を取って、二人の唇を重ね合う。


「ん、ん……っ!」


下唇をゆっくりと舐められて、スコールの体が震える。
スコールが薄く口を開けば、その隙間からラグナの舌が入って来て、深い口付けが交わされる。

スコールの呼吸をそっくり奪う程、ラグナは丹念に丁寧に、少年の咥内を寵辱した。
ようやく離れた時には、スコールの瞳がまたぼうと熱に浮かされている。
そんなスコールの様子を窄めた双眸で見つめながら、ラグナはキスの雨を降らせた。

そのままラグナの唇は、下へ下へと少しずつ下りて行き、スコールの白い喉に吸い付く。


「あ……っ!」


強く吸われる感触に、スコールは喉を反らして喘いだ。

ラグナの手が、スコールの体を這いまわる。
着たままのシャツが汗を吸って重く、それを捲り上げられると、部屋の冷たい空気が感じられた。
そこに触れる肌の感触が温かくて、ラグナが触っていることが判る。

これからその手が、何処へ向かうのかを想像して、スコールの体は熱くなった。


「ラグ、ナ……ラグナ……っ!」
「ああ。頑張った良い子に、いっぱい“ご褒美”、あげような」
「……!」


ラグナのその言葉だけで、声だけで、スコールは果てそうになる。
疼く体が、覆い被さる男の熱を求めて止まらない。

そしてラグナも、無心に自分を呼ぶスコールの姿に、幸福感を覚えている。

自分に愛されたくて、一所懸命に命令(Command)に従いながら、“躾”に応えようとする姿の、いじらしいこと。
嘗て無理やり刻み付けられた望まぬ“躾”の傷痕から、彼は脱却しようと足掻いている。
それはSubとして強い気質を持つ彼にとって、並々ならぬ苦痛も伴っている筈だ。
それでも、「ラグナが良い」と染め直しを望む様は、彼を独り占めして全て自分だけで愛し尽くしたいラグナにとって、この上ないほど献身的だ。

今日はその一歩を踏めた。
それなら今夜は、たっぷり甘やかしてやらなくては。



縋る少年を抱き締めて、その内側まで愛して行く。
支配の証が己の中に注がれる度、危うい少年は涙を流して、愛しい支配者の名を呼んだ。







『ラグスコのDom/Subユニバースの躾が進んだお話』のリクエストを頂きました。
欲張り詰め込んだ設定の話を気に入って頂けて嬉しいです。この設定楽しいです。

このスコールは過去にガーデン教諭から、意図せず強い“躾”をされて、深層意識までそれが根付いてしまっている状態。
元々ハードプレイを望む質でもあるので、強引に“躾”されるのも合ってしまうタイプ。
Domのラグナと逢って、ラグナが自分を支配してくれる人になったけど、根付いたものの所為で色々と危ない。今後を危惧したラグナが、時間をかけながら矯正を図っている所です。
ラグナはスコールを甘やかしたい。苦しめたくはない。でも過去の“躾”の気配がすると、嫉妬でGlareを放ってしまう為、それを抑えながらの“躾”です。

スコールは自分に関して「セーフワードを言う権利はない」と言うところからだったので、前回の話では「言おうとして言えない」、今回は「辛うじてその単語を音に出した」と言うくらいまで行けました。頑張ったね。

[フリスコ]呼び水

  • 2026/08/08 22:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



スコールと恋人同士という関係になってから、初めて知ったことはいくつかある。

触れることは苦手だと言うけれど、案外とその時に感じる体温を嫌ってはいないこと。
眠っている時は温もりのある方へと寄って行くこと。
それから、キスをするのが好きだと言うこと。

閨の中では勿論、それ以外の場所でも、彼はフリオニールにキスをする。
仲間たちの目から束の間離れた場所で、ふ、とフリオニールに触れる。

彼はスキンシップを好まない。
ジタンやバッツがよくじゃれついているが、あれも彼から求めた訳ではないし、寛容した訳でもない。
二人がそうやって構っているのが当たり前なだけであって、スコールは甚だうんざりしている───そう言って悪感情はないのだが───。
彼自身からと言えば尚更のことで、握手すら取り合わないものであった。

そう言う人なのだとフリオニールは思っていたのだが、付き合うようになってから、彼から触れる回数の多いこと。
それも、ふとした折、不意を突くようにして触れていくのだから、毎回驚く。

───今日もまた、スコールの戯れは続く。

海岸沿いの歪を調べて回る為、フリオニール、スコール、バッツ、セシルの四人で秩序の聖域を発った。
道中に大きなトラブルはなく、野良のイミテーションや魔物と数回、遭遇した程度だ。
平和と言えば平和なもので、バッツが終始何事か雑談を振り、フリオニールとセシルが答える。
スコールはその後ろで、バッツが指名に投げてくる話題を、短く返していた。

その雑談の最中に、何度か、


「フリオニール」
「ん?」


話題がバッツとセシルの間で咲いている時だった。
殿(しんがり)を歩いていたスコールが、フリオニールの隣に並ぶ。

と、その手の甲が、するりとフリオニールの手を撫でた。


「!」


くすぐったい感触が手の甲を滑った感触に、フリオニールははっとする。
隣を見れば、蒼灰色がどこか楽しそうに、悪戯な表情を浮かべていた。

スコール、と名を呼ぼうとすると、彼は歩く速度を落とした。
半歩分離れたかと思うと、「そういやさぁ」と言ってバッツがこちらを振り返る。
フリオニールが慌てて前を向き直った時には、スコールはさっきと同じ位置へと戻っていた。

バッツの話に応じながら、フリオニールの心臓は忙しく打っている。


(まだしばらく、皆には隠したいって言ってたのは、スコールなのに。なんでこんな風に触れてくるんだろう)


二人の関係は、まだ誰にも伝えていない。
冷やかしをする奴らがいるだろ、とスコールが顔を顰めて言っていた。
確かに、悪意や揶揄はなくとも、放っておいてくれない面々がいるのは確かだ。
まだしばらく静かな方が良い、とスコールが言うから、フリオニールもその意を汲んだ。

それなのに、だ。

隠しているのだから、仲間たちと一緒にいる時には、今まで通りに過ごそうと決めた。
二人きりで話をしたり、ささやかでも良いから触れ合ったり、そう言うことは人前では控えている。
意識がついつい彼を追うのはやめられないが、露骨にならないようにとフリオニールは努めた。

だのに、スコールの方がその境界線を踏んでくる。
ふとした時に、指先を繋いだり、腕に触れてきたり、────キスをしたり。
それも、他の仲間たちが案外と近くにいる時に、彼らが自分たちを見ていない隙に、一瞬だけ。


(聖域を出る時にも、あんな……)


今朝の出来事を思い出すと、顔が熱くなる。

拠点である屋敷の玄関先で、今日のルートを確認し、バッツが「よし、行くぞ!」と先陣切った後。
セシルがそれに続いて、フリオニールも行こうとした所で、スコールに呼び止められた。
何か言いそびれたことでもあったかと、振り返って見たら、そこにキスをされた。
身長分を埋めるのにスコールがほんの少し背伸びをして、その唇が、フリオニールの口端を掠める。
それは一秒にも満たない、瞬きの間のことだった。
固まったフリオニールを見た恋人は、小さく笑って「行くぞ」と言って歩き出した。

まずいのは、そうしたスコールの戯れを、厭だと思うこともないことだ。
ちゃんとスコールを咎めたり、今は駄目だと振り払えないから、彼は何度も触れてくる。

口端に触れた柔らかい感触を思い出してしまって、首まで熱が出ているのが判る。
バッツとセシルがこちらを振り返ったら、どうしたのかと聞かれるから、その前に冷まさなくては。

フリオニールが一人葛藤している間に、旅程は順調に進んだ。
海沿いまでは聖域から二日がかかるから、途中で野営を挟むことになる。
半分を過ぎたところで夕刻を迎え、林に入った四人は、暗くなる前にそこで野営の準備をすることに決めた。

食糧は持ち運んできたものの、荷物は多くできないから、携帯食が主になる。
それだけでは物足りない健啖家は少なくないので、可能な限り、現地調達も行っていた。

フリオニールが引いた弓矢は、林の上にいた鳥を射貫く。
落ちてきた獲物の大きさを見て、これなら今夜はご馳走だ、とフリオニールは満足した。
血抜きを済ませて野営地へと戻る道すがら、よく知る人影を見付ける。


「スコール」
「……あんたか。獲物は?」
「良いのが穫れたよ。これだ」


フリオニールが鳥を見せれば、スコールもほっとしたように頷く。


「良いんじゃないか。少し固そうだけど」
「そうだな。でも、煮込めば柔らかくなるよ」
「……それなら、もう少し拾うか」


スコールの片腕には薪が抱えられている。
既に二度は往復しているそうで、火を保つだけなら十分に思えるが、煮込み料理を食べようとなると、もう少し欲しい。

スコールは腕一杯の薪を見つめ、


「……一度置いて来るか」
「じゃあ戻ろう。こいつを置いたら、俺も手伝うよ」
「ああ」


二人連れたって、野営地の方へと足を向ける。

野営地では、バッツが竈を作って火を起こしていた。
セシルは近くの川へ水を汲みに行ったと言う。
フリオニールはバッツに今日の夕飯の鳥を預け、今度はスコールとともに薪拾いに行く。

林は茂っている木もあるが、枯れ枝もそれなりに落ちている。
スコールが拾い回った後でも、もう少し使えそうなものが見付けられた。
枝葉を拾って、野営地の周りをぐるぐると回るように歩いていると、


「フリオニール」


呼ぶ声に顔を上げると、近い距離にスコールの顔があった。
不意の至近距離にフリオニールが目を丸くしていると、そのまま近付いて来た唇が、フリオニールの頬に触れる。


「スコー、」
「……」


瞬間沸騰のように顔を赤くしたフリオニールに、蒼の瞳がくすりと笑う。
子供が悪戯を成功させたような表情だ。

突然の柔い感触に硬直している間に、スコールの腕がフリオニールの首へと絡む。
逃げを封じられたまま、今度は唇を重ねられた。
暖かくてぬるりとしたものがフリオニールの唇を舐める。


「ん、ン」
「んん……」


開けて、とノックをする舌先に、ぞくりとしたものがフリオニールの背を奔る。
このままそれを受け入れたら、きっと深いものになってしまう。
けれど、背にした向こうには、仲間たちの気配があるのだ。

丹念にフリオニールの唇を舐めて、スコールがキスをやめる。
首に絡めた腕はそのまま、スコールは不満そうにフリオニールを見つめた。


「フリオ」


なんで応えてくれない、と目が言っている。
判り易く責められている訳だが、フリオニールとて簡単に流される訳にはいかなかった。


「セシルとバッツがいるんだぞ」
「ここにはいないだろ」
「あっちに……」
「どうせ見えない」


確かに、気配はすれども、姿自体は木々に遮られて見えない。
太陽も落ちた頃合いか、足元も暗くなって来た。
野営地で焚いている日はこちらから臨めるが、あそこから林の中の詳細を知るのは、少々難しいだろう。

もう一度、スコールはキスをする。
柔らかい感触がフリオニールの唇に押し付けられて、またノックされる。
それでもフリオニールが噤んでいると、首に絡む腕が力を増した。
ねだる気配を漂わせるそれに、フリオニールは迷いつつ、恐る恐るに彼の背中に腕を回す。


「…ん、ん……!」
「ん、むぁ……っ!」


スコールの背中を抱きながら、口を開けて、彼の舌を受け入れる。
耳の奥で、くちゅりと言う音が鳴るのが判って、フリオニールは体が熱くなった。

スコールがフリオニールの咥内を堪能した後、舌は誘いながら逃げる。
それを追って行けば、今度はフリオニールがスコールの中に入った。
湿って火照った咥内を、ゆっくりと舌でなぞりながら、スコールの舌を擽る。


「ん、ふ……っ、ん……っ!」


ぴくっ、ぴくっ、とスコールの肩が小さく跳ねる。

ゼロにも等しい距離で、蒼灰色が熱ぼったく揺れている。
首に回された腕が、徐々にその力を緩めながらも、懸命に解けないように縋っているのが判った。
その身体が頽れてしまわないよう、背中を強く抱いてやれば、交わす口付けの隙間から、甘いものが混じった吐息が零れる。


「ふ、は……っんぅ……!」


酸素を欲しがって僅かに離れた唇を、フリオニールはすぐに塞いだ。
仲間たちの気配を気にして、こんな所で、と言った口で、恋人を貪る。
感じ入って動きが鈍くなる舌を捉えれば、首に縋る腕に力が籠るのが嬉しかった。

水音と啜る音が聞こえるほど、スコールの咥内をしゃぶりつくす。
歯列をなぞれば、スコールの体がぶるりと震えるのが伝わって、彼が興奮しているのが判った。
ともすれば、そのまま全てを食らい尽くしてやろうと、物騒な衝動も湧き上がる。

────が。


「……っは…、はぁっ、はっ……!」
「は、あ……は、ふ……ん、んん……っ」


フリオニールが唇を離すと、途端にスコールの膝から力が抜ける。
かくん、と折れる体を、抱き締めたフリオニールの腕が支えていた。

ふるふると震えるスコールの体を抱えたまま、フリオニールは座り込む。
スコールはフリオニールに身を預けていた。
は、は、と苦し気に喘ぐその表情が示すのは、苦悶だけではない。


「フ、リオ……」


うっとりと溶けた蒼灰色の瞳が、もっと、と続きをねだる。
しかし、フリオニールはぐっと喉を堪えながら、


「駄目だ、スコール。こんなところで始めたら……」
「……」
「……止められ、なく、なるだろ」


見つめる瞳を真っ直ぐに見返して、フリオニールは言った。

スコールの喉がごくりと鳴って、フリオニールの肩に捕まる手に力が籠る。
それをフリオニールは丁寧に外させて、手近な木にスコールを寄り掛からせた。


「薪拾い、してくるから。ちょっと休んでると良い」
「……」
「楽になったら、皆の所に戻るんだぞ。良いな?」
「……わ、かった……」


言い聞かせる声で言われて、スコールは渋々に頷く。
赤いその頬をフリオニールが撫で、もう一度触れたい欲求を堪えて、急ぎ足で薪拾いへ向かう。

残されたスコールは、しばらくぼんやりとしていた。
木々の頭上で瞬き始めた星を見上げるが、その眼に映っているのは、遠くの光ではない。
数分前に見た恋人の、熱に染まった紅い瞳を思い出し、体の奥が熱くなる。
じくじくと拡がっていくそれは、確かに彼に燈されたのに、その当人は行ってしまった。

疼く熱は堪らなく苦しいが、それを与える男の顔を思い出すと、どうしようもなく、嬉しい。


(……だから、つい、)


触れてしまうのだと、彼は知っているだろうか。
触れて、キスして、煽って、ようやく見れるあの眼差し。



悪い癖になっていることを判っていても、彼が最後に応えてくれることを知っているから、やめられないのだ。






『隙を見つけては隠れてちゅっちゅして来るスコールと、恥ずかしがりながらも嬉しくてそれに応えるフリオニール』のリクエストを頂きました。
皆には隠していたい癖に、大好きなフリオニールを感じたいので、隙あらば仕掛けてるスコールです。
我儘な恋人を持ったフリオニールは苦労します。的確に煽って来てくれるので尚更。

[16/シドクラ]リキッド・フレーバー



交渉事となると、大抵はシドかカローンの出番である。
このうち、隠れ家に必要な生活物資の類については、多くをカローンに預けている。
それが彼女の隠れ家においての役割であったし、彼女もそれを含めて自身の飯の種としていた。
金のかかる交渉事については元より彼女が強いので、これは非常に助かっている。

シドの方はと言うと、金で話がつかないものが主になる。
特殊な経緯でしか入手できない道具や素材、人脈を辿らなければ得られないもの。
外大陸からの舶来品も、カローンが入手困難な場合は、シドが出張ることになる。

交渉の中身は多岐に渡る。
信用の為に何某を持ってこいだの、どこそこの商会の顔役に面を通せだの、と言った具合だ。
それらに上手く口を合わせ、相手の警戒を削いで気分を良くしながら、隙を誘う。
口で言えば容易い話に聞こえるが、貴族にしろ商人にしろ、日々そうした腹の探り合いをしている者だから、損や危険への鼻が良い。
転がされる振りをしながら相手を転がすのは、そう簡単にはいかない。

交渉内容が賭け事になる場合も多い。

今日のシドの交渉相手は、賭博好きの貴族だった。
ふたつの杯にそれぞれワインと薬水を入れている。
薬水は危険なものではないと貴族は言ったが、何かを仕込んでいることは明らかだ。
それらふたつの杯のうち、ひとつを選び、ただのワインを飲んだらシドの勝ち。
薬水ならば、飲めば喉が妬けるように熱くなるから、結果はすぐに判る、と貴族は言った。

クライヴはその交渉の様子を、ベアラー傭兵として、シドの後ろから見ていた。
杯の中身はクライヴからも見えるが、どちらも濃い赤色をしていて、見た目では区別がつかない。
しかしどちらかひとつは確実に薬液で、その効果については有耶無耶に躱されている。

どうするつもりなのだろう───クライヴが訝しんでいる内に、シドの手は杯を選んでいた。


「こいつを貰おう」


シドは悩む様子もなかった。
まるで最初からこれが正解だとばかりに、躊躇いもなく杯を口に運ぶ。

ごくり、とシドの喉が動いた。
じっとその様子を、クライヴは勿論、貴族も見つめている。

三秒程度、静寂があった。
シドが杯を飲み干して、ふむ、と自身の喉に手を当てている。
その表情を、貴族の緑色の瞳がじろじろと観察していたが、シドはそれに口角を上げて返した。


「賭けはこちらの勝ちだ」
「……仕方あるまい。そちらの要求を呑むとしよう」


貴族の男は、至極残念と言う表情をしながら、そう言った。
上々の結果に、シドはクライヴをちらと見遣って口角を上げる。
仕事をして来い、と無言の指示に、クライヴも傭兵ベアラーらしく、黙してそれに従った。




交渉で得た物資は、夕方のうちに運搬隊に預けることが出来た。
賭けで勝ったお陰で代価は安く済み、滅多に手に入らない舶来の鍛冶道具も手に入った。
ブラックソーンに良い土産ができた、とシドは言った。

荷積みが終わると、運搬隊は隠れ家へと出発したが、シドとクライヴは町に残った。
今日はもう仕事はないが、明日は帰る道中で少し寄り道をしなくてはならない。
次の作戦に予定しているルート中に、大型のリザード種が徘徊しているという情報があり、それを退治するのだ。
今から出ても目的地に着くのは夜───夜目の利くリザードを相手にするのは分が悪い。
一晩休んで体勢を整えてから赴く必要があった。

シドと行動するようになってから、宿に泊まる際には、部屋がひとつあれば十分だった。
ベアラーの為にもう一部屋を取ると言うのも対外的には不自然であるし、シドもクライヴも、手狭な場所で過ごすことに問題は感じない。
一泊とは言え宿部屋代も決して安くはないから、そんなものだ。

───ところが、今日はクライヴの為に部屋が誂えられた。
「何故?」とクライヴ問えば、「空いてたからな」と言う返事だったが、クライヴはそれで納得していない。
シドも納得させるつもりはないようだったが、かと言って、それ以外の説明もしない。
「まあ取り敢えず休め。疲れてるだろ」と、往路の長道を労うように言ったのが、尚更不審を誘っていた。

どうにも譲られる様子がないし、部屋も確かに用意されている。
無駄にするのもどうかとは思うので、一旦は部屋へと入ったクライヴだったが、


(……何か隠してないか?)


どうにも気になって、クライヴはそのまま休む気にはなれなかった。

自分が心配しなければならない相手ではないとは思うが、明日の予定もある。
何もないならそれで良い、と思いつつ、クライヴは一度シドの様子を見に行くことにした。

クライヴたちが来る前に、宿の部屋は疎らに埋まっていた。
廊下に並ぶドアをふたつ通り過ぎて、屋根裏へ続く階段の手前にある扉が、シドの部屋だ。
クライヴはそこを軽くノックした。


「シド。起きてるか」


声をかけてみるが、返事はなかった。
もう眠っているのか、と思ったが、二人がそれぞれ部屋に入ってから、まだ半刻と経っていない。


「シド」


もう一度読んだが、やはり返事はない。
クライヴは少し考えたが、


(……何かあると反って隠しそうだな)


普段は飄々として気さくに喋るのに、急に口が重くなる時がある。
シドはそう言う男だった。

安宿のドアに、施錠などと言う上等なものはない。
クライヴは勝手を承知で、ドアを開けた。


「シド。少し確認したいことがあるんだが────」


敷居を潜りながら言って、そこでクライヴは止まった。

シドは部屋にいた。
ベッドの縁に座って、彼は眉根を寄せてこちらを見ている。
その眼付が少々睨んでいるように尖っているのは、クライヴの気の所為ではないだろう。
なんだってドアを開けたんだ、と言わんばかりの顔がある。

格好を崩すこともなく、シドはベッドに座っている。
その足の間で、シドは膨らんでいるものを握っていた。
何をしていたのかは一目瞭然である。


「……どうして開けるかねえ。返事しなかっただろ」
「……居留守なんて、あんたらしくないと思ったんだ。ただでさえ変だから、やはり何か隠してるんじゃないかと思って……」
「まあ、強ち間違っちゃいないが……」


シドは深々と溜息を吐いて、握っていたものをごそごそと仕舞う。


「取り敢えず、入って良いから、そこは閉めておいてくれ。さすがにプライベートが過ぎる」
「……すまない」


シドの言うことは最もで、クライヴは今更ながらに短い詫びをしつつ、ドアを閉めた。

シドは部屋の隅にある丸椅子を指差した。
ベッドから少し離れた位置にあるそれに、座れ、と言う事だ。
クライヴが素直にそこに腰を下ろすと、シドはベッドに上って、壁に背中を寄り掛からせる。


「今日はそこから近付くなよ。説明はしてやるから、終わったら部屋に戻れ」
「……なんだよ。妙に追い出そうとするんだな、今日は」


いつになく突き放すようなシドの口調に、クライヴは眉根を寄せた。
人が変わっている、とまでは言わないが、何か苛立ちか憔悴のようなものを感じる。
もっと言えば、それを隠す余裕がない程、シドが追い込まれている、と言う風に感じられた。

シドは懐から煙草を取り出して、一本、口に咥えた。
しかし火を点けることはなく、何かを誤魔化すように、歯でそれを噛んでいる。


「賭けで飲んだワインがあるだろう」
「ああ」
「あれなんだがな。実を言うと、ハズレなんだ」
「……はずれ?」
「ワインじゃない方を飲んだんだよ」


シドの言葉に、クライヴは目を丸くした。


「でもあんた、なんともなかったじゃないか」
「はったりさ。全く、質の悪いものを飲ませてくれる。物資の為とは言え、お貴族様の趣味に付き合うもんじゃない」
「一体何を飲んだんだ?」


賭けに使われたものについて、その詳細は説明されなかった。
一体なんだったのかとクライヴが問えば、シドは深々と溜息を吐いて、


「サボテンダーの身の搾り蜜だ。飲んですぐに判った。それもかなり蒸留した、濃いものだろうな」
「……それは、確か───」
「霊験あらたかな、元気にしてくれるマホウの薬だよ。切り身でも大分強いんだが、絞った果汁はもっと強力な上に、即効性・持続性ともに最高級品だ。値段も馬鹿に高い」
「そんなものを飲んで、あんた、大丈夫なのか?」


まるで今にも爆発しそうな言い方をするシドに、クライヴが思わず聞けば、


「大丈夫かと言われれば、まあ……大丈夫ではないな」
「でもあんた、飲んだ時からずっと、何もなさそうにしていたぞ」
「年の功かな。上手く誤魔化されてくれて良かったよ」


疲労感を滲ませて、シドはやれやれと首を振る。
そんな彼の額には、薄らと脂汗のようなものが浮いていた。


「……物の目的がこれだからな。出すものを出せば治まる筈だ。しかし、ちょっと効果が思った以上に強くてな。お前がいちゃ十分できそうにないから、部屋を分けたんだ」
「……そう、なのか」
「お前に相手をして貰うのも、この状態でって言うのは、どうかと思ったからな」


そう言ってクライヴを見るシドは、寄せた眉の端が少し下がっている。
付き合わせるのは悪いと思った、と言葉の変わりに表情が滲んでいる。

その表情に、じわりと苦いものがクライヴの内側に浮かぶ。

クライヴがちらと視線を下げれば、夕日を避けるように奥の壁に寄り掛かるシドの中心部が僅かに覗ける。
立てた片膝で隠されてはいるが、そこがどうなっているのかは、部屋に入った時に見てしまった。
いつになく昂っていたそのシルエットを思い出して、ぞく、としたものがクライヴの背に走る。


(……部屋から出た方が良い。多分、それが正解だ)


しかし、椅子から腰を上げたクライヴの足は、ベッドへと向かう。
足音を聞いたシドが、目尻を釣り上げてクライヴを睨んだ。


「おい、クライヴ」
「別に俺は構わない。普段は俺があんたを付き合わせているんだし。そんなに強い薬なら、一人で抜くんじゃ時間がかかるだけじゃないか」
「……調子が狂ってるんだよ。ハズレを引いた責任くらい、自分で取るさ」
「だからって効率が悪い方を取っても、明日に響くだけだろう」


言いながらクライヴは、外套の留め金を外した。
籠手も外していくクライヴに、シドの目尻に剣呑なものが滲む。


「クライヴ。俺は良いから、お前は部屋に戻れ」
「断る」
「……ああ、まったく……!」


上衣を脱いで、ボトムのベルトも外し始めたクライヴに、シドは吐き捨てるように言って天井を仰いだ。

裸になったクライヴの体重がベッドに乗り、ぎしりと音を立てた。
壁に寄り掛かっている男の下腹部に手を伸ばすと、その手が掴まれる。
直後に、クライヴの躰はぐるんと回って、背中がベッドへと落ちた。

見上げた先に、夕日を受け止める天井があったかと思うと、男の顔が濃い影を映して現れる。
普段はどこか子供を見守るように柔い榛色の瞳が、ぎらつく光を抱いて見下ろしていた。


「忠告しただろう。近付くなって」
「……俺がそれを聞くと言った覚えはない」
「何をするか分からないんだぞ。お前が嫌がるようなことでも───」
「そこまであんたは意地悪くは出来ないさ」


クライヴの返す言葉に、シドは眉間の皺を深くした。
喉の奥で唸る声があって、溜息を吐くと共に、噛みっぱなしにしていた煙草がシーツに落ちる。
火がついていなくて良かったな、とクライヴは呑気なことを思った。

シドは渋い顔でクライヴを見下ろしている。
その首筋に浮いた汗の粒が、喉仏の縁を伝い落ちた。


「お前がどうなっても知らないぞ」
「問題ない」
「明日の仕事は変わらないからな」
「判っている」


全く落ち着いた声で応えてやれば、シドはもう一度、深々と溜息を吐いた。
そうしてようやく、取り繕うものをやめた目が、組み敷いた男を映す。

首筋に落ちてきた唇が、キスではなくて歯を食いこませた瞬間、得も言われぬ興奮がクライヴの背筋を奔る。



熱の匂いは同じなのに、それがいつにない激しさを伴うと、妙に癖になる。
そんな事は、その時はまだ想像もしていないのだった。






『シドがサボテンダーの切り身(または似た効能の何か)を摂取してしまって……なシドクラ』のリクエストを頂きました。
理性と自制の強い人が、のっぴきならずにその辺を飛ばした時の様子と言うのは、大変美味しいものですね。

シドはクライヴに嫌な思い(ベアラー時代のあれこれ)を思い出させるのは本意ではないので、何しでかすか分からない自分とは離して置こうと思った訳ですね。
折角部屋を分けたのに、さっさとそれを無駄にしてくれるクライヴでした。相手がシドだからと言う信用ありき。
そもクライヴが部屋に入ることを許してしまった時点で、シドの負けな気もする。この時には判断力は大分鈍った状態だったんだと思います。

[バツスコ&ロクスコ]その代償は誰の手に

  • 2026/08/08 21:50
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

中世ファンタジーパロ(FF5世界ベース)




バッツがスコールを拾ったのは、三ヶ月ほど前のことだ。
墓参りに故郷へ行き、それも済んで山を下りている途中、道端に倒れているのを見付けた。
さすがにこれを放っておくのは寝覚めが悪いと、彼を担いで一旦故郷へ引き返した。
一晩後に彼は目覚め、どうしてあんな場所で倒れていたのか聞いてみたが、彼は一切合切を覚えていなかったのである。
少ない荷物からどうにか名前と思しきものを発見し、取り敢えずそれを彼の名前と据えた。
以後、行く宛も寄る辺もないスコールは、自分自身の欠片を探す為、バッツと同行することとなる。

バッツは元々、根っからの風来坊だ。
齢4つを数える頃に、母が亡くなり、父に連れられて旅の空で生きることになった。
故郷には折々に帰ることはあったが、結局父もバッツもそこで根を張るには至らず、実家は年単位で空き家である。
結局、15の時に父も旅先で逝ったことを切っ掛けに、故郷にあった家は売り、母の墓に父の骨を埋めた。
知り合いの多い場所だし、墓もあるしということで時折足を向けるようにはしているが、それもやはり、年単位で一度と言う程度のことだ。

一人旅だったバッツがスコールを伴うようになってから、二ヶ月が経った頃、新たな同行者が加わった。
トレジャーハンターを生業としているロックである。
旅の路銀を稼ぐ為、バッツが引き受けた魔物退治の依頼に、当該対象と一度遭遇していた事から、案内役として依頼人に紹介された。
魔物退治は無事に終わり、バッツは勿論、案内に同行したロックも、十分な報酬を貰っている。
しかし、ロックはそこで、自身の同行を提案したのだ。
急な話にスコールは判り易く顔を顰めたが、その彼の保護者的立場を担うバッツが、笑って良しと頷いたので閉口した。

三人旅となってから、道程はそれなりに順調だ。
旅慣れている人間が二人もいるし、スコールは記憶は定かではないが、どうやら旅自体は苦ではない。
向かう先は特段決めず、その時々の路銀の都合や、噂話を聞いて決めていることが多かった。

野営の準備を済ませ、バッツが作ったポタージュを夕飯にしながら、一行は広げた地図を覗き込んでいる。


「今がこの辺で、こっちがトゥールの村。それを過ぎて南下すると、タイクーン城がある」
「城に用があるのか?」
「まあ、なくもないけど。おれのはついでで、メインはスコールかな」
「……俺?」


スコールが顔を上げて眉根を寄せる。

スコールはいつもバッツに旅の行く先を預けている。
だから彼がそこへ行くと言うのなら、ついて行く他ないのだが、その方針の理由に自分が挙げられたのは、今回が初めてのことだった。

どういうことかと視線で問うスコールに、バッツは木器にポタージュをおかわりしながら答える。


「ここまで幾つか村や街に行ってみたけど、スコール、何も思い出さなかっただろ」
「……ああ」
「城とか城下町とか、そっちはまだ行ってなかったし。スコール、結構戦えるし、真面目なところあるから、城仕えでもしてたことがあるんじゃないかと思ってさ」
「……」
「タイクーンならおれの知り合いがいる。ちょっと話聞いて貰って、この辺りで行方不明の捜索願でも出てないか、確かめて貰うことも出来るよ」


バッツの言葉に、スコールは懐疑するように眉根を寄せる。
それで自分のことが果たして判るのだろうか、と。
だが、結局は今まで通り、バッツの方針に従う意を示した。


「あんたがそこに行くって言うなら、それで良い」
「他に何か見たいものがあるなら、そっちに向かっても良いんだぞ?」
「……何度も言ってるだろう。どこに何があるのかさっぱり判らないから、別に良い」


そう言ってスコールは、自分の器のポタージュを飲み干した。
バッツは「そっか」と言ってスコールの手から空の器を引き取る。


「ロックはどうだ?それで良いか?」
「ああ。俺も特に行きたい所が今ある訳じゃないしな。お前らに付き合うよ」
「じゃあ決まり。トゥールの村には、ここから三日くらいだ。そこで準備して、タイクーン城に向かおう。山の上にある城だから、ちょっと日がかかるんだ」


言いながらバッツは地図を片付ける。
それから十分もしない内にバッツも夕飯を終えた。

太陽が沈み切る前に、焚火に使う薪を拾い足す。
この辺りの森はゴブリンが巣を作っている所があるから、その襲撃を躱す為にも、火が欠かせない。
夜通し炎を絶やさない為に、見張り役が必要だった。


「じゃあ、最初は俺が見張りをするから、スコールとバッツは寝ろよ」
「そうしてくれるんなら、お言葉に甘えるか。次はおれを起こしてくれて良いよ」
「それならスコールは最後だな」
「……了解」


バッツとロックの遣り取りに、異論はない、とスコールは言った。

ロックは愛用のダガーを鞘から抜き、砥石と布を使って手入れを始めた。
スコールとバッツはそれぞれの荷袋から毛布を取り出して、焚火の傍で包まる。
今日もそれなりに長い距離を歩いたからか、程なく寝息が聞こえてくる。

ロックがダガーの刃の様子を確かめる傍ら、ちらと寝転んだ仲間たちを見ると、幼い寝顔がある───スコールのものだ。
その隣では、寝転んだバッツがいるが、こちらはまだ目が開いている。
褐色の瞳は空を見上げていたかと思ったら、隣に並ぶ寝顔を見て、おもむろにむくりと起き上がった。


「寝てるな、スコール」
「そうだな」


バッツはスコールの顔を覗き込み、普段の凛とした面立ちとは異なる、丸みのある頬をつつく。
一見すると硬いと思いきや、その頬肉は案外と柔らかい。
ふに、と指を軽く沈めた感触に、バッツはくすくすと笑いながら、スコールの寝顔を眺めている。

ロックも、すっかり熟睡している様子のスコールに、くつりと喉を鳴らした。


「ようやく、少しは懐いてくれたかな」
「ははは。そうかもな。まあそろそろ一月経つからなぁ」


ロックの呟きに、バッツは眉尻を下げて笑う。


「全然寝なかったもんな、最初の頃は」
「判り易く警戒されてたからなぁ……まあ、信用されてなかったのは仕方ない。俺も押し掛けたようなものだし」
「おれは別に気にしてなかったけど。ああ、でも、スコールに何かしたらどうしようかなーとは思ってたか」
「本当に信用がないな」
「だってロック、あの時からスコールのこと見てたからさ」


バッツの言葉に、ロックは返す言葉がない。
隠しているつもりもなかったが、そうも判り易く晒しているつもりもなかった。
ひょっとしてスコールにも勘付かれていたから、ああも警戒されていたのかと思ったが、


「まあスコールは見られてたってことは気付いてないと思うよ。なんか鈍いみたいなんだよな、そう言うの」
「そうなのか?あれだけ警戒心強いのに?」
「色々考えて警戒してるみたいだけど。そこに自分は入ってないんだよな、スコールって。案外無防備だよ」


バッツの語るスコール像に、確かにそう言う所はある、とロックも思う。

危険や負の可能性については必要以上に頭が回るのに、自分への瑕疵は後段にし勝ちだ。
だから酒場で仕事を探す時など、バッツはスコールを自分の傍から離さないようにしている。
初めこそ少々過保護に見えたロックだが、一月を共に過ごすうちに、バッツの気持ちが判った。
冷静な顔をしている癖に、どうにも危なっかしいのだ。

ロックが苦笑している間も、バッツはスコールの寝顔をつついている。
眠りが深いとは言え、さすがに鬱陶しかったか、スコールは「んん……」とむずがって寝返りを打った。
バッツから逃げるように背中を向けて丸くなる。


「邪魔してやるなよ、バッツ。起きたら怒るぞ」
「大丈夫だよ。寝起きのスコールって、結構ぼーっとしてるから」


バッツはとにかく、スコールのことが構いたくて仕方がない。
昼間もあれやこれやとスコールにじゃれつき、しまいにはスコールが「黙って歩けないのか」と睨んだくらいだ。
それに対してバッツは、「色々見たら何か思い出すかも知れないだろ?」と言う。
自身の記憶喪失のことを引き出されると弱いのか、スコールは苦い顔で閉口する。
結局、バッツが持って来た花だとか石だとかを受け取って、ちゃんと相手をする辺り、律儀である。

そんな日中の様子を思い出して、ロックは両目を細くする。


「……記憶喪失、か」


零れた呟きに、バッツが振り返る。

ロックは、揺れる焚火を見つめていた。
その眼に映るのは、そこで煌々と耀く火ではなく、遠い記憶の残滓だ。

ロックは炎を見つめたまま、バッツに問う。


「なあ、バッツ。スコールの記憶は、戻ると思うか?」
「そんなことおれに訊かれてもなあ。戻れば良いとは思うけど」


記憶喪失が回復するかなんて、医者でも判らないことだ。
バッツも問われたところで、そう答える以上は出来ない。

ロックはダガーを鞘に納めると、足元の小さな土石を拾って、指先でそれを遊ぶ。


「そうだな、俺もそう思う。スコールは自分のことも判らない。何も思い出せないって言うのは、きっと辛いことだ」
「あんまりそんな悲壮感もないけどな、スコールは。でも、色々困ることはあるだろうなあ」


バッツの返す言葉に、そうだな、とロックは頷く。


「でもな。聞いたことがあるんだ」
「何を?」
「記憶喪失の人間が、元の記憶を思い出すと、記憶喪失だった時のことを忘れる───って話」


ロックの言葉に、ぴたりとバッツの動きが止まった。

ロックは過去に、記憶喪失を治す方法を探したことがある。
結局それは見付からなかったが、その道中で、記憶喪失から回復したと言う人にも逢った。
その内の全てと言う訳ではないが、思い出したのと引き換えに、忘れていた時のことが思い出せない、と言う者がいる。
まるで別の人生をそれぞれ歩み、記憶の喪失と回復を条件に、それが入れ替わったかのようだ。
中には、記憶喪失中は全く別の性格になって、回復するとそれ以前のものに戻った、と言うことも。


「スコールの記憶喪失が、回復しない方が良いってことじゃない。スコールには帰る場所があるかも知れないし、待ってる奴がいるかも知れない。いるべき場所に帰してやる為にも、スコール自身の為にも、記憶は戻った方が良い」
「うん。そうだな」
「でも思い出したら、こうして旅をしている間のことは、忘れるかも知れない」


その可能性を考えると、ロックはじわりと胸の奥が冷たくなるのを感じた。
それはいつかの日、掴み零してしまった温もりの喪失を彷彿とさせる。

ぱきり、と指先にあった土石が割れる。
ぽろぽろと地面に落ちるそれを見つめて、ロックは苦いものを噛んでいた。

バッツはそんなロックを見つめ、不可解な様子で首を傾げる。


「そう言う話は、おれも聞いたことがあるけどさ。必ずしも忘れるって訳じゃないだろ?」
「……まあな」
「もし忘れられるとしても、おれはスコールと一緒にいるよ。まあ、スコールがおれと旅をするのが嫌だとか、行けない事情があったりしたら、話は別だけどさ」


バッツはそう言って、隣で眠る少年を見る。
健やかな寝息を立てているその目元にかかる前髪を、少し荒れた指先が梳いた。

寝顔を見つめる褐色の目に、柔く甘い光が燈っていることに、ロックは気付いている。


「スコールの意思は尊重するけど。それが関係なかったら、おれはスコールと離れるつもりはないんだ」
「……」
「ロックもそう言うつもりはあるんじゃないか?」


問い返されて、ロックは口を噤んだ。
喉の奥にある苦いものが、逆流するように押し出てくるのが判る。


「……また忘れられるのは辛いからな」
「また?」
「……俺は一度、逃げたから」


それ以上は口にする気になれなくて、ロックは立膝に頬杖をついた。
ヘイゼルカラーの瞳の中で、ゆらゆらと炎が揺れている。


「……忘れられたら、それまでにあったことは消えるんだ。どんなにこっちが覚えていても」
「………」
「俺は、スコールに……忘れられたくないな」


ようやく、自分が傍にいても、眠ってくれるようになったのだ。
そうなるまでに、睨む蒼に笑い返したり、どうでも良い話を振ってみたり、小さなことを重ねていった。
別にそれを特別なことにしたい訳ではないけれど、そう言う些細な積み重ねで、今がある。
あんなにも警戒していた蒼色が、今は時折、自分を見て微かに笑ってくれるようになったことは、ロックにとって決して小さくない。

けれど、忘れてしまえば、それも全部なかったことになる。
嘗てロックは、それを経験した。
そして、二度と思い出されることもないまま、全ては病の床に沈んだ。
今際に全てが返って来たと話に聞かされたが、本当の所はどうだったのか、ロックには最早知りようもない。


(あの感覚は、もう────)


じんわりと胸に広がる虚無感は、どれだけ月日が経っても薄れない。
それをロックに釘打った出来事も、決して薄れはしないのだ。
ロック自身が、記憶喪失にでもならない限りは。

貝のように口を噤んだロックを、バッツはじっと見ていた。
彼の零した言葉の意味を汲み取れるほど、二人の付き合いは長くない。
それでも、バッツは確かにひとつ、返すべき言葉が見付かっていた。


「ロック。スコールがおれたちのことを忘れても、こうやって一緒に過ごした時間まで、全部なくなる訳じゃないだろ」
「……」
「おれたちが覚えてるんだ。だから消えることはない。それに、スコールがもしおれたちのことを忘れても、また思い出させてやれば良いさ」
「……」
「思い出せなかったら、それでも良い。新しい思い出をまた作れば良いんだよ」


バッツの言葉に、ロックは何も言わなかった。
黙して見つめ返すのみのロックに、バッツは眼を逸らさない。
芯から「おれならそうする」と言っているのが、言葉なく聞こえた。

毛布に包まった少年が、小さく身動ぎをする音があった。
気配に敏感な節のある彼だから、横でいつまでも交わされる遣り取りが煩かったのかも知れない。
バッツはそんなスコールの毛布を直してやって、自分の毛布を手繰って横になった。


「そろそろ寝るよ。おやすみ」
「……ああ」


会話は呆気なく幕切れた。
程なく健やかな寝息が聞こえて来て、後は静寂と焚火の燃える音だけが残る。

一人揺れる炎を見つめながら、ロックはひそりと唇を噛む。


(お前は、知らないから)


それを言うのは簡単だが、それをしたところで何の意味があるだろう。

何より、真っ直ぐにこちらを見つめるバッツの目が眩しかった。
強い光を湛えたそれは、きっと本当にスコールが自分のことを忘れても、そうやって彼に正面から向かって行くのだろう。

それは嘗て、ロックが選ぶべき道だったのかも知れない。
喪われ、拒絶された悲しみに暮れて、傍を離れてしまったことは、ずっと悔恨の念として残っている。
だからスコールのことを放って置けなかったのだ。
過去の残滓に引き摺られ、記憶喪失の彼の世話を焼くことで、嘗ての贖罪を求めている自分がいることは、否定できなかった。

はあ、とロックは溜息を漏らす。
らしくもない話をしたと、唇を指で抓ってやった。


(今から考えたって、どうしようもない話か……)


眠る仲間たちにもう一度目を遣る。

口を開けて寝ているバッツの横で、スコールは寒さを嫌う猫のように丸くなっている。
一月前には、ロックが見張りをしている間、横になることもせずに起きていたのに、今はすっかり夢の住人だ。
そこまで自分のことを信用してくれたことが、どうにも、嬉しい。



どうか、いつかこの距離が失われませんように。
そう祈る以外に、今は出来ることはない。






『バツスコ&ロクスコ』のリクエストを頂きました。
別々の話にする案もありましたが、折角なので今回は二人一緒にスコールを可愛がってもらう方で。

三人旅してみて欲しいなあと思ったんですね。
バッツとロックは職業柄長旅に慣れてるけど、スコールは果たして。世界の基準が違うので、歩き旅での消耗は二人より早いと思います。意地で二人のペースについて行くけど、こっそり世話を焼かれている。
ファンタジーなパロの雰囲気です。世界感としてはFF5がベースですが、多分どこかにFF6の街もある。FF8の街まであるかは謎です(ふんわり設定)。

記憶喪失絡みとなると、ロックはどうしても重い方に行きがち。なのでバッツは逆に行って貰いました。
バッツもDFFでは記憶喪失してるようなものでしたが、僅かに覚えているガラフの振る舞いを真似してみたりと前向きにできる方向にしているので、ロックほど沈みはしないかなと。
割り切って方向を自ら変えられるバッツと、ずっと割り切れずに引き摺ってるロックの違い。スコールは前向きに動く方に引っ張られるのが丁度良いと思うので、今の所はバッツに懐いている模様(拾われた刷り込みもアリ)。

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