サイト更新には乗らない短いSS置き場

Entry

Category: FF

[レオスコ]鎮めの声

  • 2026/08/08 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



変異種と言うのは総じて厄介だ。

大抵のイミテーションは、その姿の下となった人物の行動を真似る。
攻撃の時、回避の時、それぞれの癖まで再現する。
精密な造りのものほど、その再現度が高く、尚且つ、癖をカバーする為の知恵も回っているように見えた。
そう言う意味で、精巧な造りのイミテーションと言うのは、元となった人物の歪な上位互換と言えるのかも知れない。
悔しいことに、本人よりも強い、とまで言わしめることも決して少なくはなかった。

だが、本人と似ているのなら、少なくともそこに攻略の糸口もあるのだ。
攻め手のパターンが判っていれば、それを強固に真似る個体ほど、裏を掻くことも出来る。

変異種の場合、その理屈データが通用しない個体が多い。
本物にはあり得ない、一定の行動に固執するものであったり、全く理屈の見えない行動を取るものがあったり、我が身の摩耗を顧みず猛攻するものもある。
面倒なのは、その違いを一見して判断するのは難しい、ということ。
見た目に精巧な造りをしている変異種も少なくはなく、こうした手合いに絡まれると、煮え湯を飲まされることもあった。

スコールの宿敵である魔女アルティミシアは、持ち得る膨大な魔力を遺憾なく行使する為に、対峙する際には必ず距離を保つ。
遠方から放射される凶悪な魔法は、近接戦を持ち場とするスコールにとって分が悪い。
しかし、だからと言って、近距離ならばこちらのペースになるかと言えば、そうは優しくはないのだ。
至近距離で放たれる魔法は、人の躰など容易く貫いてくれるのだから。


(……判っていた。だからこちらも、十分警戒して戦った)


森を歩くスコールの歩調は遅い。
痛む腹を抱えて歩くのは、その傷の深さ以上に足を重くさせる。

───禍々しい色に光る歪の中で、魔女のイミテーションに遭遇した。
即座に戦闘態勢を取ったスコールだったが、初手から調子を狂わされる羽目になる。
魔女の領分として、距離を取られるものと思っていたから、逃げられる前に接近しようとしたスコールだったが、先に肉薄したのは魔女の方だった。
正面から不意を突かれた格好になり、初撃こそ咄嗟に躱したが、先手を取られたのが痛かった。
至近距離から息つく暇もなく撃ち続けられる槍に、スコールは防戦を強いられる。
いつ尽きるとも知れない魔力で全身を串刺してやろうとする魔女に、スコールは強引にそれを突破する方法を取った。
放つ魔法がほんの一瞬、途切れた瞬間に、防御を捨てて突進する。
結果は功を奏し、魔女のイミテーションを砕くことが出来たが、状況としては相討ちと言えた。
闘い終えたスコールは、腹と足にそれぞれ槍を食らっていたのである。

歪に巣食っていたイミテーションが、あの魔女一体だけだったのは幸いだった。
それを屠ったことで歪は浄化され、スコールもそれ以上の戦闘を臨むことなく脱出する。
その時点で傷の痛みは明らかで、早い治療をするべきだったが、魔女との戦闘でスコールは体力と魔力を使い切っていた。
ケアルをひとつ唱えた所で、応急処置にもならず、まず体を休める必要がある。

だから、少しでも安全な場所を探して、痛む体を引き摺り歩いているのだ。
そこに加えて、空がごろごろと不穏な音を鳴らしている。


(せめて、降りだす前に)


森の中の危険は、イミテーションや混沌の戦士だけではない。
徘徊する魔物や野生動物からも、身を隠せる場所を見付けなくては。

体力の限界が先か、雨が降るのが先か。
どちらにせよ、スコールにとっては回避したい。
ずきずきと痛む腹を手で抑え、歯を食いしばりながら歩いた末に、


(……洞窟)


突き当たりに辿り着いた崖の下に、それはあった。
生き物が巣にしていたのか、地盤が崩れて穴が開いたのか。
いずれにせよ、空模様が見るからに怪しい今、スコールに悩んでいる暇はなかった。

危険な獣の気配がないことだけを確認して、洞窟の中へ入る。
入り口から奥へは数メートル、雨風の侵入から逃げられるだけの距離はあった。


(……ここで)


入り口からは距離を取り、しかし外の光は確認できる場所で、スコールは壁に身を寄せた。
しばらく座ってゆっくりと呼吸を整えようと試みたが、どうにも傷が痛む所為で上手くいかない。
体を縦に保っているのも辛くなり、スコールは迷ったが、已む無く横になることにした。

傷む傷を庇って、熱が逃げないように手足を縮めて丸くなる。
スコールはゆっくりと深呼吸をしながら、少しだけ、少しだけだと自分に命じ、目を閉じた。




意識の浮上とともに、雨音が聞こえていた。
崖から程近い場所に茂る木々を、雨粒が絶え間なく叩いている。
ひんやりとした空気が頬を撫でていくのが判った。

それと同時に、温かいものが逆の頬に当たっている。
柔らかさと堅さと、中間にあるような感触に、温い暖かさ。
微睡の中で意識が浮上と沈下を繰り返し、もう少しこのままでいたい、と天秤が傾く。
けれど、ここがいつまでも寝ていられる程に安全が確約されていないことを、スコールは辛うじて覚えていた。

重みの取れない瞼を薄く開けると、薄い光が遠くにある。
岩肌が剥き出しの暗いトンネルを見つめ、ああ、と自分がどうしてここにいるのかを思い出した。
降る前に逃げ込めたのは幸いだった、とぼんやりと思いながら、頬に触れる温もりにまたうつらうつらと意識が浮く。

と、するり、と何かが首筋を触れた。
瞬間、は、と目を瞠って飛び起きる。


「────!」
「おっと」


跳ね上がるようにして体を起こしたスコールを、蒼灰色の瞳が丸くなって見ていた。
驚いた表情だったが、それはすぐに和らいで、そこにいた人物はホールドアップの体勢を取る。

自分とよく似た色の長い髪、蒼の瞳の狭間に走る斜め傷。
ともすれば鏡越しにその顔を見ているような気分になる。
しかし年齢は明らかに自分よりもいくつか上で、スコールって成長したらこんな感じになるのかな、等と仲間たちが雑談していたこともあった。

レオンだ。
その顔、その形が間違いなく彼であることを確認して、スコールは詰まらせていた息が抜ける。


「あんた……なんで」
「いや、何」


この洞窟には一人で辿り着いた筈だ。
そもそも今日は同行者もなく、単独で歪を解放して回っていた。

問うスコールに、レオンは両手を下ろしながら、


「ウォーリアたちと混沌の大陸方面の歪を調べていたんだが、その途中で次元の圧縮に巻き込まれてな。どうにか脱出はしたが、その弾みにこの辺りへ飛ばされた。他の皆とも逸れてしまって、どうしたものかと思っていたんだが、雲行きが怪しかったから、適当に雨宿りできる場所を探して───ここを見付けた訳だ」


そう語るレオンの肩は、薄らと濡れている。
長く雨に晒されたと言う程ではないが、運悪く見舞われたのは間違いないようだ。

中途半端な姿勢でレオンの話を聞いていたスコールは、はたと自分の体のことを思い出した。
脇腹に手を遣ると、じん、とした鈍い痛みが走ったが、顔を顰める程ではない。
足を動かせばこちらも同様で、痛み方が随分と楽になっているのが判った。

自分の体を観察するスコールに、レオンが言った。


「傷なら治して置いた。俺の魔力では、応急処置が精々だが」
「……いや。助かった」
「傷の原因については、聞いても?」
「魔女の変異種。討伐はした」
「そうか。ご苦労だったな」


くしゃ、とレオンの手がスコールの髪を撫ぜる。
子供を褒めるような仕草に、スコールは眉根を寄せて、その手を押し退けた。
眉間に皺を寄せて睨むスコールに、レオンは肩を竦めて手を下ろす。

レオンの視線は、トンネルの向こうの光へと向けられた。


「雨はまだ止みそうにない。もうしばらく、ここで休憩だな」
「……そうか」


レオンの言葉に、スコールは嘆息した。

傷の手当はレオンがしてくれたとは言え、彼も魔力は潤沢ではないから、あくまで表面の治療をしたに過ぎない。
早く聖域に戻って、ティナやセシルに頼んだ方が良いが、負傷した体を雨の中に引きずり出すのも悪手だ。
一時眠ったことで、反って疲労を自覚したか、体も重く感じる。
この洞窟の奥から危険生物でも現れない限りは、ここから動く気にはなれなかった。

傷のあった場所を庇いながら起き上がろうとすると、やはり痛んだ。
横になっている方が楽、と身体が訴えている。
……それを察したかのように、レオンがぽんと自分の膝を叩いて、


「ここ、使って良いぞ」
「は?」
「さっきもそうしていたしな」


ここ───レオンの膝。
そこを“使う”とはつまり、そこを枕にして横になる、と言うことだ。

スコールは判り易く眉間の皺を深くした。


「……いらない」
「そうか?見付けた時、寝辛そうにしていたから、この方が良いと思ったんだが」
「別に、問題ない」
「寝床の環境は大事だぞ」
「こんな状況で、環境も何もないだろ」


冷たい岩肌が剥き出しの、灯りもないトンネルの中。
今のところは獣の気配もなく、雨風から守ってくれると言うだけでも重畳だ。
だからスコールは、ここなら、と意識を飛ばすことも許された。

眠る時には、周囲の冷気への抵抗と、何かあった時に身を守る為に体を縮めていた筈だ。
そうすると、どうしても神経までは休める訳にはいかず、体のどこかは緊張で硬化する。
しかし今現在、体はそこまでの重怠さはなく、───その理由は、今目の前で柔い笑みを浮かべている男がしてくれたことに他ならない。


「負傷しているんだ。雨が止むまでに、体力を回復させた方が良いだろう」
「……」
「膝が嫌なら、せめてこっちに寄る方が良い。冷えると体に障る」


レオンの言うことは尤もだ。
雨の外界もあり、岩肌は冷たい空気を反射放出させて、洞窟の中の気温を更に下げている。
暖があるなら、それを使わない手はなかった。

判っている、判っているが。
先に自分がされていたこともそうだが、どうにもそれに甘えるのは、スコールのプライドに障る。
それは単なるスコールの意地、見栄っ張りの話だが、そこを容易く折れないのがスコールたる所以である。

ただ、体については、確かにもうしばらく休めたい。
疲労感を訴える体が、良いからさっさと楽な体勢になれ、と言っていた。


(……それに、相手はレオンだ)


この男は、どうしてかスコールに甘い。

仲間の中では彼が年上組で、スコールは年下組に割り振られるのもあるだろうが、それにしても、レオンはスコールをとかく贔屓し勝ちである。
その様子を見たティーダなどは、「お兄ちゃんが弟の世話焼いてるみたいっスね」と言う。
それをレオンが満更でもない顔をして受け止めるから、最近、賑やかしの面々からは、レオンのことを「スコールの兄ちゃん」などと言う認識になっているらしい。
────それはともかく。

年の甲なのか、危険感知に関しても、レオンは優秀だ。
何かあれば間違いなく動くことが出来る、その信頼性も高い。
今現在のこの状況と、スコール自身の容態と併せて、体を休めるのに見張り役を預けるには十分な相手だった。


「………」
「ん?」


じっと見つめるスコールの視線を受け止め、レオンはことんと首を傾げる。
お前の好きにすると良い、とその眼は言っていた。

じり、とスコールの体が身じろぐ。
地面を膝で擦りながら、じわじわと近付いて行くと、レオンはじっとその様子を見つめていた。
その内に二人の距離はゼロにも等しいものになり、レオンの横にスコールが座る。
数拍、スコールが静かに細い呼吸を繰り返した後、ようやくその身体から力が抜け始めた。


「……は……」
「何かあったら起こすぞ」
「……ん」


この雨の中で何が起ころうものか。
そんな風にも思ったが、イミテーション然り、この世界の魔物然り、確証はない。
下手に「何があっても起こさないようにするから」なんて言われるより、余程信用できる。

二人揃って舌の回る質ではないから、洞窟の中は静かなものだ。
出入口の方から聞こえる雨音は相変わらずで、まだまだ途切れる様子がない。
少し風が強くなっているようだから、これが雨雲を連れて行ってくれると良いのだが。
夕暮れの時刻までに雨が止んでくれれば、夜になる前には聖域に戻れる算段だったが、天気の気紛ればかりは祈るしかなかった。

レオンと過ごす静寂は、気まずいものがないのが良い。
隣に感じる温もりの気配から離れないよう、二の腕をわざと当てると、レオンは好きにさせてくれた。


(……こんなのだから、嫌なんだ……)


この男に甘えるのは。
際限なく甘やかされて、勝手に体の力が抜けるから。

まだ休息を欲する体が、とろとろとした睡魔を連れてくる。
眠るなんて無防備なこと、と思いはすれども、今スコールは一人ではないのだ。
隣を見れば、じっとトンネルの向こう───雨の外界の様子を見つめる男の横顔があって、彼に任せていれば良い、と言う甘えたな声が内側から聞こえる。

じっと横顔を見ていると、至近距離の視線の煩さが伝わったか。
しかし、こちらを振り返ったレオンの口元は、どこまでも柔い。


「大丈夫だ、スコール」
「……」


何がどう、と彼は言わなかった。
ただその言葉だけがあれば、スコールには十分でと言うことを、きっと彼は知っている。

結局スコールも、それに甘えてしまうのだ。


「……少し、寝る」
「ああ」
「少しだけだ」
「ああ」


雨が止んだら、歩かなくてはいけない。
その為にも、戦闘で使い切った体力も、魔力も、少しでも多く回復しなくては。
見張りを引き受けてくれる男がいるのだから、回復に集中できるのは良い事だ。

これからの自分の行動に対し、まるで言い訳の様につらつらと思考を巡らせながら、スコールはレオンに寄り掛かる。
断りなく体重を預けた少年を、レオンは咎めることなく受け入れた。



────静かな寝息が零れ始めるまで、それから幾許もなく。
男は満足そうに笑みを浮かべて、寄り掛かる少年の柔い髪をそっと撫でた。





雨宿りのレオスコ。
相手がレオンなら大丈夫、と無意識に刷り込まれているスコールと、判ってて甘やかすレオンでした。

[スコリノ]歩いた軌跡を辿ったら

  • 2026/08/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



自分のことだけを話すのは、どうにも恥ずかしい。
けれど、聞いてほしくないと思う程、嫌な話題だと言う訳でもない。
だから、どうせなら皆で同じ話が出来れば、楽しく話せるかも知れない。

理由は色々と挙げられるが、仲間たちのことをもっと知るにも、良い機会になると思ったのだ。
何せ、ここで出会った人々は、皆それぞれ違う世界から迷い込んだ───招かれた、のかも知れない───ものだから、それぞれの常識や感覚も違う。
そう言ったところを打ち明けたり、知ったりすることで、信頼関係も作ることが出来る。
リノアはそう思っているから、皆で話す機会を持つことは悪くないと思っている。

とは言っても、結局のところは、リノアも年頃の乙女だと言うところが大きいか。
コイバナと言うのは、リノアのように青春真っ盛りの少女にとって、放っておけない話題なのである。


「───って思ってたのに。集まってもくれないなんてぇ」


とある駅前にあるカフェテリアのテラスで、リノアは唇を尖らせた。
丸テーブルを囲んで一緒に席についているのは、クルルとリュックだ。


「まあまあ。皆も忙しいからね。仕方ないよ」


眉尻を下げてそう言ったのは、クルルである。
自分よりも年下の仲間に宥められては、リノアも口を噤むしかない。
それでも残念な気持ちは誤魔化せず、渋面は隠せなかった。

二人の間で、リュックは生クリーム入りのカスタムシェイクをストローで混ぜながら、


「まあカタブツも多いもんね~。あたしはこういう話題は好きだけど」


リュックはリノアが最初に誘って、一番に「行く行く!」と食いついてくれた。
お陰でリノアは他の仲間へと声をかけ易かったのだが、生憎とその輪は然程広がらなかったのである。


「コイバナだけじゃなくて、他にも話せるチャンスになると思ったのになあ。ガイアには断られちゃったし」
「そもそも喋るのが得意じゃなさそうなヒト多いよね」
「カインは来てくれるかと思ったのに。お喋りしなくても、聞いててくれるし。お店に行くのも嫌いじゃないから」
「カインは今日は銀座だっけ?」
「うん。クリスタルの様子を見てくるって言ってた。あそこは不安定なことが多いからって」
「なんか体よく逃げられた気もするけどな~」


リュックの言葉に、クルルが苦笑している。


「でも、カインのお陰で、私たちはこうしてゆっくり出来るから」
「クルルは良い子だねぇ。ま、あたしもお休み貰えるのは嬉しいし。そこは感謝してるよ」


そう言って、リュックはシェイクを一口啜る。
クリームと冷たいミルク、そして限定フレーバーのストロベリーソースの甘い味わいに、「んー、おいし!」と上機嫌だ。

クルルもココアを、リノアもラテを一口飲んで、さて、と顔を見合わせる。


「こうして集まったんだし。今日はこの三人で、色んな話しよ!」
「そうだね。じゃあ、先ずは───」
「やっぱりリノアからでしょ。言い出しっぺなんだし」


リュックの指名とともに、仲間二人の視線がリノアへ集まる。
リノアは途端に気恥ずかしさに見舞われるが、しかし、確かにことを提案したのは自分だ。
自分が色々話せば、仲間たちからも色々なことが聞けるかも知れない。


「じゃあ、えーと……」
「やっぱりカレシのことかな~?」
「え!やっぱりそれ?」
「だって元々コイバナしたかったんでしょ?」
「そうだけど。別にそれに限らなくても……」
「え~、あたしは聞きたいよ。クルルは知ってるんだよね」
「アンジェロが教えてくれるからね」


にこりと笑って言ったクルルに、リノアは足元で寝ている愛犬を見る。

クルルは生まれつき、動物と話をすることが出来るのだと言う。
それを聞いた時は俄かに信じられなかったリノアだが、日々を過ごすうちに、アンジェロが特別クルルに懐いているのが判った。
自分の言葉をクルルが通じてくれるのが、彼女にとっても嬉しいようで、よく甘えるのだ。
そうして散歩や遊び相手をしているうちに、アンジェロが色々と話してくれるのだと言う。
それはもう、色々と。

飼い主の視線を感じたアンジェロが顔を上げ、つぶらな瞳でことんと首を傾げる。
当然ながらそこに悪気も悪意もなく、リノアは肩を竦めて苦笑するしかない。


「うーん……じゃあ、うん。しょーがない。私からね」
「えへへー、楽しみだな。ね、ね、どんな男の子なの?どこで逢ったの?」


リュックは早速、テーブルに前のめりになって訊ねる。
リノアは、改めて自分から話すと言うのは恥ずかしいなぁ、と思いつつ、


「格好良いんだよ。強くて、私のこと、守ってくれるの」
「逢ったのはどこで?」
「就任式典……うーんと、パーティで。私、そこにいる人に用事があったんだけど、中々見付からないし、ダンスタイムになったから、誰か誘って見ようかなと思って。一番格好良かったから、声かけてみたの」
「リノアからだったんだ」
「最初は“踊れないんだ”って言ってたんだけどね。あれ、踊りたくなかったんだろうな~」


いつかの出逢いを思い出して、リノアは苦笑する。
彼の性格を考えると、そもそも、ああした華やかな雰囲気自体が好きではないだろう。
誰とも関わるまいと、意図的に壁の花になっていたのは想像に難くない。

それでも、リノアは彼を見付けて、声をかけたのだ。
見上げていた空から視線を外した後、彼と目が合ったのは、単なる偶然ではないと思っている。


「その後で、私が出した依頼に、彼が派遣されてきて。最初はケンカばっかりだったなぁ」
「そうなの?」


意外そうにクルルが目を丸くする。
アンジェロと色々話している彼女だが、どうやら出会いの頃のことは聞いていないようだ。

リノアはカフェラテを一口飲んで、ほうっと頭上を見上げる。


「私と全然違うんだ。すごく現実的で、理性的って言うか。冷たい人だって、最初はそう思ってた」
「え~、なんか想像と違うかも。リノアみたいに明るいタイプかと思ってた」
「あはは、ないない」


リュックの言葉に、リノアはひらひらと手を振る。
そう言った言葉自体、彼とはまず縁遠いものであると、リノアはよく知っている。


「SeeD……んー、特別な傭兵になる為に、子供の頃からずっと頑張って来た人だったから。あの時、一緒にいた皆、そう言う所はあったんだよね。私はそう言うのじゃなかったから、よくぶつかっちゃったの」


身を寄せていたレジスタンスの下で再会して、短い間に、何度口論をしただろう。
小さなものから、声を大きくして言い合いになったものまで、数えれば片手が埋まる。
それは彼一人とのものではなくて、仲間たちも巻き込んでのこともあった。

あの頃、彼らにとって異質だったのは、きっとリノアの方だった。
リノアが彼らと接して感じていた感覚の違いを、彼らも感じていたに違いない。


「───で。それが今は、だーいすきなカレシになったのはなんで?」
「なんか、そういう言われ方するとすごく恥ずかしい~!」


にやにやと聞いてくるリュックに、リノアは途端に顔が沸騰する。
火照った頬に両手を当てて冷却を試みるが、まるで効果はなかった。

赤い顔のまま、リノアはえーと、えーと、と考えて、


「なんて言うか、えーと……最初は、私のこと、守ってくれる人だって、思ったって言うか……」
「どこでどこで?」
「んんん~……」


矢継ぎ早にリュックに訊かれ、リノアの頭から湯気が出る。

あれは、特別な言葉だ。
思い出すと、あの時に感じた胸の鼓動が、巻き戻ったように再来する。


「……“俺の傍から離れるな”、って。そう、言ってくれたから」
「わ」
「ひゃあ~」


赤い顔で、彼の言葉を反芻する。
その言葉があまりにも直線的だったからか、或いはリノアの表情につられたか。
クルルとリュックの頬にも、判り易く紅が差した。

それはきっと、彼にとって、なんでもないただの忠告だった。
自分は彼のクライアントであったし、彼は傭兵として、クライアントを守るのは義務だと思っていたに違いない。
実際、彼は初めてその言葉を発した時のことを忘れていたし───G.F.の所為だと彼は主張したが───、リノアが感じたほど、特別な意味はなかったのだろう。

けれど、それでも、リノアにとっては特別だったのだ。
ともすれば自分が死んでいたかも知れない状況と、得体の知れないものを前にした時の、言葉にならない恐怖。
一人ではどうすることも出来ないと、そんな自分を知った直後に向けられた、あの一言。
だから、もう一度その言葉を聞いた時が嬉しかったし、必死に誤魔化している様子も含めて、少しおかしくて胸に残った。

リノアは真っ赤になった顔を両手で隠した。
そこにある仲間たちの顔が見れないくらい、顔が緩んでいるのが判る。


「う~……自分で言うとこんなになるなんて思わなかったよぅ」
「ふふ。リノアの心の中、ぽかぽかしてる感じ」
「……クルル、アンジェロだけじゃなくて、私の心の中も見えるの?」
「まさか。見てたら判るよ」


少女の柔らかな笑みに、リノアは益々体温が上がる。
自分が分かり易いタイプの人間であることは自覚しているが、こうも穏やかに見つめられると、なんとも言えない気持ちが湧き上がってくる。

手扇で熱を冷まそうと試みるリノアに、リュックが興味津々に顔を寄せる。


「その言葉が決定打みたいな?」
「ん?うーん……それも、結構あるけど……」


改めてリノアは、出来事を振り返る。

彼との記憶は、色々な出来事が重なっていて、一言で言い表せないものばかりだ。
気付いたら宇宙に漂っていたとか、それを彼が捕まえに来てくれたとか。
そんな場所まで自分を追い駆けて来てくれたことが、涙が出そうになるほど嬉しかったとか。
その後に、もう二度と逢えなくなるんだと、離れなければいけないのだと悟った時の、悲しさも。

───そんな中で、リノアにとって一番嬉しかったのは、やはり、


「……ぎゅーって、してくれたんだ」
「ぎゅー?」


首を傾げるクルルとリュックに、リノアは、「うん」と頷いた。


「触るのも、誰かに触られるのも、苦手な人なの。でも、私のこと、抱き締めてくれた」


そして、彼は言ってくれた。
“魔女”でも良い、と。

嫌われる前にいなくなりたいと、一度はリノア自ら離した手を、彼は追い駆けて来てくれた。
冷たく霞んでいく意識の中で、呼ぶ声に目を開けた時の感情を、なんと表せば良いだろう。

“魔女”と言う存在の意味を、それが持つ力の恐怖を、異世界の仲間たちに説明するのは難しい。
リノアの持つその力は、この世界でも異質なものだが、それがアグレシオを退ける力になるからか、誰もリノアを怖がらなかった。
そのことがリノアにとって、どんなに安堵を齎したか、知る人はいない。
だから、彼のあの言葉が、抱き締める腕が、“魔女”になったリノアにとってどんなに特別だったのかも、想像は出来ないのだ。

頬に赤みを残したまま、瑪瑙の瞳を柔く瞬かせるリノアに、クルルとリュックは顔を見合わせて小さく笑う。


「その人、リノアのことがとっても大事なのね」
「そんな風にして貰えたら、好きになっちゃうね」


二人に合わせて言われて、リノアの頬が熱くなる。
今日は完全に赤面症だ。


「んん~、もう限界。私ばっかりじゃなくて、皆の話も聞きたい!」
「そう言われてもなあ。あたし、そう言う人いないからよく判んないよ」
「私も……」
「えー!」


仕返しとばかりに話題をそのまま投げたリノアだが、返ってきたのはすげないもの。
これでは何の為に話したのだか、と頬を膨らませるリノアに、クルルが宥める形で言った。


「コイバナは難しいけど、私の仲間の話なら出来るよ。一緒に旅してた時のこととか」
「あたしもそれなら良いよ。ってことで、コイバナの続きはまた今度!」
「今度って、また同じようなことにならないかなぁ……」
「まーまー。リノアのカレシの話もっと聞きたいし、平等に、コイバナも誰か話してくれる人捕まえようよ」


リュックにも援護されて、リノアも拗ねた顔は引っ込めた。
何であれ、皆で話をする機会が作られるのは、リノアにとって嬉しい。
こうして積み重ねていけば、もっと気軽に、色々な話ができるようになるかも知れない。

それに、とリノアは思う。


(こうやってスコールのことを思い出せるなら、寂しいばっかりじゃなくなるかも知れない)


どんなに思いを馳せても、この世界に彼はいない。
だから、思い出す度に寂しさも募る気持ちは誤魔化せない。
けれど、こうして共有してくれる人がいたら、ふとした時に感じる寂しさも薄らぐ気がする。
誰かに話す度に、その思い出が増えていくのは、嬉しかった。

足下に身を寄せる愛犬の毛並みを感じながら、旅の思い出を語り始めたクルルの話に耳を傾ける。
それが終わったら、リュックの番になるだろう。
次に自分の番になった時、今度は何を話そうかと巡らせるのだった。





デュエルムメンバーでプチ女子会。
コイバナしたい!と言うリノアのFINEから、素直に集まってくれそうなメンバーに付き合って貰いました。

リノアのコイバナって言うか、スコールトーク。
もっと話すと、スコールが格好良いだけじゃなくて可愛いところもあるとか、色々語ってくれると思う。
リノアは自分の好きなものを誰かと共有できるのは楽しいタイプだと思うので。
そもそも現状、身内のことならあるけれど、自分を当事者としてコイバナできるメンバーが少ないと言う。ストレートにヒロイン枠から参戦してるのは、今のところリノアだけですしね。

[セフィレオ]その眼に映る

  • 2026/07/08 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



広大とも言える街並みが続いている。
だが、そこに生き物の気配は少なかった。

人の営みの気配も少ない。
かつては何万、何十万と言う数があったのだろう住人は、今はその千分の一にもならなかった。
いずこ遠くからやって来た───帰って来た───人々は、小さな一画に身を寄せ合うように集まって暮らしている。
その生活も頻繁に心無い影に脅かされていると言うのだから、戻って来たのにすぐに出て行く者も少なくはなかった。

この世界には、闇色が濃く燻ぶっている。
それもその筈で、街は十年以上もの間、闇に覆われていたのだと言う。
その間、住民たちは散り散りに他の世界へと渡り、喪われた故郷を懐かしみながら暮らしていた。
鍵の勇者によってようやく世界を覆う闇は払われたが、場所ばかりが元の形に戻ったとて、そこは人が生活できる環境ではなくなっている。
勇者の軌跡を追う形で、一番最初にこの地に戻った者ですら、途方に暮れたのは想像に難くない。

だが、セフィロスにとってはどうでも良い話だ。
この世界の成り立ちも、辿った歴史も、今から歩もうとしている未来すら。

眺める夕暮れの景色には、感慨も沸かない。
何を思っているのか、自分自身にすら興味はなかった。
ただ、待っているだけの時間と言うのは退屈を飽かすに十分で、俄かの暇潰しが欲しくなることもある。
かと言って、暇潰しになるものを積極的に求め探しに行く訳でもないのだが───目についたものを追う程度のことは、稀に、ごく稀に、起きることだ。


(熱の入ることだな)


細めたセフィロスの双眸に映るのは、壁上の回廊のひとつ。
空の上からぼうと眺める景色の中で、ひとつぽっかりと空間の空いた場所だ。
そこは周囲の民家よりもひとつ抜きんでた高台になっており、鐘楼ほどではないものの、街を一望するには手軽な位置だった。

その高台の上で、一心不乱に剣を振っている男がいる。
肩にかかる濃茶色の髪を靡かせながら、見えない何かを追うように、銀色の刃が幾度も軌道を描く。
じっと見下ろす者がいることなど、知りもせず。


(四日目だったか)


男は空かずに高台に来ては、ああして剣を振るっている。
時間としては概ね夕暮れが濃くなる時、街の一画で微かに夕餉の気配がする頃合いだ。
それから東の空が夜になり、灯りの乏しい街並みに心無い影の徘徊が増えてくる塩梅になると、去っていく。

男はいつも一人だが、昨日は仲間と思しき少女がやって来て、何事か声をかけていた。
短い遣り取りの後、少女はさっさと帰って行き、男はまたしばらくの間、剣を振るい、夜の帳が拡がる頃に帰って行った。


(飽きもせず)


恐らく、飽きる飽きないの話ではないのだろう。
男はストイックに自己鍛錬を行っていて、ここ数日はルーティンに組み込んでいる。
この時間は男にとって必要なものであり、熟すべきノルマなのだ。

男がどうしてそうも自分を苛めているのか、セフィロスは知る由もないし、知る意味もない。
セフィロスが佇む場所から、彼が鍛錬場所として使っている高台がよく見えるので、目につくだけの話だった。

────と。

何度となく振り下ろされた銀刃が、ふと動きを止めた。
男は滲む汗を拭いながら、腕を下ろしている。
そのまま幾許かの時間が流れた後、つい、と男の頭が此方を向いて、


(……)
「…………」


狭間に傷を抱いた蒼灰色の双眸が、じっとこちらを見つめている。
冷ややかな、じんわりと苛立ちを滲ませた宝玉の無言の圧に、ああ、とセフィロスは理解した。
自分がここにいることを誰も知りはしない、と言う認識は、改めねばなるまい。

黒の片翼が久方ぶりに風を叩く。
揚力に従って移動した体は、ゆっくりと高台の上へと下りた。
存外と小奇麗な石畳を敷き詰められた地面は、何も言わずに傍観者を着地させる。

男と、セフィロスと、数十メートルとあった距離は、今はほんの数メートルしかない。
一足で男が飛び掛かることも可能なら、その瞬きの間にセフィロスが男を寸断することも可能な距離だ。


「……」
「………」


距離はそれだけ縮まったが、二人の貌は変わらなかった。
男は眉間に深い皺を寄せ、不機嫌を隠さない。
それを見つめるセフィロスも、空の彼方で男を見ていた時のまま、眉のひとつと動いていない。

そのまま幾年でも過ごしているかと思う程、沈黙は長かった───少なくとも、男にとっては。
ともなれば焦れるように苛立ちも募るもので、口火を切る。


「何の用だ」
「別に、何も」


直線で問う男に、セフィロスはありのままに返した。
男は不審に肩眉を顰めたが、右手に持った獲物は離さずとも、構えようとはしない。
警戒しているが、今すぐにどうこうする必要はないことを、この男は悟っている。

はあ、と男は溜息を漏らした。


「じろじろと見ていただろう。それで何も用はないと?」
「ない。元より、私の視界に入ってきたのはお前の方だ」
「……成程。その理屈なら、俺の方が後客ではあるな」


納得はしていない表情だが、男は取り合えずそれは飲み込んだらしい。
男はもう一度溜息を漏らして、


「俺がここにいるのが目障りなら、明日から場所を変えるが」
「目障りとは?」
「あんたの視界に俺が後から入って来たんだろう。じろじろと見ていたから、てっきり、邪魔になっていたと思ったんだが」


違うのか、と問われて、セフィロスは首を傾けた。


「さてな」
「……」


セフィロスの反応に、男の瞳が胡乱に細められる。


「ずっとこっちを見ていただろう」
「ああ」
「邪魔だったからじゃないのか」
「別に」
「ただ見ていただけだと?」
「そうだな」


より正確に言うならば、“見えていた”と言う方が当て嵌まる。
セフィロスはそう言ったが、見られていた男からすれば、結果として大差はない。

男は傷のある額に左手を当てて、唇を固く引き結んでいる。
表情は見えないが、何を言わんとするやを硬い意思を押し留めているのが感じ取れた。


「……そうか」
「ああ」
「……」


額から手を放した男の顔には、諦念が浮かんでいる。
滲む疲労の色は、鍛錬に費やした体力の所為と言うよりは、目の前の人物───セフィロスが読めない存在であると理解したからだろう。

セフィロスは、男のそんな様子を見つめていた。
空の上で、高台で剣を振っていた男を見ていた時と同じように、じっと視界の中心に置いている。
男も次第にその視線の強さに居心地悪さを感じたか、先とは別の意味で不機嫌な表情を浮かべた。

しかし、既に遣り取りをするだけ徒労であることを理解しているからか。
男は再三の溜息を吐いて、自分に向けて呟いた。


「どうでも良い視線が邪魔になるのは、俺が未熟な証拠か……」


ぎ、と愛剣を握る右手が、微かに軋む音を鳴らす。
蒼灰色に浮かぶ苛立ちは、目の前の存在ではなく、彼自身へと向けられていた。

それがどうにも、セフィロスの琴線を揺らす。

立ち尽くす男の下へと、セフィロスはゆっくりと近付いた。
はっきりと鳴る足音に、男が顔を上げて、まとう空気が警戒に剣呑さを増す。
伏目勝ちにしていたブルーグレイの瞳が、真っ直ぐに自分を見据えると、セフィロスは得も言われぬ感覚が昇ってくるのが判った。


「良い目だな」
「……」


二人の距離は、どちらかが腕を伸ばせば届く程に狭くなっていた。
睨む眼に夕暮れ色の光が反射して、冷たい蒼の中に燃えるような赤が映り込んでいる。
正反対の色が齎す蒼灰の輝きに、セフィロスはおもむろに手を伸ばしていた。

頬を撫でた手が、するりと滑って登り、男の眦を擽る。
直後、ぱしん、と乾いた音が鳴って、男がセフィロスの手を払い除けていた。


「生憎、赤の他人に目玉をくれてやる趣味はない」


じっと睨み据えたまま告げた男の言葉に、く、とセフィロスの喉が震える。


「それは残念だ。大事にしてやろうと思ったのだが」
「……丁重に断らせて貰う」


剣呑な目には、悍ましいものを吐き捨てる冷たさが宿っている。
異常者とでも見られたのだろう。
強ち否定するものでもない、とセフィロス自身、理解している。

だが、駄目と言われれば欲しくなると言う人間心理は、セフィロスの内にもあるらしい。
そんな自分にまた可笑しな笑みが浮かぶと、相対する男からは、己を馬鹿にされたと見えたようだ。
きち、と男の右手で金属が掠れる音が鳴った瞬間、セフィロスは翼と共に地を蹴った。


「っ!」


ぶん、と振り抜かれた銀刃が宙を斬る。
狙いを外した蒼灰色が、剣を構えて空に佇む銀糸を見上げた。


「街に害がないなら放っておいて良いと───クラウドの奴に任せているつもりだったが、そう言う訳にもいかないようだな」


男は腰を深く落として、地面を強く蹴った。
跳躍した男が剣を振り被るのを、セフィロスは変わらない表情で眺めている。

セフィロスがほんの少し体の角度と位置をずらせば、振り抜いた剣はまたしても空気を裂き、男の体は重力と慣性の法則に従って地面へ下りる。
下りた体は直ぐに向きを変えて再びセフィロスと向き合ったが、宙をふわふわと浮く男をどう追い駆けたところで、男が捕まえられる訳もない。
忌々し気に睨む蒼灰色を、セフィロスは薄く笑みを浮かべた貌で見下ろしていた。

───が、じわりと空気に溶けるように滲む気配を感じ取って、セフィロスは眉尻を下げる。


「来たか」
「……クラウド?」


セフィロスの短い言葉に、それが指し示すものを男は的確に拾った。
睨みつけていた蒼の瞳が、僅かに剣呑が薄れるのを、眇めた翠の目が捉え、


「お前との語らいは、次の楽しみとしておこう」
「俺は別に────」


あんたとの語らいなんて。
そう続くであろう言葉は、片翼が風を叩く音にかき消される。

遠く高い空の上から見えるのは、遥かに広がる粒のような街並み。
それだけの距離があれば、最早人の姿や影も見える訳もなく、ジオラマよりもその存在感は小さくなる。
空気を滲み渡って届いていた気配も、ここまで来れば既に薄らぎ、あちら側から己の存在を辿ることも叶うまい。



夜と夕暮れが交じり合う空の境界で、セフィロスは鮮やかに閃く蒼玉石を思い出していた。





7月8日と言うことで、セフィレオ。
訳の分からないちょっかいをかけられて迷惑している図。

KHのセフィロスは原作やリメイクよりも、輪をかけて真っ当な遣り取りが成立する気がしない。
見られていることに我慢できなくなって目を合わせてしまったレオン。後悔先立たず。
こんな構い方をしてはとっとといなくなるのを繰り返していく内に、レオンの方から警戒心がうっかり鈍化しそうな気がしないでもない。

[クラスコ]触れ合う為の温度

  • 2026/07/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



夏の夜は、冷房の温度を低く設定する。
凍えるほどのことにはしないが、日中よりも、もう少し、温度を下げるのだ。

蒸し暑さも募る季節であるから、なんら可笑しなことはない。
寧ろ昨今の気温の危険性を考えると、夜であろうと冷房を止めることはできない。
ただ、太陽の熱に焼かれる昼日中に比べると、多少は暑さが和らぐから、冷房の設定温度を下げるほどの必要はないものだ。

それでもクラウドは、恋人がシャワーを浴びている間に、しれっとリモコンを操作する。
こうしておけば、この後、存分に恋人を可愛がってやれるからだ。

恋人であるスコールは、中々に気難しい性格をしている。
寂しがり屋の癖に、人に触れられることは苦手で、存外と頑固者なのに、それを表に出すのを嫌う。
歯に衣着せぬ言い方をする割に、自分の物言いが他者を不快にさせることには敏感で、揉め事は面倒と嫌っているから、あまり喋りたがらない。
人の機微にも敏感な節があって、これも含めて、彼の性格や言動に影響を及ぼしていることは間違いない。

そして、思春期の年齢なので性にデリケートなのは仕方がないとして、その癖、スイッチが入ると旺盛に求める。
これがクラウドにはとっては愛らしいもので、恥ずかしがっている様子も、その垣根を越えて甘えたになる姿も、堪らない。
しかしスコールの方は理性が強い性質をしているので、自らそれを暴くことはしなかった。
だからクラウドが少しの準備をする必要がある。

───その為のごくごく簡単な方法のひとつが、冷房の温度設定と言う訳だ。

日中過ごしている時よりも一度、暑そうな日は二度、下げる。
これでシャワーを終えて部屋に戻って来たスコールに、先ずはちょっとした涼を感じさせる。
風呂上りは体が火照っているから、汗ばむのが嫌いなスコールの為に、この時だけは冷風が判る程度にするのだ。
そうすることで、裸身になった時、ひんやりとした空気で囁かな爽快感もある。


「……クラウド」


ベッドに入ったスコールは、赤い顔でクラウドを呼んだ。
二人とも上半身は既に裸で、これからの準備が出来ている。

冷房で少し冷えたクラウドの肌に、まだ火照りを残したスコールの肌が触れる。
スコールの手のひらがするりとクラウドの肩を辿って、首の後ろへと回された。
こうして密着する為にも、部屋の温度は、少し肌寒いくらいにしておくのが良いのだ。

それからは、夢中で熱を交換した。
ベッドの軋む音が絶え間なく、初めはその音に隠れるように抑えていた聲は、次第に大きくなって行く。
やだ、と求める声に応じれば、スコールの奥はしとどに濡れて、クラウドを強く締め付けた。
冷たかったベッドシーツは温くなり、飛び散ったものでシミを作る。
汚れる、とスコールはことに気にするが、部屋の主であるクラウドが気にしないものだから、彼は何度となく熱を放つことになった。

息絶え絶えになるまで混じり合って、クラウドの疲労感も一入に、情交が終わる。
くったりとベッドに沈み転んだ体を抱き上げて、シャワーで軽く洗ってやった。


「中、洗うぞ」
「……ん」


温めの温度に設定したシャワーを、蜜で濡れたスコールの太腿に当てる。
きわどい場所に近付く水飛沫の刺激に、スコールはもどかしさで身を捩っている。


「ん、ふ……う、ん……っ」


鼻にかかった声が零れていた。
もぞ、もぞ、と膝を寄せ、太腿を擦り合わせているスコールだったが、クラウドはその片膝を掴んで大きく開かせた。
全部を晒した格好にされて、スコールは顔を真っ赤にしているが、洗っているのだから仕方がない。
物言いたげな蒼がこちらを見ていたが、クラウドが努めて仕事に集中するのを見て、やがてスコールの体の力は抜けた。

指で広げた秘部から溢れ出してくるものを、丁寧に洗い流す。
敏感な体は感じ入るのを精一杯に堪えていたが、丸まった足の爪先や、殺した声がどうしても反応を覗かせる。
クラウドはむらむらとする己を、精一杯の理性で堪えていた。


「……こんなものかな」
「う……あ……」


クラウドはシャワーの湯を止めた。
スコールは足を大きく開いた格好のまま、はあ、はあ、とあえかな息を漏らしている。

起き上がる気力もないスコールを抱き上げて、寝室へと戻った。
点けっぱなしだった冷房の風が、シャワーで温まった二人の肌を撫でていく。
クラウドの腕の中で、スコールがふるりと身体を震わせた。


「寒……」
「つけっぱなしだったからな。風、少し弱めておこう」


ベッドに入って、スコールをそこに横たえてから、クラウドはサイドボードに置いていたリモコンを取った。
風の強さを“中”から“微”にして、風向きも天井に向けて置けば、冷風が直接当たることはない。
これでよし、とクラウドも布団を引き上げて、スコールの隣に収まった。

シャワー上がりの体の温度と、冷房で冷えた布団の温度差が落ち着かないのか、スコールはもぞもぞと身動ぎしている。
ぬくたまった躰にシーツの肌触りは心地良いが、少し表面が冷たすぎるらしい。
丁度良い温度を探したスコールは、隣にいる男の方へ、ずりずりと近付いていた。


「……」
「ん?」


二人の距離は、もうほとんどなかった。
スコールがあと一回、体を捩って身を寄せてきたら、ぴたりと密着することが出来るだろう。

だが、恥ずかしがり屋の少年は、どうしても逡巡してしまう。
接触嫌悪とまでは言わないまでも、少々触れ合うことに恐怖心のようなものを抱くから、余計にスコールは躊躇うのだ。
そんなスコールに、クラウドはこっそりと眦を緩めて、寝返りついでにスコールの体に腕を回す。


「ほら」
「!」


ぐ、と背中を抱き寄せてやれば、スコールは僅かに緊張に強張ったが、そのままクラウドの方に体を寄せた。

スコールの体は、しっかりと引き締まった筋肉がついているが、まだ発展途上の青臭さがある。
その身体から薄らと漂う、未完成な性の匂いが、クラウドの欲望をまた刺激した。

身を寄せて動かなくなったスコールに、クラウドの手が背中を辿る。
宥めるように撫でながら、時折、意図的に、背筋のラインをゆっくりと下ろしていく。
スコールは、クラウドの指が辿る度に、ぞくぞくとしたものが背筋を端って、堪らず体を撓らせた。


「ん……、クラウド……っ」


咎める声だが、抵抗は弱い。
寧ろ、離れ難さを示すように、スコールからもクラウドの首に腕が回る。

ぴったりと密着した胸の奥から、流れる血が齎す熱と、鼓動のリズムが聞こえる。
そうしてくっついていると、俄かにふるりと震えるスコールの身体反応が伝わった。


「まだ寒いか」
「……ちょっと……」
「冷房、切るか?」
「切ったら絶対暑くなるだろ」


今夜も熱帯夜だと、天気予報士が言っていた。
都会のコンクリートジャングルは、太陽の熱で焼けてしまうと、簡単にその熱を解放してくれない。
安普請のアパートは外気の熱と当たり前に同期してしまうから、寝苦しさを回避したいなら、冷房は夜通しつけるのが賢い選択である。

でも寒いんだろう、とクラウドが言うと、スコールはむぅと頬を膨らませる。


「……こうするから良い」


スコールはクラウドの背中に回した腕に力を込めて、ぎゅう、と抱き着いた。
ついでに、日々の肉体労働でしっかり鍛えられた男の胸に顔を埋める。
文字通り、二人の体はぴたりと隙間がないほどに密着して、お互いの肌の温度を分け与える。

むずかる猫のように、スコールはクラウドの胸にぐりぐりと額を押し付けている。
筋肉量のお陰か、クラウドは少々体温が高いようで、スコールが暖を取りたい時には丁度良い塩梅なのだとか。

けれども、この体温の高さと言うのが、時にはスコールの不快を誘う。
そもそもスコールは極端に暑いのも寒いのも得意ではなく、その上、他者との接触、肌の触れ合いというものに聊か消極的だ。
心を許した相手ならばまだ良いが、それでも、例えば真夏の蒸し暑さの中で抱き合うようなことはしたくない、とのこと。
ただでさえジメジメと蒸されている時の人肌の温さと言うのは、滲む汗の感触も相俟って、不快を誘うものだから仕方がない。
スコールは、殊更そういった感触に敏感な性質なのだ。

だからこんな蒸し暑い夜は、冷房機能が欠かせない。
文明の利器に感謝だな、と恋人が遠慮なくくっついてくれる理由作りに役立つ家電に、クラウドは満足を覚えていた。


「んん……」


すん、とスコールが小さく鼻を鳴らす。
鼻呼吸で零れる息が、クラウドの胸元をちらちらとくすぐっていた。

それがまたクラウドの欲を煽るものだから、下半身は勝手に元気になっていく。
クラウドにとっては、まだまだ夜は長くて良いし、体力も余っていた。
しかしスコールの方はどうかな、と受け身の側として負担が大きいであろうスコールの状態について思慮していると、


「……クラウド」
「ん?」
「……もう、終わり、か?」


十分にまぐわって、シャワーも浴びて、ベッドに戻った。
このまま眠り落ちるに条件は十分だ。

だが、スコールの方からそんな風に言ってくれるのなら、クラウドは全く吝かでない。


「まだ眠くないか?」
「……」


スコールは答えなかったが、恥ずかしがれば逸らされる筈の蒼が、じっとこちらを見ている。
言葉が苦手なスコールだが、瞳はそれ以上にお喋りで、隠し事をしなかった。

頬をやんわりと撫でると、スコールは密着していた体を少し離して、首を伸ばす。
近付く気配にクラウドが待っていれば、ほんの一瞬、触れるだけのキスがあった。
精一杯の主張をしてくれたスコールの顔は、薄暗がりの中でも判り易く赤くなっている。


「……クラウド……」
「ああ」


ここまでやったのだから。
そう訴えるスコールに、クラウドは小さく笑みを浮かべて、抱き締めた体をベッドへと沈めた。



これから部屋の温度が熱くなることを察したように、冷房のファンの音が煩かった。




7月8日と言うことで、クラスコ。

暑いのやだって言うスコールといちゃいちゃする為に、敢えて冷房で小細工をするクラウドです。
これならスコールも遠慮なく甘えられるんだから良いじゃないか、と言うことで。
冬は冬でわざと暖房の設定温度をちょっと下げて、くっついてるのが丁度良いくらいにしてるんだと思う。

[ロクスコ]不思議な同行者

  • 2026/06/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

スコール in FF6
[始まりの前に]の続き





ニケアを出港した船は、一晩をかけてサウスフィガロの港に着いた。
ニケアよりも広く人の多い市場が立ち並び、客を呼び込む威勢の良い声があちこちで飛んでいる。
波止場をうろついている猫に魚を取られた店主が怒りの声を上げるのも聞こえた。

その市場を歩く間、ロックの奇妙な同行者───スコールは落ち着かない様子で辺りを見回している。

ロックにしてみれば、サイスフィガロの街は規模こそそれなりに大きいものだが、見た目としては然程目新しいところはないものだ。
行商人や旅人、傭兵を当てにした宿場に、武器防具を取り扱う鍛冶屋に、日々の生活を賄う野菜や魚や肉を扱う店。
ついでに酒場も大小含めればあちこちにあるが、それもこの規模の街ならよく見る光景だった。


「見慣れないか?」


半歩前を歩きながら、肩越しに振り返ってロックは言った。
案内人の後ろをついて来る形で歩いていたスコールが、視線をこちらに向けて、眉間に皺を寄せる。


「……多分」
「そうか。じゃあ、ここも馴染みじゃないってことなんだろうな」


答えたスコールにロックがそう返せば、もう一度「……多分」と返事があった。

濃茶色の髪に、蒼灰色の瞳と、黒と白を基調にした一風変わった出で立ちの若者。
その腰には草臥れた布を鞘替わりに巻き付けた、これまた風変りな形状の剣がある。
端正に整い、近づきがたい印象の皺を浮かべた眉間には、刃傷のような傷痕がくっきりと浮かんでいた。
全体の色味で言えば地味な印象だが、着ている服や腰に携えた獲物などが、どこか異質な存在感を匂わせている。

そんな変わった青年とロックが出逢ったのは、ニケアの港でのことだ。
少々賑やかな騒ぎを切っ掛けに相対した二人は、取りも遭えずの話の流れで、同行することになった。
詳細に言えば、記憶喪失であるが故に行く宛のなかったスコールを、ロックが傭兵として雇う形で誘った、と言うものである。

ロックは、一先ず腹ごなしをしよう、と波止場を過ぎた先にある酒場に入った。
船乗りの客も多いそこは、中央で見世の踊り子が舞い、ニケアよりもずっと賑やかだ。
やんややんやと踊り子を冷やかす客の隙間を抜けて、ロックはカウンター席に座った。
隣にスコールも腰を下ろし、また辺りを見回す。


「ここは……?」
「酒場だよ。飯でも酒でもあり付くならここだ。入ったことくらい───ないか?」


市場にしろ、船にしろ、どうにも見慣れない様子のスコールに、ロックは常識の範疇を一旦退けて尋ねてみる。
スコールは傷のある眉間に深い皺を浮かべ、しばらく考えた後、


「……俺の知ってる飯屋じゃない、気がする」
「酒場なんて、どこでも大体こんなもんだと思うけど……いや、ドマならそうでもないかな…?」


ドマは海を隔てた南の大陸にある国だ。
“侍”と言う特殊な剣技を扱う戦士を擁している他、言葉こそ公用語で通じるものの、文字や装飾には独特のものが使われている。
封建閉鎖的な傾向の国である為、ロックはドマの酒場を利用したことはなかったが、他国との文化との違いを考えると、どこかしらに差異があっても可笑しくはないだろう。
それを記憶喪失のスコールが、感覚として“違う”と感じることは、あるのかも知れない。

ロックはマスターを呼び、適当にメニューを注文した。
表情ばかりは愛想の良いマスターが頷いて、程なく女給からジョッキがふたつ運ばれてくる。


「ま、ともかく飯にしよう。平気そうだったから気にしなかったけど、船酔いはしてないよな?」
「問題ない」
「それなら食えるな。じゃあ飯が来るまで、ここからの予定を説明するか」


ロックは懐から地図を取り出した。
カウンターなので全面広げる訳にはいかないので、サイスフィガロから次の目的地の部分を見せる。


「今いるのがここだ。で、この後は北西の洞窟を抜けて、砂漠にある城に行く」
「城……?」
「この街はフィガロって言う国の領土にある。その国の本城が砂漠の中にあるんだよ。俺は何度も行ってるけど、この世界じゃ一番広い砂漠の真ん中にあるからな。ちょっと念入りに準備して行く」
「砂漠については理解した。その前にあると言う洞窟は、危険なのか?」
「魔物が棲みついてる。大体は虫の生態の魔物だから、火でも焚いてれば多少は追い払える。俺一人でも行けるから、個々の危険度は高くない。ただ、数がな。うっかり大群に出くわすときつい」
「……軍隊アリでも出るのか」
「似たような奴はいるな。アリじゃなくてハチだ」


ロックの言葉に、スコールは判りやすく顔を顰めた。
虫が嫌いか、多数を相手取る面倒を想像したか。

魚介を具にしたパスタが二皿、到着する。
一皿を隣に回すと、スコールは手を付けて良いものか、逡巡するようにしばしパスタを見詰めた。
ロックが食べ始めるのを確認してから、ようやくスコールも手を付ける。


「あんたの目的地は、砂漠にある城か」
「いや、そこはただの中継点。本命は砂漠から更に北だ」


ロックはパスタを食べながら、地図を手繰ってフィガロの砂漠から北を見せる。


「砂漠を北に抜けて、渓谷沿いに進むと、炭鉱がある。俺の目的地はそこ」
「炭鉱───」
「名前はナルシェ。聞き覚えは?」
「……」


スコールは首を横に振った。


(この大陸とは縁がない、ってことか?そうなると、いよいよドマか帝国辺りしか残らないんだけど───)


ロックは燻製サーモンを噛みながら、同行の傭兵について考える。
しかし、いくら思案を巡らせたところで、元より碌な情報もないのだ。
本人でさえ、自分自身の情報を探しあぐねているのだから、雲を掴むようなものである。

ロックは頭を切り替えて、ナルシェについて説明して置くことにした。


「ナルシェは炭鉱都市で、位置としてはフィガロ国に近いけど、自治都市だ。別に余所者お断りって訳じゃないけど、住人はちょっと取っつき難いかもな。最近はピリついてるだろうから、特に」


ロックの言葉に、スコールの双眸が微かに細められる。


「そのピリついた場所に行くのは、何が───」


そこまで言って、スコールは止まった。

続く言葉は恐らく「何が目的だ」と言ったところだろう。
問われて当然の言い方をしたな、と思いつつ、そこで止まったスコールに、今度はロックが眉根を寄せる。


「なんだ?」
「……いや」


訝しむロックに、スコールは視線を反らした。
目の前のパスタを見て、黙々と食べ進めるスコールに、ロックの方が落ち着かない気分になって来る。


「聞きたいことがあるなら言えよ。ちゃんと答えるつもりはあるぞ?」
「……いい。俺はあんたの傭兵だ。雇い主の意向に従うのが仕事だ」
「辺鄙なところに連れていかれて、何をやらされるか。悪いことでもやらされると思ったんじゃないか?」


傭兵に犯罪の片棒を担がせるなんて、よくある話だ。
地獄の沙汰も金次第、と支払い次第でそれを引き受ける輩は、決して珍しくない。
その傍ら、悪罪を背負(しょ)いこまされるのは御免だと、警戒するのも当然である。

青年もそれ考えたのではないか、とロックは言った。
スコールは図星を突かれたように口を一度噤むも、ジョッキを掴んで口元に運ぶ。
喉奥に何かを押し込むように、液体をぐびりと飲んで、言った。


「俺は傭兵だ。命令には従う」
「命令ってほどでもないんだけどなあ……」


硬質な声のスコールの言葉に、ロックは頭を掻いた。
彼を引き連れるにあたり、腰に携えたものと併せ、無難な言葉で誘いをかけたのはロックの方だが、どうもスコールにとって“傭兵”とはかくあるべしというものがあるらしい。
そこまで頑なにされてもロックの方が困るのだが、記憶喪失ながらに縁とするのがその単語であるなら、こちらからは触れるまい。

スコールが食事をすることに終始しているので、ロックもまあ良いか、と思うことにした。
どうせこの青年の正体と言うのは判らないのだ。


(ナルシェに行った時に、どう動くか。帝国絡みなら、何かある筈だ。その時に考えれば良い)


何せ、スコールの“記憶喪失”と言うのも、彼の自称でしかない。
ロックの直感で言えば、強ち嘘とも言い難いが、それは個人的な感情が齎すものであることは否めなかった。
若しかしたら、ロックが身を置く地下組織リターナーが討たんとしている、ガストラ帝国の関係者である可能性も、未だ否定はできないのだ。
故にロックは、彼を傭兵として同行にしながらも、彼に与える情報は少しずつ限定的に開示するに留めていた。

パスタの皿がふたつとも空になり、ロックはジョッキを開けた。
その横で、スコールも少しずつジョッキの中身を減らしていたが、半分ほどまでになると、その動きが止まる。


「……」
「スコール?」


俯き加減に沈黙したスコールに、ロックは声をかけた。

スコールは、両手でジョッキを捕まえるように持ち、皿の片付けられたテーブルを見下ろしている。
何か深く思案しているようにも見えるのだが────と思っていた時だった。

ぐら、とスコールの体が斜め横に傾いて、背凭れのない椅子の上でバランスが傾く。


「っおい!」


そのままゆっくり床に落ちていく体を、ロックは咄嗟に腕を掴んで捕まえた。
かくんと頭が重力に従って、体は斜め、それに対して首は90度になっている。

腕の力で引っ張って体勢を戻させるが、スコールの体は今度はロックの方へ傾いて来た。
完全に力の抜けた重みがロックに乗って、ぐったりと寄り掛かる。


「スコール?おい、大丈夫か?」
「……」
「……お前、ひょっとして、酔ったのか?」


胸元に顔を埋める形になっているスコールを見下ろして、ロックは言った。
返事はなく、「うん……」とむずがるような声が聞こえてくるだけだ。

ロックはスコールの頬やら肩やらを叩いてみるが、反応は芳しくなかった。
ぐでんと力の抜けた体は、すっかりロックに体重を預け、瞼は半分以下まで落ちている。
目元をとろんとさせたスコールの頬は薄らと赤らんで、耳や首筋まで紅潮して見えた。

ちらとロックがテーブルを見れば、飲みかけのジョッキがある。
中身は特段珍しくもない、どこの安酒場でも提供されるエールだ。


(……飲めない奴だったか?一応、今後の為に、覚えておくか)


意外、と思いつつ、ロックは海を越えて初めて知る青年の詳細情報を更新する。

スコールは完全に意識を飛ばしてはいないものの、宙に浮いている状態だ。
このままではどうにもなるまい、とロックは食事代をテーブルに置くと、スコールを背負ってカウンターを離れる。

酒場の奥にあるドアを潜れば、宿屋と繋がっている。
受付に行って二人分の寝床のある部屋を取り、そこへスコールを運び込んだ。
綺麗なリネンで整えられたベッドにスコールを横たえてやると、スコールは眉根を寄せながら数回寝返りを打った後、丸く縮こまって静かになる。

ロックは、ベッドの真ん中で丸くなったスコールに声をかけた。


「スコール。俺、色々調達に行ってくるけど」
「……」


瞼が薄く開いて、蒼灰色がぼうと揺蕩いながらロックを映す。
スコールはじっとこちらを見詰めたまま動かない。

ロックは肩を竦めつつ、まあ良いか、と思った。
どのみち、今日は諸々の準備に費やして、東の洞窟へ向かうのは明日にするつもりだったのだ。


「今日はここで寝るから、ま、大人しくしててくれよ」


なんとなく子供に聞かせる口調になって、ロックは言った。
返事がなかったので、念を押す気持ちも込めて、濃茶の髪をぽんぽんと軽く叩く。

ぼうっとロックを見つめるスコールの貌からは、眉間の皺が薄らいで、どこか幼い輪郭が覗いていた。
その双眸が次第に薄く細められて、瞼がすっかり閉じた後、すぅすぅと寝息が立てられる。
大人になり切らない寝顔に、妙な奴を拾ったなあ、と今更思うロックであった。




6月8日と言うことで、ロクスコ。
以前に書いたスコール in FF6(本編スタート前)が楽しかったので、続きを考えてしまった。

FF6ってキャラクター数が多く、年齢幅も上から下まで広いんですが、ロックって25歳なんですよね。ゲームのキャラグラフィックからはあまり判らないけど、良い大人。
スコールの見た目が大人びていること、この設定だと記憶喪失なので実年齢が情報としてはっきりしないので、ロックは同年くらいの感覚で扱っているつもり。少なくとも20歳は数えているだろと思っている。なのでエールも二人分注文してました。
スコールにしてみると、水ではなさそうだけど、ここに来るまでちゃんと水分も取れていなかったので、一応飲んでおこうと思った……と言う。ここまでの疲れや緊張もあって回ったんでしょうね。

Pagination

Utility

Calendar

07 2026.08 09
S M T W T F S
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

Entry Search

Archive

Feed