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Category: FF

[ジタスコ]この距離感はここだけの

  • 2021/09/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


バッツが「良さそうな匂いがする」と言って其方の方向に向かって歩き出したので、スコールとジタンもその後を追った。
一体どんな匂いなのかと訊ねてみると、臭いようなそうでもないような、と言う。
“臭い”ものを“良さそう”とは、随分と真逆な事を言ってくれると、スコールは眉根を寄せたが、バッツの足取りに迷いはない。
妙なトラブルに巻き込まれない事を願いながら、スコールは歩を進め、ジタンも同じ気持ちで彼について行く。

バッツにしか見えない道を辿るように進んでしばらく後、ジタンもバッツが感じていたと思しき匂いに気付いた。
そのお陰で、なんとなくバッツが言うものの正体に気付き始めた所で、スコールも同じように“臭いようなそうでもないような、良さそうな匂い”と言うものを感じ取ったらしい。
そうしてバッツが進行方向を決めてから十分程度は経っただろうかと言う頃に、“それ”は発見された。


「温泉だー!」


バッツとジタンが二人揃って声を上げる。

其処はグルグ火山地帯の麓に当たり、其処から湧き出る複数本の川の水が小さな池に流れ込んでいた。
湯の源流は熱湯と言って十分な程の温度だが、他の川から届いた冷水と混ざり、程好い温度まで下がっている。
付近に生息していると思しき動物や魔獣が浸かりに来ている所を見るに、水質も危ないものではなさそうだ。

こんな良条件は滅多にないと、今日の野営地は満場一致でこの温泉の傍と決まった。
池の周りは鬱蒼とした森に囲まれ、見通しはあまり良くはなかったが、それはこの世界ではよくあることだ。
それよりも、清流の川が遠くなく、其処に魚が棲んでいるので食料確保には事欠かないし、何より天然温泉を楽しめるなんて最高ではないか。
秩序の聖域にある屋敷で、広々とした浴場を使えることは非常に恵まれたことであると判ってはいるが、露天風呂の解放感はまた格別だ。
明日、帰還した時には仲間達にこの情報を共有するとして、今日の所は、三人だけで思う存分楽しもうじゃないか、と言う話になった。

温泉が齎す環境か、周囲には様々な獣が生息しており、その素材を集めるのに一役買った。
普段なら中々手に入らないような貴重な毛や羽根も手に入り、先日確認したモーグリショップのトレード品の上位のものも幾つか購入する事が出来るほどだ。
普段の三分の二ほどの探索時間が過ぎた所で、中間報告に集まって成果を確認すると、いつもの倍近くの価値があるものが集められた。
これはもう十分だろう、と満足感も手に入り、今日の所はのんびりしても良いじゃないか、と言うジタンに二人も同感で、予定よりも早めの野宿設営を始めた。

夕飯を終えると、ジタンとバッツは早速温泉に入ることにした。
温度はジタンにとっては少し温めに感じられたが、長湯をするならこれ位の方が良い、と言う程度。
柔らかな水質は、のんびりと浸っていて心地良く、体の芯までじんわりと染み渡り、奥からぽかぽかと温まって行くのが判る。
温泉の質や効能などは判別できるものではなかったが、湯治に良さそうなものである事は感じられた。
森の奥と言う立地である為、通うには聊か不向きな場所だが、偶に足を伸ばして来る位の魅力はあるだろう。
何より、風呂に入りながら空を見上げることの解放感が良い。
遮るもののない空には、ゆっくりと立ち上る湯気が消え行き、その雲が晴れて見える夜空には、満点の星が散らばっている。
これは中々の贅沢だ。

たっぷりと温泉を堪能していたジタンであったが、ざぱん、と水音を聞いて顔を上げる。
見ると、バッツが湯から上がって、手早く体を拭いている所だった。


「もう上がるのか?」
「うん。スコールと交代しようと思ってさ」


スコールは、温泉にはしゃぐ二人を尻目に、火の番を引き受けると言っていた。
彼に甘える形でジタンとバッツは温泉を堪能していたのだが、こんなに気持ちの良いものなのだから、彼も一度くらいは入っておくべきだとバッツは言う。

まだ髪が濡れた状態のまま、バッツはスコールの下へと戻って行った。
一人残ったジタンは、汲んだ手で水鉄砲を遊びながら、のんびりと過ごす。
しばらくそうして待っていると、小さく土を踏む音が聞こえて、池の岸に目を向ければ、ジャケットを脱いだ格好で此方に歩み寄って来るスコールの姿が見えた。


「おっ、スコール。来たか」
「……」


声をかけるジタンに、スコールは視線だけを寄越す。
その表情が、別に入りたい訳じゃない、と聊か拗ねているように見えるのは、ジタンの気の所為ではあるまい。
大方、バッツに「良いから行って来いって!」とせっつかれて、半ば強引に火の番を交代されたのだろう。
仕事を奪われてはどうしようもないと、またあるのなら確かに入って置かないのは損だとでも思ったか、渋々気味の足まで此処まで来たと言う訳だ。

スコールは手袋を外した手で湯の温度を確かめてから、服を脱ぎ始めた。
裸になって湯に入ると、スコールは足元を滑らせないように気を付けながら、座って体が沈められる深さの場所を探す。
先客の動物には近付かないようにしながら、丁度良さそうな場所を見付けると、スコールはその場に腰を下ろした。


「……ふう……」


漏れた吐息に、ジタンはくすりと笑う。


「気持ち良いだろ?」
「……まあ、悪くはない」


ジタンの言葉に、スコールは短く返した。
聊か素っ気ない位のその台詞が、彼の素直ではない所を表している。

スコールは掌で湯を掬って顔を洗った。
濡れた前髪を掻き上げると、特徴的な傷の走る額が露わになり、其処が血流が良好になってほんのりと赤らんでいるのがよく判る。
二回、三回と続けて顔を洗えば、雫が額や頬、高い鼻筋をゆっくりと滑り落ちて行き、彼の整った面立ちをより魅惑的に演出する。
普段は恒常的になっている眉間の皺が緩み、真一文字に引き結ばれている唇も解けているお陰で、近付き難い雰囲気もない。
そう言う顔で過ごしてればモテるんだろうなぁ、とジタンは思ったが、


(ま、そんなスコールと付き合ってるのは、オレなんだけど)


誰に対してでもなく、自慢げな気分になって、ジタンの尻尾が湯の中で上機嫌に揺れる。
それから、ふと一足先に湯から上がった仲間のことを思い出し、


(気ぃ遣わせたか?別に良いんだけどなーっつっても、有り難いっちゃ有り難いんだよな)


バッツは、ジタンとスコールが恋仲である事を知っている。
と言うよりも、彼が間であれこれと気を回してくれたお陰で、ジタンは自分の気持ちを受け入れられたし、スコールも戸惑いながらもジタンの告白を受け止めてくれたのだ。
その後、「おれの事は気にしなくて良いからさ」と言って、二人の為を想って距離を取ろうとしたバッツであったが、彼も含めた三人グループで過ごす事は、ジタンとスコールにとっても日常と化していた。
バッツのお陰で助かる事は幾らでもあったし、何より、ジタンとスコールが恋仲になったからと言って、彼と距離が出来て良い訳でもない。
だから二人が良い仲となってからも、バッツとはいつも通り、今まで通りに過ごしている。

とは言え、やはりバッツとて全く気を遣わない訳ではなく、野営の隙にはこうして二人だけの時間を作ってくれた。
スコールはバッツのこの気遣いを反って強く意識してしまうようだったが、ジタンにとっては有り難い。
何せスコールは人との交流に慣れていないものだから、触れ合いには全く消極的で、ジタンの方からアクションを起こさないと、中々“恋人同士”らしい雰囲気になれない。
そして人目があると素直になれない恥ずかしがり屋が顔を出すので、バッツがこうやって気を遣い、二人きりの時間を意図的に作る事で、彼を少しでもハードル意識を緩和させる必要があった。
お陰で最近のスコールは、二人きりの時であれば、ぎこちないながらも、自分からジタンに触れる事も増えていた。

こんな気を回させるばかりの事をして、やはり一緒にいるのはバッツにとって余計な負担ではないかとジタンは思ったりしたのだが、本人に訊いてみると、そうでもないらしい。
元々、バッツの執り成しがあって、今のジタンとスコールの関係が定着した訳で、バッツにとってはその行方を見守るのが楽しいのだそうだ。
だから二人が何か良くない雰囲気があれば直ぐに介入するし、偶に“良い”雰囲気があれば、良かった良かったと満足しているとのこと。
それを聞いた時のジタンは、酔狂な奴だなぁ、と思ったが、親友がそんなスタンスでいてくれる事は有り難いのも確かだった。

そんなバッツの気遣いのお陰で、今ジタンは恋人との温泉を満喫している。


「スコール。体洗ってやろっか?」
「……洗うようなもの、持ってきてないだろう」
「タオル用の布ならあるから、背中流す位は出来るぜ」


温泉を見付けるなんて思いも寄らなかった事だから、入浴に必要なものなんて持って来ていない。
が、運が良ければ野営で水浴び位はしたいものだし、何にでも使えるしと、多くはないが布は持って来ている。

既に水を含んでいる綿布を搾りながら近付いて来るジタンに、スコールはなんとも言えない表情を浮かべながらも、その背中に周るのを止めなかった。
ジタンはスコールの後ろに膝立ちになって、湯に浸かったままのスコールの背中を擦ってやる。


「お客さん、如何ですかー」
「……何の真似だ、それは」
「まあまあ、ノリだよノリ。で、どうだ?」
「……意味不明だ」


聞いている事の意味が判らない、と言うスコール。
ジタンは、位置の所為でスコールの表情は見えないが、顰め面してんだろうなあ、と思いつつ苦笑する。

しかし、スコールは背中を流すジタンの手を止める事はしなかった。
肩膝を立てて、其処に腕も置いて枕にし、頭を下ろしている様子に、随分とリラックスしている事が判る。
恋人と二人きりと言う環境でも、可惜に緊張せずにいてくれるようになったのは、ジタンにとって嬉しいことだ。


「ふー。終わったかな。サービスで前も洗ってやろっか?」
「要らない」
「そう遠慮するなって!」
「遠慮とかじゃ────」


ない、と言うスコールの声は引っ込んだ。
ジタンが飛び付くように背中に突進して来て、脇の下から潜らせた手で体を擽り始めたからだ。


「な、ひっ、ジタン、おいっ!」
「うりゃうりゃうりゃ」
「やめ、バカ!くすぐった、いっ、ひ、ふっく、」


背中のくっつき虫を振り払おうとするスコールだが、ジタンは暴れるか体を往なしながら、スコールの腹を擽る。
小手先の作業によく慣れて、細かく動くジタンの十指が、スコールの薄いがしっかりと割れた腹筋の上を刺激する。
スコールは腹筋に力を入れて刺激を防ごうとするが、鍛えられ発達した筋肉と言うのは、反って敏感なものである。
況してやスコールの場合、脂肪も殆どついていないようなものだから、筋肉の表面を覆うのは肌皮一枚しかない訳で、


「ひ、ふ、くく、うっ」
「腰も弱いよなー?」
「やめろって言って、う、ふ、はっ、は、」
「我慢しなくて良いんだぜ?ほらほら、笑顔の練習ってな!」
「これの、何処か、~~~~っ!」


腹から腰、脇と、ジタンにあちこちを満遍なく擽られて、スコールは体を守るように身を縮めている。
服を着ていればそれで守れる場所もあっただろうが、温泉と言う場所でそれは無理な話。
ジタンはここぞとばかりに、スコールの体を攻めまくる。

ばしゃばしゃと騒々しい珍客二人に、のんびりと湯殿に浸っていた動物たちが遠巻きに離れていく。
ティーダであれば笑い転げながら逃げる所だろうが、スコールは口を噤んで声を上げないように堪えていた。
そうやって体中を強張らせるから、余計に刺激に敏感になっているのだろうが、刺激への反射反応なのでどうしようもあるまい。
が、いつまでもされるがままでは堪らないと、スコールは思い切って後ろに向かって腕を振り回した。


「やめろ!」
「ほいほい~っと」


声を大きくしたスコールに、ジタンは素早く逃げ飛んだ。
赤らんだ顔に目尻に我慢の雫を浮かべて睨むスコールから、ジタンは脱兎のごとく離れる。


「ちょっとふざけただけだろ~?」
「何が“ちょっと”だ」
「ちょっとだって。オレが本気出したら、こんなもんじゃ済まないぜ。お前の弱いとこ、ぜーんぶ知ってんだから」


両手をわきわきと動かして見せながら言えば、スコールは沸騰宜しく真っ赤になって、足で水面を蹴飛ばした。
ばしゃっと跳ねた湯がジタンの顔にかかって、猫のように頭を震わせるジタンを見て、スコールは少しばかりの留飲を下げる。

まだ少し息を切らしながら、スコールはようやくと言う心地で、また湯の中に体を下ろす。
池の中には大きな岩が幾つか沈んでおり、水面から頭を出しているものもあって、スコールはその一つに背中を預けた。
判り易く背後からの襲撃を警戒しているスコールに、ジタンは「もうやんねえって」と言ったが、向けられる視線は判り易く疑っていた。
疑念一色のブルーグレイに、ジタンは悲しんで見せる表情を作ってみるが、判り易い演技で同情が誘えるほど、この恋人は甘くはない。
ふん、とそっぽを向いてしまったスコールに、思った通りの反応だとジタンはくつくつと笑った。


「さてと。長湯したし、オレもそろそろ上がるかな」
「……そうか」
「スコールはゆっくりしろよ」
「ああ」


寧ろ、やっと本当にゆっくり出来る、とスコールがほうと息を吐いている。
そんなまだまだ素っ気ない───今日のその態度の原因を作ったのはジタンであるが、それは置いておいて───恋人に、ジタンは此処を離れる前にとスコールの下に向かう。

湯の中に座っているスコールを、ジタンは見下ろす。
身長差の所為で殆どの仲間達を見上げる事になるジタンにとって、スコールの旋毛が見れる機会と言うのは珍しかった。


「スコール」
「何だ」


まだ警戒心を持っている蒼灰色が此方を見た。
その宝石を隠すように飾る、長い睫毛を抱いた瞼に、ジタンは触れるだけのキスをする。

不意打ちの感触に目を丸くして、スコールはジタンを見上げている。
その眦にもキスをして、ジタンはスコールが再起動をかかる前に「じゃ、お先!」と言って湯舟を上がった。
手早く体を拭いて、絞った布だけをスコールの服の傍に置いておき、ジタンは温泉を後にした。

野営地に戻ると、火の番をしていたバッツに、「機嫌良さそうだな」と言われた。
そりゃあもうと頷けば、バッツもまた嬉しそうな表情を浮かべ、焚火に薪を放り込んだのだった。





9月8日と言うことで、ジタスコです。
仲間としてわちゃわちゃ過ごしながら、恋人としても距離を縮めてる二人とか見たい。

バツスコでも言えるのですが、CPとはまた別に589トリオも好きなので、二人が付き合っててももう一人も相変わらず一緒にいるのが好き。
どうしても気を遣う所はある訳だけど、だからと言って別々になるのは考えられない三人が良いなって。思ってます。

[クラレオ]緩やかな刻に熱を注ぐ

  • 2021/08/11 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


誕生日と言うこともあって、何か欲しいものでもあるか、と聞いてみた。

この年になってと呟く当人の気持ちには全く同意するが、それはともかく、幼馴染の面々は祝う気満々になっている。
レオンもそれに促される形で、折角ではあるし、と彼女たちに便乗ついでに応えておこうかと思ったのだ。
とは言え、祝う方法について具体的なものが浮かぶ訳もなく、サプライズを狙うような相手でもないしと、手っ取り早く本人に聞く方法を取った。

その結果、返って来たのは、


「……何もしなくて済むのが良いな」


と言った。

平時のクラウドは、闇の力を使って外の世界を彷徨っている事が多く、レディアントガーデンに帰って来るのは気まぐれなものだった。
何を切っ掛けに帰郷して来るのか、理由についてレオンは知らないし、聞く事もしない。
だが、基本的には休むつもりで故郷に戻って来ているつもりのようで、レオンの家で何をするでもなく過ごしている事が多い。
結局は、其処にいるなら手を貸せとレオンや再建委員の面々が貴重な人材として駆り出すので、彼が望む程に休みを満喫しているかは微妙だが。

恐らく、そう言う所があるから、誕生日位はパトロールに駆り出される事なく過ごしたい、と思ったのだろう。
レオンもトラヴァーズタウンにいた頃は、自分の誕生日くらいはと暇を渡されたし、エアリスやユフィが誕生日の時にも、彼女たちがその日を思うように過ごせるよう計らった事がある。
今のレオン達にとって、ハートレスと戦う力を持ち、力仕事と言った他諸々の雑事に呼べるクラウドは、使わない手はないと言える程に重宝しているのだが、


(まあ……誕生日だしな)


普段、クラウドを駆り出す際、レオンは彼の都合をほぼ無視している。
都合と言うものの多くが、寝たいとか休みたいとか言うものである事、済ませる事を済ませれば解放している事、更に彼が故郷で過ごしている間はレオンの自宅に居候をしており、その面倒を見ている分の返礼くらいは働け、と言う理由もあっての事だ。

正直に言えば、レオンとしては今日明日でハートレスを片付けておきたいエリアがあり、其処にクラウドの手を借りようと思っていたのだが、誕生日プレゼントを聞いたのは自分の方であるし、それを跳ね付けるのも聊か気が引ける。
何より、焦っての事かと言われればそうではなく、早い内に済ませる事が出来れば、と言う程度の事だ。
予定のエリアのハートレスも、昨日確認した限りでは、それ程多くはいなかった。
自分一人でもなんとかなるか、とクラウドの希望に応じようとしたレオンであったが、


「あと、あんたも付けてくれると有り難い」


笑みを浮かべたクラウドに、レオンは僅かに眉根を寄せたが、まあ良いか、と思う事にした。



昼の内にクラウドを拠点に連れて行き、再建委員会メンバーと揃って、彼の誕生祝を兼ねた昼食を採った。
キーブレードの勇者のような年齢ならともかく、もう二十歳も過ぎて、祝われる事に特別な感慨がある訳でもないが、それでも祝ってくれる仲間達がいる事は有り難いものだ。
クラウドもそれは判っているのか、シド特製の唐揚げを山積みにして「クラウドの分ね!」と目の前に置いたユフィにも、呆れつつもそれを平らげて見せた。
他にも祝いなんだからと昼間から酒を持ってきたシドであったり、黄色い小鳥の飾りを乗せたケーキを用意したエアリスにも、シンプルな礼を述べて、どちらもしっかり手を付けた。
流石に酒もケーキも全て食べ切る訳にもいかなかったので、これらはクラウドが満足する程度で済ませている。
それでも、ボリュームのあった昼食も含め、クラウドの腹は十分に満たされた。

帰り際、次はレオンの番だからね、と言うユフィにレオンは苦笑する。
すっかり忘れていたが、確かに十日もすれば自分の誕生日が回って来る。
クラウド同様、何もなくとも気にしない、寧ろこうして思い出してもまた忘れてしまいそうなレオンの事など気にせず、ユフィやエアリスは何か計画しているのだろう。
当日を密かに楽しみに思う位には、自分も今の生活に余裕を感じているのだろうか。
そんな事を考えている間に、レオンとクラウドは自宅───クラウドにとっては間借り先───に着いていた。

中に入れば、クラウドは腹を撫でながら、定位置のソファに寝転ぶ。
手を乗せた腹がいつもより僅かに膨らんでいるように見えて、レオンはくつりと笑った。


「随分食っていたな」
「流石に腹が重い」
「その分じゃ、晩飯は無くて良いか?」
「それとこれとは別だ」


数時間もすれば消化は終わる、と言って、クラウドはちゃっかり夕飯を所望する。
判り切った事なので、レオンは肩を竦めながら、冷蔵庫の中身を確認しに向かった。

馳走は昼に十分味わったから、夕飯は質素でも良いだろう。
とは言え誕生日ではあるのだし、クラウドが好みそうな厚みのある肉を一品添えても良い。
そう考えると、結局質素ではなくなるな、と思ったが、折角なのだから良いだろう。

夕飯に使えるものは一通り揃っていたので、今日は買い出しに行く必要もない。
クラウドからの希望があるので、レオンがパトロールやデータの確認に行く予定もなくなったし、レオンは手持無沙汰な気分だった。
意図せぬ休日を得たと言えばそうだが、レオンとしては勿体ない気がして仕方ない。
ソラが集めてくれているアンセムレポートの確認でもしようか───と思っていると、


「レオン」
「なんだ?」
「こっち」


促す声にレオンは首を傾げつつ、呼ぶ人間の下へと向かう。
相変わらずソファに寝転がったまま動かないクラウドの傍に来ると、床を指してしゃがむように示された。
膝を折ってソファの前に座ると、伸びて来た腕がレオンの頬を撫で、ピアスの光る耳へと触れる。


「やっとあんたを堪能できる」
「そんな事の為に俺を付けたのか」
「大事なことだろう。あんたは俺をほったらかしにするから」
「殆どここにいないのはお前だろう」


ほったらかしも何も、いない人間を気にするような暇はレオンにはない。
きっぱりと言ってやれば、クラウドは如何にもわざとらしく、傷付いた顔をして見せる。
露骨な表情に乗ってやるのもバカバカしくて、レオンは頬を撫で遊んでいたクラウドの手を払う。

と、その手が今度はレオンの肩を掴んで、ぐっと引き寄せた。
前に傾いたレオンの首にしっかりとした腕が絡まって、逃げ場を塞いでキスをされる。
無防備に薄く開いていた唇の隙間から舌が入り込んで来て、レオンのそれを絡め取り、水音を立てながら咥内を弄る。


「ん、…ふ……っ」


遠慮をしない侵入者に、柔く歯を当てて噛んでやると、舌は益々調子に乗った。
じゅる、じゅぷ、と昼日中から聞くには聊か不適切さを匂わせる音がして、ぞくりとしたものがレオンの首筋を走る。

たっぷりとレオンの咥内を味わって、ようやくクラウドは離れた。
はあ、と息苦しさに喘ぐ灰に酸素を送って宥めつつ、レオンはソファに寄り掛かる。
首を固定していたクラウドの手が緩んで、背中にかかる濃茶色の髪の毛先に指を絡めて遊んでいた。


「はぁ……全く、お前はいつも唐突だ」
「それは否定しないが、今日はあんたが先に聞いて来たんだろう。何が欲しいって」


それはそうだが、と呆れつつ、レオンは体の向きを反転させた。

床に座ってソファに凭れかかるレオン。
十分な供給を見たした肺が落ち着いて、レオンは天井を見上げながら、ふう、と一息。
それでレオンが落ち着いた事を察して、クラウドがソファから起き上がった。


「俺は休みで、あんたも休み。今日一日は自由に過ごせる」
「アラートでも鳴らなければな」
「無視すれば良いだろう」
「お前じゃないんだ、そう言う訳にはいかない」


無責任な事を言うな、と咎めれば、クラウドは素知らぬ顔だ。
故郷がまだまだ大変だと判っているのだろうか───と思うレオンであったが、彼も一応、この地に郷愁がない訳ではないらしい。
だから本当にアラートなり緊急事態なりと起これば、レオンが家を出て行くのを止めはしないだろうし、必要であればその腕を振るうだろう。
気分屋な所はあるが、律儀な所は律儀なのだ、とレオンは幼馴染の男をよく知っている。

ソファに座ってレオンの旋毛を見ていたクラウドであったが、なんとなく其処から流れる髪の毛先を追って手櫛を滑らせていると、後髪の隙間から覗く項に辿り着く。
いつからか伸ばした髪が隠すようになった其処に指先を宛がって、生え際の後れ毛をくるりとくすぐった。
むず痒い感触にレオンがその手を払うが、クラウドは構わず首の形をゆっくりと辿り、耳の裏をなぞる。


「クラウド」
「感じるか?」


レオンの咎める色を含んだ声に、クラウドがにやりと笑う。
調子に乗ってるな、とレオンは眉根を寄せたが、クラウドの腕に抱えられるように持ち上げられて、ソファの上に転がされ、その上にクラウドが跨って来る。


「……昼間からする気か」
「良いだろう。今日は俺の誕生日なんだから」


好きにさせて貰う、と言いながら、クラウドの手はレオンの腹を、胸を撫でていく。
首元に整った顔が近付いて、ぬるり、と舌がレオンの喉を這う。

シャツが捲り上げられ、引き締まった躰が露わになると、クラウドの瞳に熱が宿る。
全くお盛んな奴だと呆れたレオンであったが、久しぶりであるのはレオンも同じで、まあ良いかと思う事にした。
妙な趣味を疑うような事を要求されなければ、今日はクラウドのしたいようにさせるのも悪くない。

クラウドが手袋を外したので、レオンも自分のそれを外す。
ソファの端に置いたそれが、際過ぎたのかぽとりと落ちたが、伸し掛かる男が邪魔で直す事は諦める。
クラウドはと言うと、手袋はぽいと適当に放り投げて、ベストを脱いだ。
昼日中とあって外は明るく、部屋の電気をつけなくても、鍛え抜かれた躰がはっきりと見る事が出来る。
それはクラウドからも同様で、均整の取れたレオンの躰を余す所なく眺めては、今日はこれを独占できるのだと言うことに良いようのない興奮が浮かんだ。


「お前、溜まってるのか」
「あんたが構ってくれないからな」


呆れながら言うレオンに、クラウドはきっぱりと責任転嫁してくれた。
しかし、確かに当分してはいなかったな、とも思い出して、レオンは体の力を抜いた。
好きにしろ、と言う意思表示を示すレオンに、クラウドの口元に笑みが深まって、胸元に頭が下りて来る。

窓から差し込む太陽の眩しさと、躰を這い上って来る熱が、レオンに背徳感のようなものを感じさせた。
時計を見れば三つ時で、この時間から始めたとして終わるのは────と凡その計算をしようとするが、下肢に押し付けられるものの感触に気付いて諦めた。
どうせ自分が思うような時間に解放される事はないだろうし、夕飯ももう簡単に昨日の残り物で片付けてしまえば良い。
誕生日だから、と少し位の贅沢はさせてやろうと思ってはいたが、絡み合う躰以上にこの男に贅沢を感じさせるものはないらしい。
安上がりで良いか、と思う事にして、レオンはクラウドの頬に手を伸ばす。

すり、と指先が白い肌に触れて、クラウドが顔を挙げた。
雄の気配を宿した碧の瞳を、細めた双眸で見詰めると、何に誘われたのかその顔が近付いて来る。
重ねた唇を甘く吸ってやると、貪るように食い付かれて、その判り易さにレオンはくつりと笑った。





誕生日と言うことでクラレオ!
甘やかされの許しが出たので、此処ぞとばかりに調子に乗るクラウドと、誕生日だからまあ良いかのレオンでした。

[クラスコ]エタニティ・リング

  • 2021/08/11 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


最初に誕生日祝いだと言ってプレゼントをくれたのは、友人のザックスだ。
いつも通りに出社して、今日配達の荷物を確認している所へ、一拍遅れて会社に到着した足で、そのまま渡しに来てくれた。
ファッションの類にまるで興味のない友人を慮って、良さそうな上着を見付けたんだよ、と言っていたザックス。
クラウドはそれを有り難く受け取ると、自分のロッカーの中へと納めておいた。

それを切っ掛けにしたように、他の友人たちからも祝いの品を貰った。
多くは今日がクラウドの誕生日である事に初めて気付いたようなものだったから、手持ちに愛用している飴玉だったり、社の冷蔵庫に常備している摘まめる駄菓子だったり。
だが女性社員は前々から準備してくれていたようで、女性社員一同から、と言う形で、ペンケースをくれた。
革製の黒い光沢のあるペンケースは、使い込む程に手に馴染んで行く事だろう。
長く使えるものを用意してくれた女性社員に感謝を述べて、クラウドはそれもロッカーの中へと仕舞った。

仕事は滞りなく片付ける事が出来、気分の良さも相俟ってか、一日は案外と早く終わった。
空を多く橙色に、ぼちぼち早くなり始めた宵闇が滲む頃に、クラウドは退勤のタイムスタンプを押す。
特にいつもと変わった事がある訳ではなかったが、それでも誕生日であるし、帰りにコンビニで酒でも買って帰ろうか。
そんな事を思いつつ、プレゼントを詰めた鞄を肩に担ぎ、会社を出ようとした所で、


「クラウド。例の子、来てるってさ」


事務方に今日の報告書を提出しようとしていたザックスに言われて、クラウドの胸が弾む。
大した距離でもないのだが、進む足が早くなったのは、自然な事だ。

社員用の通用口である裏口から出ると、外は大分暗くなり、街灯が煌々と点いている。
クラウドは駐車場に置いていた大型バイクを押して、敷地の外へと出た。
其処からほんの数メートル離れた場所で、一人の少年が電柱に寄り掛かっている。


「スコール」
「……お疲れ」
「ああ」


名前を呼べば、少年───スコールが顔を上げる。
今日を労ってくれるスコールの言葉に、クラウドは小さく頷いて、彼の傍へと近付く。


「塾は終わったのか」
「ん」


スコールは高校二年生で、この近くにある進学塾に通っている。
この案外と近い距離が縁で、二人は知り合い、今では深い仲へと発展していた。

スコールは電柱に預けていた背を放すと、クラウドを向き合って少し俯いた。
街灯に照らし出された大人びた顔立ちの中、噤まれていた小さな唇が、何度か開いて閉じてと繰り返す。
何かを言おうとして言葉を探している時の様子だと察して、クラウドはスコールが音を出す準備を整えるのを待った。

しばしの沈黙の後、スコールは肩にかけていた鞄を下ろし、中から小さな箱を取り出した。
掌に乗せていられるサイズの正方形のそれには、銀色のテープが飾られている。


「……これ。あんた、今日、誕生日だから…」


そう言って箱を差し出すスコールは、判り易くクラウドから目を逸らしている。
夕暮れがまだ僅かに届く中、耳が赤くなっているのを見付けて、くすりとクラウドの唇に笑みが滲む。


「ありがとう、スコール」
「……別に」


小さなプレゼントボックスを受け取り、感謝の言葉を告げれば、スコールは益々赤くなる。
素っ気ない言葉は彼の口癖のようなもので、それすらもクラウドは愛らしく思っていた。

箱はサイズの割には重さが感じられる。
銀色のテープには薄く刻印が施されており、クラウドが愛用しているアクセサリーのブランド名が記されていた。
ロックを外して蓋を開けてみれば、きらきらと一寸の穢れもない、銀色の狼を頂いたシルバーリングが納められている。
学生が手に入れるには少々根が張るものだった筈だ。
スコールが夏休みに入る前から、懇意にしている友人の紹介を頼り、アルバイトをしていた事は聞いている。
この為に、自分の為に頑張ってくれていたのかと思うと、クラウドは面映ゆくて仕方がない。

クラウドは視線を逸らしたままのスコールの肩を優しく捕まえると、そっぽを向き続ける赤らんだ頬にキスをした。
突然の事にスコールは一瞬固まった後、益々赤くなってクラウドの方を見る。


「あんた、何して……っ!」
「お前が可愛いことをしてくれたから、その礼だ」
「ば、かじゃないのか!」


恥ずかしさからだろう、飛び退こうと体を引くスコールだったが、クラウドの腕がそれを許さなかった。
しっかりとその肩を捕まえたまま、今度は唇にキスをする。


「ん、ん……っ!」


未だにスキンシップと言うものに慣れないスコールは、手を繋ぐだけでもぎこちない。
キスともなれば尚更で、ついつい体が緊張して硬直するのが癖になっていた。
そんなスコールの唇を柔く吸いながら、反射反応で逃げを打とうとする背中に腕を回し、しっかりと檻の中に閉じ込める。
うんうんと唸る声はしばらく続いていたが、絡め取った舌を吸ってやれば、ビクッと震えるのを最後に、あとはクラウドのされるがままだ。

たっぷりと恋人の愛しい唇を堪能して、クラウドはゆっくりとスコールを解放する。
濡れた桜色の唇から、はあ……っ、と熱の籠った吐息が漏れた。
スコールはそのまま一回、二回と息を吸って、足りなくなった酸素を補った後、相変わらず赤い顔でクラウドを睨む。


「……こんなとこで…やめろって言ってるのに」
「ああ、そうだったな。嬉しかったから我慢できなかった」


クラウドの言葉に、スコールは「やっぱりバカだ」と呟く。

クラウドはシルバーリングの入った箱を鞄の中に入れた。
家に帰ったら真っ先に取り出して、もっとじっくり見てみよう。
薄暗くなり始めた空の下でも、白銀の瞬きが美しかったのだから、明るい場所で見たらどんなにか。
その精巧さと、スコールが選んでくれたと言うことも含めて、きっとお気に入りの一つになるに違いない。

スコールが大通りの方に向かって歩き始めたので、クラウドもバイクを押して後を追う。


「高かったんじゃないか、あの指輪」
「……別に」
「アルバイトをしてたって」
「…もうやってない」
「楽しかったか?」
「……それなりに」


クラウドが投げかける言葉に、スコールの返す言葉は短い。
元々お互いに無口な方であるし、沈黙は苦ではない方だが、クラウドはスコールを構いたかった。


「よく買えたな」
「……足りて良かった」
「大事にするよ」
「……大袈裟だな」
「お前から貰った“指輪”だぞ?大事にしないと罰が当たる」
「だから、大袈裟だって言ってる。……ただの指輪だろ」


スコールの言葉は何処までも素っ気ない。
歩く足は心なしか速くなっていて、バイクを押すクラウドを置いて行こうとしているかのようだった。
それが彼の照れ隠しであると、クラウドは知っている。


「婚約指輪にしようか。あれ」
「……は?」


クラウドの台詞に、スコールは思わずと立ち止まり、振り返る。
ぽかんと丸くなった蒼い瞳が此方を見たので、クラウドが口角を上げて笑んでやると、またスコールの顔は沸騰して行く。


「た……ただの指輪だって、言ってるだろ!」
「俺にとっては特別だ。ああ、結婚指輪の方が良かったか。お前はまだ17歳だし、配慮したつもりだったんだが、野暮だったな」
「誰もそんな話してない!そんな馬鹿な事言ってるなら返せ!」
「それは断る。婚約破棄になるだろう」
「だから婚約じゃないって……!」


思わず声を大きくしていくスコールに、クラウドは笑みを浮かべた表情のまま、人差し指を立てて口元に当てる。
一応、この辺りには住宅もあるので、人の生活の気配もあるのだ。
あまり大きな声を出すと聞かれるぞ、と促してやれば、賢くて恥ずかしがり屋の少年は、赤い顔で唇をはくはくとさせるしか出来ない。

路地を抜けて通りが広くなると、ライトをつけた車が絶え間なく行き交っていた。


「さて……乗れ、スコール。家まで送るぞ」
「……」
「バイクの方が楽だろう?」


先の会話を引き摺ってか、恥ずかしそうに睨んで来るスコールに、クラウドはバイクの後部座席をぽんと叩いて促す。

スコールの家は、此処からは電車に乗る必要がある。
もう通い慣れたものではあるのだが、塾の終業時間が多くの会社の退勤時間と重なる事もあって、電車はいつも満員だ。
人混み嫌いのスコールはそれを嫌っており、クラウドはそれを理由にスコールをバイクに乗せて家まで送り届けていた。

座席を開けてスコールのヘルメットを取り出すと、代わりに二人の鞄が収納される。
クラウドがバイクのエンジンをかけて、良いぞ、と視線を投げると、スコールも慣れた様子でバイクを跨いだ。


「何処か寄りたい所はあるか?」
「……特にない」


買い物でもあるなら、と訊ねたクラウドだったが、スコールの返事はシンプルだった。
じゃあ直帰か、とエンジンを回す。

バイクが走り出し、スピードに乗るに連れて、クラウドに捕まるスコールの腕に力が籠って行く。
スコールは人と近付く事を、物理的にも精神的にも苦手としているが、クラウドのバイクに乗る事には随分と慣れてくれた。
背中に触れる温もりが、緊張していない事に気付いたのは、いつだっただろう。
カーブでバイクを傾ける時も、しっかりとタイミングを合わせてくれるようになって、クラウドはバイクに乗っている間、スコールと呼吸が一つになっているように思う。
その感覚がクラウドは心地良くて、一分一秒でも長く、この時間を味わっていたかった。

スコールは父子二人暮らしをしていて、そう言った環境故か、父は少々過保護気味だ。
クラウドもそれを知っているから、早い内に家に送り届けた方が良い、と言うことは判っている。
それでも今日は、今日だけはと、わざと遠回りの道を選んでも、背中の少年は何も言わなかった。


(そう言えば、スコールの誕生日も、もう直ぐだな)


あと十日と少し後で、スコールも18歳の誕生日を迎える。
今日のお返しも含めて何か用意しなくては───と考えて、直ぐにクラウドの頭に浮かんだのは、


(やっぱり、指輪かな)


スコールがクラウドにしてくれたように、彼が好きなブランドの中から、似合いそうな指輪を贈ろう。
指輪の交換だと言えば、またスコールは赤くなるのだろうか。
遠くはない日の事を想像しながら、背中の少年が少しでも喜んでくれるものを選ばねばと思った。





クラウド誕生日おめでとう!なクラスコ。

スコールとしては似合いそうだし、喜んでくれるだろうと思って選んだのが、偶々指輪だった。のだけど、クラウドがこんな事を言い出したから、自分の誕生日に指輪を渡されたら完全に意識してしまうんだと思います。

[レオン♀]花園の歌

  • 2021/08/08 22:20
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


待ち続けていた“勇者”は、随分と頼りなさそうな少年だった。
それに溜息が漏れないレオンではなかったが、勝手に色々と期待を膨らませていたのは此方であり、少年に非がある訳ではない。
邂逅に少々痛い目を見せる事になったのは、どうやらまだ彼自身が何も知らない事、判っていない事がありありと感じられた事と、口で説明する暇がなかったからだ。
子供相手に可哀想、と言う仲間達の言うことも判らないではなかったが、止むを得ないものであった事は理解して欲しい。

キーブレードの勇者として選ばれた少年の名は、ソラと言う。
彼も嘗てのレオン達と同様に、突然現れた闇に自分の故郷を奪われて、常夜の街トラヴァーズタウンへと流れ着いた。
どうやら彼には程無く次の行先が示され、鍵の力を使って外の世界へ向かう事が可能であると言う。
成り行きの中で道中を共にする事になった二人の仲間を連れて、ソラは行方の知れない友達を探すと言う目的も共に、世界へと旅立つ事になった。

────が、旅立った先で色々な出来事に巻き込まれる事もあり、また最初に彷徨っていたソラを保護して道を示した縁か、ソラは度々トラヴァーズタウンを訪れる。
旅に必要となる物や、シドを頼ってグミシップの素材類を調達する目的もあり、存外と頻繁に彼はレオン達の下へやって来た。
レオン達もそんなソラを支援するのは吝かではないので、街に滞在している間に宿泊場所を貸したり、まだまだ形に決まりきらないソラに戦い方を教えたりしている。
また、街に現れるハートレスの被害を抑える為に行っているパトロールにソラも参加してくれるようになり、鍵の力が影響しているのか、以前よりもハートレスが増える速度が遅くなっており、トラヴァーズタウンの人々の生活にも安心感が生まれるようになっていた。

二週間ぶりに街にやって来たソラが、新しく覚えた魔法の練習をしたいと言うので、レオンは彼と共にパトロールに出た。
雷の魔法をハートレスに当てながら、コントロール方法を体で覚えようとしているソラ。
どうにも理屈を頭に入れるよりも、実践で体感する事の方が彼には向いているらしい。
まだまだ扱い慣れない魔法である為、度々的を外してしまうのは、ご愛敬と言うことにして置こう。
ソラが撃ち漏らしてしまった敵が逃げ出すのを、レオンが追って切り捨てる、と言うコンビネーションでパトロールは続いた。

三番街を一通り周り、ソラの魔力も尽きて来た。
奥まった通路に屯していたハートレスの群れを片付けて最後にしようと、二人で路地に飛び込む。
一匹、二匹、三匹と、着実のその数を屠って行く最中────それは起こった。


「あ!レオン、そっち!」


ソラの頭上を飛び越えて、青年へと襲い掛かるハートレス。
ソラが声を上げたのにレオンは直ぐに反応し、ガンブレードを返す刀で振り薙いだ。
───ばちんっ!と言う音が響いたのは、その瞬間だ。


「!?」


何事、と目を瞠ったレオンの胸元に、ハートレスが飛び付いた。
温かくも冷たくもない黒い影だけで構成された物体が、レオンの胸にしがみ付いている。
虫が掴まっているような余り宜しくない感覚に、レオンは顔を顰めて腕を振るった。
払われたハートレスは呆気なく飛び逃げて行き、レオンは直ぐに追い駆けようとしたが、胸元にあるものが流動性を持って重石になったのを感じて姿勢を崩してしまう。

うりゃあ、と言う一声を上げて、ソラがキーブレードを振り下ろす。
ぱかぁん、と叩かれたハートレスの頭がスライムのように潰れた後、影はすっかり消えてしまった。
最後の一匹を倒したソラは、直ぐに踵を返して、立ち尽くしているレオンの下へ駆け寄る。


「レオン、大丈夫!?」
「……ああ。すまなかったな、ミスをした」
「良いよ、別に。……胸、どうかした?怪我した?」


胸元を片腕で抱えるように庇っているレオンを、ソラが心配そうに見つめる。
レオンは少年の瞳に見詰められ、少々苦い表情を浮かべると、


「怪我はない、だが、……ブラが壊れたみたいなんだ。悪いが、今日は此処までで良いか?」


そう言ってレオンは、胸元を隠していた腕を下ろす。
其処には、白いシャツを押し上げる豊乳が、彼女の仕草に合わせてたぷたぷと弾んでいた。



一番街にあるシドの店に戻った二人は、労いにエアリスが淹れた茶を貰った。
ソラは店の一角にあるソファに座って、グラスをちびちびと傾けている。
レオンはと言うと、二口程度で茶を飲み干してしまうと、店番をしていたエアリスとユフィを伴って、店舗の一階フロアにある道具屋に下りていた。

まだ幼い兄弟が三人で営んでいるこの道具屋は、傷薬から日用品まで、様々な商品が並べられる。
三番街に並んでいたブティック程ではないが、被服類も少ないながら仕入れられ、兄弟の商人としての逞しさが垣間見えるようだった。
トラヴァーズタウンは元々、二番街を宿場町、三番街を広場と商業施設が多く占めていたのだが、ハートレスが現れるようになった今では、店の多くが閉店休業状態である事もあって、余り利用する事が出来ない。
そんな中で日用雑貨類を幅広く揃えてくれるこの道具屋は、レオン達にとっても助かるものであった。

その道具屋の奥に、服の試着を求める客の為にと、手作りの小さなフィッティングルームがある。
天井から釘止めで吊るしたカーテンで仕切っただけの簡素なものだが、幼い店長兄弟が精一杯の努力で客の要望に応えようと手作りしたものだ。
等身大の姿見も傍に備えられているし、大人の手を借りない中で作ったことを思えば、上等なものだろう。
レオンは其処に入って上着とシャツを脱ぎ、ホックの壊れたブラジャーを外した。


「うーん……これを直すのは無理だな……」
「レオン、それ、壊れたんでしょう。前にしていたのも壊れちゃったって言ってたし、ひょっとして、サイズが合ってないんじゃないのかな」


カーテンの向こうから聞こえたエアリスの声に、ふむ、とレオンは外したブラジャーを眺める。


「……サイズか。確かに、少し窮屈な気はしていたが、洗濯の所為かと…」
「大きくなってるんじゃない?サイズ測ってみようか」
「えっ、レオンのおっぱい、また大きくなってんの?」


ばさっ、とカーテンの併せが捲られて、レオンは思わず「うわっ」と声を上げてしまう。
此処は幼馴染の面々と暮らす家ではなく、道具屋の中なのだ。
自分達の他にも客が来る事もあろうに、全く気にしない様子で試着室の仕切りを外されるなんて、事故でも起きたらどうするのかと、レオンは眦を吊り上げる。


「ユフィ、急に開けるな。人がいたらどうする気だ」
「ごめんごめん。それより、胸、また大きくなったって?」
「かも知れないという話だ」
「んん~……」


ユフィの視線がレオンの胸をじいっと見詰める。
女同士なので恥ずかしい事もないが、あまりじろじろと見つめられると、少々落ち着かない気分になってきて、レオンは体ごと明後日の方向へと胸を隠す。


「あっ。良いじゃん、見せてよ~」
「見てどうする気なんだ……」
「どうって事もないけど。あ、でもちょっと分けて欲しいのはある」
「……分けれるのなら分けたいけどな。重いし、肩が凝るし、邪魔になるし……」
「何それェ、厭味じゃん。あたしだってコレ欲しいのにー!」


呆れた様子のレオンの台詞に、ユフィは判り易く唇を尖らせると、がばっと勢いよくレオンの背中に飛び付いた。
そのままレオンの前側へと回した両手で、レオンの乳房を持ち上げる。
思いも寄らぬ年下の少女の行動に、レオンは目を白黒とさせた。


「おい、ユフィ!何をして、ちょ、あっ」
「ふあ~、柔らかい。良いなあ、このサイズ感」
「ん、こら、揉むな!」
「やっぱ結構重い。はー、こりゃ筋トレみたいなもんだね。大変そう」
「……判ったなら離してくれ」
「やだ。もうちょっと~」


レオンの下乳を支えるように掬うユフィの手が、むにむにと脂肪の膨らみを揉んでいる。
掴むように強い訳でもないので痛くないのはレオンにとって幸いだが、悪戯っ子はあまり好きにさせると調子に乗ってしまうのがパターンだ。
余計な事をしない内にと剥がしたいのだが、背中にぴったりとくっつかれていては、流石にレオンも難しい。
汗も掻いているから匂うだろうに、と思うと恥ずかしくなって来るのだが、ユフィはまるで気にする様子もなく、ほうほう、ふむふむ、と何かを確かめるような呟きを零しながら、丹念にレオンの胸を揉み続けた。


「ねー、どうやったらこんなに大きくなるの」
「…そう言われてもな。いつの間にか……」
「あー、いいなーいいなー!ねえ、分けてよぉ」


甘えるように言うユフィに、無茶を言うな、とレオンは呆れる。
中々離れないくっつき虫に、いつになったら満足してくれるかなと、最早諦念でされるがままになっていると、


「カーテン開けるよ、レオン」
「ああ」
「お邪魔します。ほら、ユフィ、ちょっと離れて。胸のサイズ、ちゃんと測らなくちゃ」


エアリスがカーテンを捲り、狭いフィッティングルームに入る。
下より一人ずつの試着が前提であるから、服の脱着に必要な最低限の面積しか確保されていないので、其処に三人も入れば窮屈だ。
しかしユフィはレオンから離れはしても、また此処から出る気にはならないらしい。
もうレオンもエアリスも気にする事はなく、バストサイズを測る準備を始める。

エアリスが巻き尺を伸ばして、レオンの胸のトップをアンダーを計測する。
それを終えると、エアリスは嫋やかな手でレオンの乳房を揉み、その感触を確かめながら言った。


「やっぱり、大きくなってるよ。成長期、かな?」
「もう25だぞ……」
「ソラが来たからとか」
「へえ~、母性に目覚めたみたいな?」
「馬鹿な事を言うなよ、ユフィ」
「冗談だよ。でも、やっぱ大きくなってんだねえ」
「そうだね。重さも前よりあるし、これじゃブラも合わなくなってる筈だよ」


エアリスの手がレオンの乳房を掬うように持ち上げる。
エアリス手に支えられた乳房に、ユフィの手が重ねられる。


「なんかちょっと張ってない?気の所為?」
「ん~……?」
「む、ん……?」


ユフィの指摘に、エアリスが真剣な面持ちを浮かべる。
エアリスは触れる肌の感触を確かめるように、両手でレオンの乳房を丹念に撫でたり、揉んでみたりと繰り返す。

むにゅ、もにゅ、とエアリスの指の動きに合わせ、形を変える柔らかな肉。
あまりにじっくりと揉まれて、レオンはむずむずとした感覚を覚えて来た。
乳の下にじんわりと汗がに滲むのを感じて、それそろ解放して欲しい、と切に思う。


「ん……、エアリス、まだか?」
「うーん……何処か悪いんだったら、お医者さんに行かなきゃだけど…」
「余りそう言う感覚はないな」
「じゃあ、平気かな。取り敢えず、一個上のサイズのブラ、探してくるね」
「ああ、頼む」
「いいなーいいなーー。あたしも成長期来ないかなー。分けてよレオン~」
「またそれか」


エアリスがフィッティングルームを出ると、残ったユフィがまたじゃれついて来た。
ユフィはレオンの胸の谷間に鼻頭を埋めながら、左右から挟むように胸に触れている。
自分の顔を挟み込む要領で胸を寄せ、滑らかな肌に頬を擦り合わせられて、レオンはくすぐったさに眉尻を下げる。

「開けるよー」と言う声がカーテンの向こうから聞こえ、併せが捲られる。
戻って来たエアリスの手には、これまでレオンが使っていたものと比べ、ワンサイズ上になったものが握られていた。
レオンがブラジャーを受け取ると、エアリスは「出て待ってようね」とユフィをレオンの胸から剥がしてフィッティングルームから連れ出す。

やっと落ち着いた、とレオンは一つ息を吐いて、ブラジャーを身に付ける。
サイズを一つ大きくしたお陰で、最近何かと感じていた、胸元の苦しさがない。


「どう?」
「ああ、良さそうだ。もう一つ持って来ておいて貰えるか、まとめて買うから」
「はーい」
「レオン、ちょっと見せてー。おっ、結構カワイイ」
「ユフィ、せめて俺が良いと言ってからそこを開けてくれ」


エアリスの返事と重ねるタイミングで声をかけながら、カーテンを捲るユフィ。
あはは、と笑って誤魔化すユフィに、レオンはやれれと溜息を一つ。

正しいサイズのブラジャーを身に付けたレオンを、ユフィはまた眺める。
綺麗にブラジャーに包まれ、支えられながら寄せられた胸は、真ん中に綺麗な谷間を作っていた。
その上にレオンがいつもの白いシャツを着込むと、胸に持ち上げられた布地が突っ張って横皺が浮かぶ。
首からかけたネックレスの銀色が、丁度その谷間の皺がある場所に乗っていた。

ブラジャーを持ってきたエアリスが、そのまま会計へと行こうとするレオンを引き留める。


「レオン、下着も買って置いた方が良いんじゃないかな」
「別にそっちは困ってないし、必要は……」
「揃えておいた方が可愛いよ。ユフィもそう思わない?」
「そりゃね~。困んなくても、やっぱりちょっとカッコ悪いよ。あたしだって一応合わせたの持ってるよ」
「……そう言うものか。まあ、こっちも消耗品だしな……」


どうせ遠かれ早かれ買うだろうと思うと、今の内にまとめて、と言う気にもなる。
その方がセットにして少しお得にもなる、と言うのもあって、レオンはエアリスに手を引かれて、もう一度下着売り場へと向かった。

────その頃、店舗二階では、未だに麦茶をちびちびと飲んでいるソラがいる。
来客が一服できるようにと備えられた椅子に座っている少年を、シドはカウンターの中から眺めていた。

シドの店とその階下にある三兄弟の道具屋は、階段一つで行き来が出来る。
日用雑貨の店と、細々とした生活用品の修理の両方を利用する客は多く、その往来の邪魔にならないようにと、階段元は封鎖しないように開けっ放しになっていた。
この為、上下のフロアで交わされる人々の会話は、意外と筒抜けになっていたりする。
それを知らないレオン達ではないのだが、人目を気にしなくてはならないような会話をする事もないし、特に気にせず話をしていた。
……初めてこの場に居合わせてしまった少年が、意識するしないに関わらず、耳を大きくしてしまう事など知りもせず。

ソラはようやく中身が半分以下まで減ったグラスを口から離して、煙草をく燻らせているシドを見る。


「……なあ、シド」
「なんだよ?」
「……レオン達、いつもあんななの?」
「まあな」


シドの返答に、ソラは「うあ~……」と鳴き声を上げて天井を仰ぐ。
シドは彼女達を育て、共に生活する過程ですっかり慣れてしまったが、まだまだ幼い少年にとって、階下で交わされた女性陣の会話は、存外と刺激が強いものだったらしい。

買い物を終えた三人が上階へと戻って来た時、ソラはソファにぐったりと突っ伏していた。
どうかしたのかと経緯を訪ねようとする女性三人に、シドは肩を竦めるに留めるのだった。





『何故かおっぱいを揉まれるレオンさん♀』のリクエストを頂きました。
あまりエッチな雰囲気ではなく、との事でしたので、健全に。健全?健全。

レオンさんのたわわなおっぱい揉みたい。
12歳のソラには、少々刺激が強かったようです。ブラが外れたってレオンが言った時から、つい意識してしまう位にはインパクトのある出来事だったんじゃないだろうか。
しかしレオン達にとっては、この頃のソラはまだまだ子供扱いな頃なので、その辺をあまり意識して注してはなかったんですなぁ。ガンバレソラ。

[ウォルスコ]素顔の貴方で

  • 2021/08/08 22:15
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


数学科準備室で、ウォーリアは明日の授業に使うプリントの作成をしていた。
教師と言う職業に就いてからかけるようになった伊達眼鏡に、打ち込まれる数字の羅列が反射して映り込んでいる。

夕暮れの色が強くなった空から降り注ぐ橙色の陽光は、随分と傾いた場所から注がれているようで、室内は少し暗い。
パソコンの画面が煌々としているので然して困る事はなかったが、ふと液晶画面から顔を挙げた時のコントラストの差に、目が疲労を訴える。
プリント作りはもう少しで終わりそうだが、このまま電気を点けないまま作業をし続けると言うのはどうか。
目の健康の為にも、電気位はつけたの方が良いか。
壁にあるスイッチ一つで電気は灯るのだから、その程度を横着するのもどうかと、ウォーリアはようやく思い至った。

ふう、と一つ息を吐いて、ウォーリアは眼鏡を外した。
視力に問題がある訳ではないので、一枚ガラスを挟んだ視界と言うのは未だに慣れないのだが、校内にいる限り、ウォーリアはそれを身に付けるようにしている。
それは今のウォーリアにとって、一つのけじめの為に用意した道具だった。

パソコンの横に置いていたケースから眼鏡拭きを取り出し、レンズを軽く拭いていると、コンコン、とノックの音が聞こえた。
眼鏡をかけ直している間に、「失礼します」と言う挨拶と共にドアが開く。
室内と同じように、オレンジ色を帯びた廊下を背景に、濃茶色の髪の少年────スコールが入って来る。


「今日期限だったアンケート、全員分回収して来ました」


スコール・レオンハートは、ウォーリアの担当するクラスのクラス委員をしている。
成績優秀で知られた優等生で、それを知っていた生徒達から、半ば祀り上げられる形で委員長へと推薦、そのまま決定した。
本人はそれを「推挙された」のではなく、「生贄にされた」と言って苦い表情を浮かべるが、根が真面目な彼は、委員長としての役割をきちんと果たしてくれる。

今日もスコールはその仕事を熟しており、両手に暮らす人数分のアンケートプリントを持っていた。
アンケートは、来年に本格化する将来への進路希望に関する調査だったのだが、まだ二年生と言うこともあってか、記入の遅い生徒はいるものであった。
まだ碌に決まってない、それを考えてもいない、中にはプリント自体なくした、なんて言う者も出て来る中で、スコールはなんとか期限内に全員分のプリント回収と言う任を果たしたようだ。
今日の今日まで記入していなかった、それ自体忘れていた者もいた中で、根気強く役割を担ってくれた少年に、ウォーリアは定型ながら心から労いを送る。


「ありがとう、スコール。ご苦労だった」
「……いえ。これ、何処に置けば良いですか」
「では、其処の棚の三番目に」


丁度スコールが立っている場所の右隣に、プリント等の紙類を収納している棚があった。
空いているスペースを指して言うと、スコールはプリント束の端を揃えて入れる。


「あと、世界史のガーランド先生から伝言です。来週月曜の課外授業に使うものが職員室に届いたので、回収を、と」
「ああ、判った」
「先生の机に置いてるそうです」
「了解した」


少年の言葉に応答を返しながら、ウォーリアはパソコンに向き直った。
電気を点けねばと思った所ではあったが、今席を立つ訳にはいかない。
密かなその自戒は、少年がこの部屋を出て行くまで続くものであった。

ドアの滑る音がして、静かに閉められる。
さて、と電気を点けるべくパソコンから顔を挙げたウォーリアだったが、閉じたドアの前に佇んでいる少年の影を見付けて、レンズの奥で微かに眉を潜めた。
カチャン、と言う金属の当たる音は、ドアの内鍵が閉められたものだ。
それが意味する所を悟って、ウォーリアが密に溜息を零す。

此方へと近付いて来る少年の気配を感じながら、ウォーリアはまたパソコンへと向き直っていた。
プリント作りを再開させれば、静かな教室の中に、キーボードを打つ音だけが木霊する。


「……先生」


呼ぶ声に、ウォーリアのキーボードを打つ手が止まった。
デスクの横に立ち尽くしている少年を見上げれば、じっと蒼の瞳が此方を見詰めて来る。
その瞳に滲む浮かぶ声に、ウォーリアは口を噤んだままを保っていたが、


「……ウォル」


二人だけの呼び名を口にしたスコールに、ウォーリアは目を伏せる。
それは、駄目だと言うことを少年に告げると同時に、自分を律する為に必要な時間でもあった。


「…学校にいる間は、“先生”と呼びなさい。そう言っただろう」
「……良いだろ、別に。どうせ誰もいないんだから」


窘めるウォーリアに対し、スコールは砕けた口調で言った。
基本的に教師に対しては、正した言葉を使うスコールでだが、“ウォーリア”に対しては別だ。
二人の関係が、密やかなながら”恋人”と言う関係であるが故に。

しかし、此処は数学科準備室で、二人きりであるとは言え、学校内である。
教師と生徒が特別な関係になっている事は、誰にも知られてはいけない。
それはスコールの立場と未来を守る為に、ウォーリアが彼を想って作った線引きだった。
スコールは賢い子供であるから、二人の関係が他者に知られればどうなるのか、判っていない訳ではないだろう。
しかし若さから来る無鉄砲、言い換えれば顧みないが故の強さか、スコールは度々これを越えようとしていた。


「誰もいなくても、だ。気を付けなさい」
「………」


教員としての距離を保って、注意と言う形で窘めるウォーリアに、スコールは判り易く唇を尖らせる。

平時は教職員を相手に、聞き分けの良い優等生然としているスコールだが、実は中々頑固で臍を曲げやすい性格であると知る者は少ない。
教員に対して反発的な態度を取っても、大した得にもならず、目を付けられて面倒が増えるから、大人しくしているだけだ。
だから気心の知れた人間の前だと、こんな表情もして見せる。
それは恋人としてスコールに信頼されている証であると、ウォーリアもそう思いはするのだが、かと言って甘い顔をしてはいけない。
この線引きは、万が一の不幸からスコールを守る為の、大切なけじめなのだから。

だが、ウォーリアはそのつもりでも、スコールはそれを良しとしていない。
徐に伸びたスコールの手が、ウォーリアの銀色の髪の端を滑る。
人差し指が甘えるようにその毛先に絡まって、目を逸らすウォーリアを咎めるようにくん、くん、と引っ張る感触があった。


「……」
「……ウォル」


甘えたがっている時の声だった。
何か嫌な事があったのか、それとも。
考えてみるウォーリアだったが、スコールはとても繊細だから、事件のような事がなくても、ふとした瞬間に不安に襲われる事があった。
そして一度巣食ってしまった感情は、まだ未熟な彼には自力で追い出す事が難しくて、縋るものを求めて恋人の温もりを欲しがる。

パソコンへと集中させようとしていた顔を挙げれば、じっと見下ろす蒼灰色とぶつかった。
ウォーリアの髪の毛で遊んでいた指が、服の端を摘まむ。
目線を合わせてしまうと、途端に消極的になってしまう少年のいじらしさが、ウォーリアには振り払えない。

ウォーリアは座っていた椅子を少しだけ引いた。
体とデスクの間に隙間が出来ると、スコールは其処に寄り掛かるようにして収まる。
膝上に乗った体重はウォーリアには軽いもので、スコールがまだまだ線の細い未熟な体をしている事がよく判った。
その背に腕を回して、落ちないようにと支えてやれば、近い位置にあるスコールの顔がウォーリアの顔を覗き込み、


「……これ、邪魔だな」


呟いたスコールの指が、ウォーリアの目元を庇うものに触れた。
する、と前髪を持ち上げるように外されて、ウォーリアの手が逃げるフレームを追う。


「返しなさい」
「嫌だ。あんたの顔がちゃんと見えない」
「スコール」
「…キスしてくれたら返す」


至近距離で大胆な事を言ってくれる、年下の恋人。
膝に乗せているだけでも、人に見られたら何を言われるかと言うのに、とウォーリアが眉根を寄せていると、スコールは少しバツの悪い表情を浮かべながら目を逸らし、


「……良いだろ、偶には。毎日あんたと顔を合わせてるのに、ずっと“生徒と先生”で我慢してる。そのご褒美くらい、寄越してくれたって」


────この線引きを言い出したのは、勿論、ウォーリアの方だ。
関係に付きまとうリスクはスコールも判っていたから、堂々と宣言できるような間柄ではない事も理解している。
だから学校にいる間は、と言うウォーリアのそれが、自分を想うが故の配慮である事も、ちゃんと受け止めているつもりだ。

けれど、スコールは本質的に寂しがり屋で不安性な所がある。
幸せを感じるほどにそれが崩壊した時の事が恐ろしくなり、その感情は自分で拭う事は難しい。
だから一層、恋人であるウォーリアの存在を確かめたくなるのだけれど、そんな時間を作るのもまた難しかった。
学校に行けば毎日顔を合わせる事が出来るのに、遣り取りはいつも淡泊なものだけで、特別な時間なんて幾らもない。
そうして募って行く不安や焦りが、時にこんな風に、無心にウォーリアを求める行動に現れるのだ。

じっと見詰め、求める蒼灰色の宝石の訴えに、ウォーリアは何度目かの溜息を洩らした。
それを見たスコールの眼に、また不安げな揺れが映るが、


「スコール」
「何────」


名を呼ばれて返事をしようとしたスコールの声が、中途半端に止まった。
一枚レンズから解放された、アイスブルーが真っ直ぐにスコールの眼を見詰めている。
どくん、と幼い熱を宿した心臓が跳ねて、スコールは息を詰まらせた。

ゆっくりと近付く、美術品のように整った顔に、スコールは瞬きすら忘れていた。
鼻先が掠め合ったのを感じて、あ、と小さな音が零れる。
食い入るように見つめる少年の唇は、無防備に薄く開いて、其処に触れる感触を待ち侘びていた。

───が、触れる感触があったのは、唇のほんの少し横。
ほんの一瞬、温かな感触が当たったかと思ったら、それはついと離れてしまった。


「此処までだ、スコール」
「……な……」


やはり引いた線引きは守るウォーリアの行動に、スコールの顔に一気に朱が浮かんだ。
期待していた自分が恥ずかしくて、やっぱり越えて来てはくれない恋人が腹立たしくて、……けれど触れた感触は暖かくて、彼の心の中は嵐のように騒がしい。
何を言わんとしているか、本人すらも判らない様子ではくはくと開閉する唇に、ウォーリアの指先が触れる。
その指先が名残を伝えるようにゆっくりと離れるから、スコールは結局、何も言う事が出来なくなる。

夕暮れの明りの所為だけではない、真っ赤になったスコールの顔を見詰め、ウォーリアはくすりと笑う。


「眼鏡を返して貰えないか。スコール」
「………」


嘆願するように言ったウォーリアを、スコールがじろりと睨む。
しかし、赤らんだ顔では凄みもなく、結局彼は、奪っていた眼鏡をウォーリアの手へと返してくれた。

ウォーリアが眼鏡をかけ直している間に、スコールは恋人の膝上から逃げてしまった。
離れた温もりに、こっそりと寂しさを覚えながら、しかし仕方がないとウォーリアは表情を隠す。
スコールは少しふらふらとした足取りで、廊下へと続くドアへと向かって行った。

そのまま出て行くかと思われたスコールの足は、ドアの前で一度止まる。


「……外で待ってる」
「遅くなるかも知れない」
「良い」


早く帰りなさい、とウォーリアが促す前に、スコールは言い切った。
背中越しに、一緒にいたい、と言う声が聞こえたのを、ウォーリアは聞いた。

ウォーリアがそれ以上に何かを言う前に、スコールは出て行った。
ぴしゃ、と仕舞ったドアを見詰めて、ウォーリアはひっそりと息を吐く。
それは溜息のようで、仕様がないと諦めにも受け入れにも似ていた。

ウォーリアは眼鏡を外し、パソコンの電源を切った。
プリントの作成はまだ途中だったが、やる事は自宅に戻ってからでも十分可能なのだ。
それよりも今は、本当にいつまでも待ち続けるつもりであろう少年を、早く迎えに行かなくてはいけない。
それは教員の責任として───ではなく、恋人を大切に想うが故の事であった。





『現パロのウォルスコ』のリクエストを頂きました。
設定はお任せして頂きましたので、教師×生徒でうまうましました。

伊達眼鏡かけたウォーリアが、それで意識の切り替えしてると良いなと思って。
でも案外その切り替えは緩々だったりして、なんだかんだスコールに甘いと良いなあ。でも一番の所には手を出さないから、スコールはやきもきしながらでも幸せだと良い。

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