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Category: FF

[クラレオ]パスカード:オリジナル

  • 2024/08/11 21:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



誕生日なんてものは特別意識している訳でもなかったが、とは言え、祝われるとなればやはり気持ちの良いことだ。
偶然に帰ってきたタイミングを「丁度良かった!」とユフィに捕まり、引き摺られるようにして魔法使いの家に連れて来られたと思ったら、思いもがけない歓待に見舞われた。
豪華な食事に、祝いの言葉に、長旅に有用だろうと色々なグッズの入った箱をプレゼントされる。
今日がその日だと気付いたのは、エアリスが「今日は何の日、かな?」と言って、カレンダーを見せてくれたから。
ついこの間まで、街には寒風が吹いていたような気がするのに、そう言えば今日は暑い、と今更に夏の盛りになっていた事に、クラウドはようやく気付いたのであった。

誕生日パーティなんて、今日と言う日にクラウドがホロウバスティオンに戻っていなければ、主役不在の状態になったのだろうが、恐らくそれでも誰も気にはしないのだ。
言い出しっぺはきっとユフィだろうし、彼女に幼馴染の誕生日を祝う気持ちがない訳ではないだろうが、毎日街にいる訳でもないクラウドである。
ちょっと食事を豪勢にして、パーティよろしく楽しい夕食を計画するのに、人の祝いの日とは存外と都合が良いものなのだ。
其処に当座の主役となる人間が捕まえられれば、丁度良い、位のものに違いない。

それでも、本人のいるいないに関わらず、誕生日プレゼントについてはきちんと用意されていたようだ。
シドから渡された箱の中には、ポーション類を始めとして、野宿の火起こしに使えるようなサバイバルキットや、保存期間の長い缶詰の食料が入っていた。
どうせ街に居つく時間など知れている、何処に行ってもそこそこ有効に使えるものを、と揃えてくれたに違いない。
箱の中には、クラウドに似せて作られたと思しき編み物のぬいぐるみが添えられていて、きっとこれを作ったのはエアリス───だと思うのだが、一応、全員分が針を通す事はしたらしい。
千人針よろしく、皆で作ったお守りだよ、と良い笑顔で言われたので、むず痒さを殺して受け取っておく事にした。
恐らくこのぬいぐるみは、荷物袋の底の方に沈むだろうが、そう言う扱いになることも、きっと彼らは判っているだろう。

夕飯が豪勢であることは有難い。
ホロウバスティオンは、まだまだ人の気配も少なく、新鮮な食材と言うものが限られる環境にある。
賢者が住んでいた城に残されていた資料や、機械の力も借りて、生活はなんとか成り立っているが、贅沢が出来るとは言えない。
そんな中で、肉をふんだんに使った料理群が並ぶタイミングと言うのは限られている。
クラウド自身は闇の力を使って他の世界を渡り歩き、食料の多くは現地調達しているが、場所によっては動物性たんぱく質の調達はおろか、草木一本生えない場所で過ごすことも少なくない。
美味い料理をたらふくに食べられる機会と言うのは、存外と限られているから、理由が何であれ、そう言うものにありつけるタイミングに帰って来られた事は、何よりの幸運であった。

そうして、誕生日の主役と言うこともあって、今日の胃袋は思う存分に充たすことが出来た。
少しばかり膨らんだような気がする腹を宥めながら、クラウドは「これも祝いだ」と言ってシドが持ってきた酒を、養父と一緒に明かしているが、


「そろそろ終いだな」


時計と酒瓶の中身を見て、シドがそう言った。
確かに、時刻は直に日付の境界線を越えるし、瓶の中身も底をついている。
最後にグラスに注いだ一杯を飲み切れば、宴はお開きだ。

そんなクラウドとシドを後目に、食卓の場も片付けが進んでいる。
皆で楽しく食べ明かした食器は、とうにすっかり下げられて、レオンとエアリスが洗い物をしていた。
ユフィはちゃっかり飲んだ酒に楽しくなって、洗い場にいる年上二人にきゃっきゃと絡んでいる。
あの状態で「これ片付けておいてね」と渡される食器は、ひとつも落とさず元あった場所に戻しているのだから、彼女のバランス感覚は本当に大したものだ。

クラウドがグラスの最後に残った液体をぐいっと煽って、残る後味と胎内に残る火照りを感じつつ、


「美味かった。良い酒だったな」
「ああ。またあり付けりゃいいんだがな」
「期待していよう。来年の今日にでも」
「どうだかねえ、まあ、美味けりゃ別に何でもな」
「まあな」


この街の物資が限られていることは、クラウドもよく知っている。
期待しよう、と言うのは、来年の今頃には、この街がもう少し人の気配で栄えていると良いな、と言う、故郷の復興に勤しむ幼馴染たちへの労いでもあった。
その為にも人手が必要なのは判っているから、偶に帰った時位は、またハートレス退治くらいは引き受けようとは思っている。

クラウドとシドが使っていたグラスをユフィが浚い、エアリスの下へと持って行く。
ありがと、とグラスを受け取ったエアリスは、隣にいるレオンを見て言った。


「じゃあ、後はやっておくよ。レオン、家に帰るでしょ?」
「そのつもりだ。悪いな、任せる」


郊外に一人で家を持っているレオンは、夜の街を歩いて其処まで帰らなくてはならない。
夜となると、街に戻ってきた人々の不安が未だに募り易いようで、心の揺らぎに誘われたハートレスが湧いて来るのだ。
レオンは夜のパトロールとして、それらを退治しながら家路を行くのである。

じゃあね、とレオンが皆に見送られる傍らには、クラウドの姿もあった。
魔法使いの家の奥には、幾つか寝床は用意されているが、クラウドは其処を使ったことがない。
クラウドがホロウバスティオンに戻ってきた時、寝所として使うのは、専らレオンの家であった。
その方が色々と気兼ねをする事もないので、今夜も常と変わらず、彼の家に邪魔をする。
レオンにその許可を直接取った訳ではないが、レオンもクラウドも、それが最早当たり前のこととして定着していた。

美味い飯と良い酒にありつけたクラウドは、ここ最近で一番に機嫌が良かった。


「良い日だった。偶には帰ってみるものだな」
「調子の良い奴だ。明日からは、今日の分も含めて働いて貰うぞ」


やれやれと言った様子で、レオンが言うので、


「判っている。また此処いらも、ハートレスが増えているようだしな」


クラウドはそう返して、周囲を軽く見まわした。

夜の闇の中、うごうごと蠢いている心無い気配がある。
この辺りは、城で発見したセキュリティシステムを利用して、街人の防護に使う事が出来ているが、湧いて来る影の数そのものが減る訳ではない。
根本の原因を叩く事が難しいのは仕方がないとして、せめて目の前のその数だけでも減らさねば、いつか街ごと覆い尽くされかねないのだ。
クラウドは故郷に帰る度、幼馴染の家を寝床にさせて貰う代わりに、それを対価の仕事にしていた。
自分が出来ることとしては易い仕事であると、クラウドは捉えていた。

だから仕事に関しては全く不満はないのだが、それはそれとして、とクラウドは隣を歩く男を見る。


「所で、あんたから俺に何かくれるものはないのか?」
「……清々しい程図々しい奴だな。飯を鱈腹食っただろう。半分は俺からのプレゼントだ」


もう半分は、エアリスが準備しているが、とレオンは呟く。
クラウドもそれは判っている、とまた頷いて、


「そのエアリスからは、飯の他に、皿を貰った」
「皿?」
「木製で軽くて丈夫。野宿にも使えるだろう、ってな」
「……それは良かったな」
「ああ。で、ユフィからは革の小袋だな、まあ小物入れに使えるだろう。シドからは酒」
「良かったじゃないか、色々と貰えて。十分だろう」


そう言ってレオンは、自宅にしているアパートの二階へ向かうべく、階段を上って行く。
一階に住んでいる人間は誰もいないのに、どうして二階を使っているのかと言えば、眺めが良いから、だそうだ。
実際の所は、地上をうろうろしているハートレスにいきなり飛び込まれないように、と言う点が大きいのだろうが、復興を目指す街を少し高い視点で眺めないというのも、嘘ではないのだろう。

クラウドはレオンに続いて階段を上がりながら、


「皆から貰った物は、それはそれだ」
「……全く図々しいな、お前は」


はあ、とレオンは溜息を吐いて、自宅の鍵を開ける。
と、鍵穴から抜いた銀色のそれを、そのままぽいっとクラウドへと投げた。

目の前に飛んできたものをクラウドが反射的にキャッチする。
握ったものを開いて見れば、飾り気も何もない、凡庸な銀色のディスクシリンダーの鍵。

クラウドがそれを見ている間に、レオンはさっさと部屋に入って行った。
ドアがばたんと閉まる音を立てたので、クラウドは内側から鍵が閉められる前に、いそいそと後に続く。
灯りをつけたばかりのレオンの部屋の中は、相変わらず物が少ないながらも、雑多にならない程度の生活感が滲んでいた。

既に時間が遅い事もあってか、レオンは風呂場で湯の用意をしている。
湯が貯められる音を聞きながら、クラウドはレオンに声をかけた。


「おい。これは貰って良いのか、本当に」
「お前がしつこいからな。それがあればちゃんと玄関から入れるんだから、窓から不法侵入するのは辞めろよ」


平時、ふらりと帰ってくる気儘な生活をしているクラウドである。
いつ帰ってくるから判らないのだから、レオンとてそんなクラウドの為に出入口を不用心にする筈もなく、自分がいない時にはしっかりと戸締りをかけている。
家にいる時には窓を開けている事もあるが、其処から度々クラウドが無断で進入して来る事には辟易していた。
レオンが家にいなければ、帰ってくるのを近くの屋根上で待機して、帰ってきたら窓をノックするのだ。
闇の力で生やした羽根のお陰で出来る所業とは言え、礼儀作法のない来訪客は、レオンとて当然歓迎はしない。
まだ玄関からやってきたなら可愛げがあるのに、とはよくよく思っていることだった。

リビングに戻ってきたレオンは、冷蔵庫を開けて、明日の朝食用に使えるものを確認している。
普段はパンひとつでもあれば十分だが、クラウドがいるなら、もう少し何かあった方が良かった。
ハムやチーズが残っていたので、これでとうにかするとしよう。

クラウドはと言うと、勝手知ったる空間なので、ソファに座ってレオンが寄越してきた鍵をしげしげと眺めていた。


「これがあんたからの誕生日プレゼント、と」
「十分だろう。スペアは一組しかないから、なくしても次はないぞ」


そう言ってレオンは、ベッド横のチェストの引き出しを開ける。
取り出したのは、今クラウドの手の中にある鍵と、そっくり全く同じもの。
レオンはスペアとして作られた方をこれから持つから、クラウドが渡されたものを紛失しても、取り換えや新調は利かない、と言う事だ。

実質、一点ものの代物。
そんなものをプレゼントに寄越されて、クラウドはにんまりと笑う。


「成程。これを持っている限り、此処には自由に入って良いという訳だな?」
「……節度を保てよ。図に乗ると放り出すからな」
「ああ。だが、あんたから“家に上がって良い”って言う許可が下りたのは、中々気分が良いな」


クラウドの言葉に、レオンの傷のある眉間に深い谷が浮かぶ。
許可した覚えはない、と言わんばかりの目が冷たく此方を見ているが、クラウドは気にしなかった。


「関係を持っている男に、自分の部屋の鍵を寄越すなんて、意味深だろう」
「勝手に深みを作るな。あまり調子に乗ると、返して貰うぞ」
「それは断る。もう貰った。雨の日に外で待ち惚けしなくて良い」


有難く受け取る、と言ってクラウドは、ユフィが用意した革の小袋に鍵を入れる。
小袋を何処に身に着けるのが一番良いのかは、明日に身嗜みを整える時に改めて考えれば良いだろう。

判り易く機嫌を良くした顔で、鍵の入った小袋を眺めるクラウドに、レオンは溜息をひとつ。


「……早まったな」


ねだるのがしつこいからと、手っ取り早く済ませたつもりだったが、反って面倒が増えた気がする。
そう思ったレオンであったが、先のやり取りの通り、クラウドはもう鍵を手放しはするまい。
渡してしまったものは仕方がないと、レオンも気を取り直して、一日の疲労を流す為に風呂へと向かったのであった。





クラウド誕生日と言う事で。
雑に渡したプレゼント、思いの外クラウドが気に入って複雑な心地のレオンでした。

鍵を持っているけど、手っ取り早いからと言う理由で、窓から入って来るのも辞めない気がする。
何回かに一回はちゃんと玄関から入るようにはなると思います。多分。

[クラスコ]ひとつひとつをその手で全て

  • 2024/08/11 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



紅い顔をしている恋人を前に、クラウドは高揚する自分を隠せなかった。
普段、この手の事に疎いこともあり、主導は専らクラウドが与っているものだったが、今回に限ってはそれを敢えてスコールに渡した。
手綱を渡された方は、酷く困惑している様子があるが、とは言え、何も知らない程、初心でも真っ新ではない───そうしたのはクラウドだから、何をどうすれば良いのかも、クラウドが教えた通りに彼は覚えている筈だ。

ごくりと唾を飲む音が聞こえた。
緊張した面持ちのまま、スコールは自身の手をジャケットにかけて、ゆっくりとそれを脱ぐ。
ひと思いに脱ぎ捨てた方が、恐らくは彼の心理的負担としては軽いのだろうが、それでは楽しい時間があっという間に終わってしまうので面白くない。
クラウドは出来るだけ、この一時の味わいを引き延ばしたいと考えていた。
スコールがそんな恋人の思考を読み取っているかは判らないが、ゆっくりやってくれ、と言う指示はちゃんと効いているらしい。

傭兵育成の環境下に幼い頃からいたと言うから、指示だとか命令だとかに従うことについて、彼自身の抵抗感は薄いのだろう。
寧ろ、言われたのだから仕方がない、と言う思考も働いているかも知れない。
そう思うと、同じ命令を他人がやったら、彼はまたそれにも従うのだろうかと思うと、少しばかり其処には待ったをかけたくなる。
が、素直に従っているように見えて、内心は色々と愚痴が渦巻いている事も想像は出来るので、この手の命令が仮に他の人間からあった時には、ちゃんと抵抗してくれるだろう……と思いたい。

クラウドがそんなことを考えている間に、スコールはシャツを脱いでいた。
白いシャツを脱ぐと、鍛えられてはいるがまだまだ細身のシルエットを作る上肢が露わになる。
まだクラウドが触れてもいないのに、その肌がほんのりと色付いているように見えるのは、きっと彼自身の胸中にある、誤魔化しようのない羞恥心が齎すものだ。
時折、蒼灰色の瞳が、さっさと手を出してくれと言わんばかりにクラウドを見つめる。
それはクラウドにとって、スコールからの無自覚の誘惑であったが、今日の所はそれに応えることはぐっと堪えた。
今日と言う日の特別を、たっぷりと堪能する為に。


「………」
「……」


見つめ続けていても、クラウドが動いてくれない事を悟ると、スコールは溜息を吐いた。
しょうがない、仕方ない、と自分に言い聞かせるようにして、今度は腰のベルトに手を遣る。

指先が少し緊張した動きをしながら、バックルを外し、ベルトの合せを解いた。
革ベルトの締め付けがなくなると、元々タイトな造りである筈のズボンのウエストが緩み、隙間が出来る。
其処に両手の親指を左右に入れて、スコールはぎゅっと唇を噛むように噤んでから、そろりとズボンを下ろし始めた。
シンプルな黒のボクサーパンツが顔を出し、よくよく見ると、その中心部が少し膨らみつつある。
スコール自身もその自覚があるのか、顔を赤くして、己のその有様を目にしないように両目を頑なに噤んでいる。

ズボンを脱いだら、次は靴下だ。
踝までしかないそれを、スコールは指に引っ掛けて脱ぎ、ぽいと捨てる。
両の足が裸足になって、最後に残ったボクサーパンツにも手をかけた。
其処からしばし、硬直して動かなくなったスコールに、クラウドは言った。


「スコール。ゆっくり、な」
「………」


念押ししたクラウドに、スコールの目がじろりと睨む。
しかし、笑みを浮かべて此処から先を楽しむつもり満々のクラウドに効く訳もなく、何より、言い出しっぺはスコールの方だった。
今頃は頭の中に、クラウドへの恨みと、軽率なことを言った自分への小言が繰り返されているのだろうが、一応、それを口にしないつもりではあるらしい。
精々、うぅ、と唸る声が零れるくらいだった。

はあ、とスコールは何度目かの息を吐いて、心を決めた。
クラウドの指示の通り、ゆっくりと、殊更にゆっくりと、パンツを下ろしていく。
膨らみかけていた中心部がフロント部分を引っかけるのが判るのだろう、スコールはふるふると腰を震わせていた。
太腿下までパンツがずらされると、遂にシンボルが露わになり、それは半分ほど頭を起こしていた。
差し出すように晒された恋人の下半身事情に、クラウドがにんまりと笑みを浮かべると、スコールは益々顔を赤くする。
きっと縮こまって全部を隠してしまいたいのだろうが、止めた所で解放される訳でもない事は分かっているのか、スコールは最後に左足を抜くまで、きちんとストリップショーをやり遂げた。


「っは……これで、良いか……?」
「ああ。良い光景だった」
「……変態め……」


忌々し気に言うスコールに、クラウドは満足げな表情を隠さない。

一人ストリップショーをなんとか終えたスコールだったが、今日の夜はまだ始まっていなかった。


「スコール。次はこっちだ」
「……判ってる」


促すクラウドに、スコールは不承不承の顔をして近付いた。

いつも通りの格好をしているクラウドの体に、スコールが触れる。
平時から身軽な服装をしているスコールは、鎧を始めとした防御装備と言うものにあまり馴染みがないらしい。
ぺたぺたとクラウドの服を触りまわしているスコールは、何処からどうすれば、と眉根を寄せて悩んでいた。
そんなスコールに、クラウドは先ずはこれからだろうと、ガントレットを装備した左手を差し出した。


「この辺りのネジを緩めるだけで良いぞ」


クラウドが指差した部分に嵌められたネジ。
防御の為に身に着けるものだから、体格に合わせた調整が出来るのは当然で、クラウドはいつもそれをしっかりと締めている。
だが、此処さえ緩めてしまえば着脱は簡単なのだと言うと、スコールは「……面倒くさい装備だな」と呟きながら、ネジを回した。

左手のガントレットを外した後は、右手だ。
此方は武器を扱う手だから、手首周りがもっと自由に動かせるように、グローブを嵌めているだけ。
サイズの微調整に使う手首のベルトを緩めれば、簡単に外すことが出来た。


「……次、は……」
「肩の留め具は此処」
「……もっと造りの判り易い格好しろよ、あんた」
「知ってればそう難しいものでもないぞ。まあ、他人の手で脱ぎ着させるのを想定した造りじゃないのは確かだが」


ぶつぶつと文句を言いながら、スコールはクラウドの装備を外していく。
肩当と、それを固定する為のベルトを外すと、クラウドの衣装もシンプルなものが残った。
スリーブ生地の服にスコールの手がかかり、持ち上げられるのに合わせて、クラウドは腕を頭上へ。
頭を潜って服が脱がされると、そのままインナーシャツも脱がされた。

顔回りを布が擦った違和感に頭を振りつつ、ふう、とクラウドが息を吐いている間、スコールはじっとその様子を見詰めている。
正確には、裸になって露わにされた、クラウドの筋骨の浮き上がった上肢を。


「………」


徐に伸ばされたスコールの手が、ひた、とクラウドの胸に触れる。
ぺた、ぺた、と体の具合を確かめるように、胸、腹、脇腹と、触れては離れる白い手に、クラウドは擽ったいものを感じていた。

クラウドの体をしげしげと眺めるスコールの内心は、どうしてこんなに筋肉がついているんだ、と言う事。
身長は自分と大差ないし、どうやら元の世界の文明レベルも近しいと思えるのに、身体の造りはクラウドの方が判り易く逞しい。
仕様武器が身の丈程もあるバスターソードであることから、それを振り回すだけで相当な筋力が鍛えられる事は想像に易いが、体全体で言っても、クラウドはスコールよりも一回り程の厚み幅がある。
スコールの場合、ジャンクションと言う方法があるので、純粋な体格だけで足りない部分を補う技術があるのは確かだが、それにしても身一つで戦うからとこうまで体型に差が出るものなのか。

羨ましさと、妬ましさも混じった目で、スコールはぺたぺたとクラウドの体を触り続けていた。
自分がすっかり裸であることも忘れた様子で、恋人の体に見入るスコールの様子は、クラウドにしてみると子供らしくて可愛い所もあったが、


「スコール」
「……!」


名前を呼ばれて、はっとスコールは我に返った。


「悪い。え、と……次は……」
「下だな」
「………」


詫びながら作業に戻ろうとしたスコールだったが、残る箇所を見て動きを止める。
そろりと視線が下へと下りて、まだ崩されていないボトムに行き付いた。

忘れていた羞恥心が戻って来たか、スコールは赤い顔になって、ゆっくりとクラウドの下肢へと手を伸ばす。
腰のベルトを外して引き抜き、僅かに緩んだズボンのフロント部分のボタンを外す。
ファスナーを下へと下ろしていく指先が、緊張しているように見えるのは、クラウドの気の所為ではなかった。

前が緩むと、グレーのトランクスが覗き、中心部が判り易く興奮を表している。
それを見たスコールが、益々顔を赤くして、じろりとクラウドを睨んだ。


「何興奮してるんだ、あんた」
「するなって言う方が無理だろう。お前は裸だし」
「あんたが脱がせたんだろ」
「自分で脱いだだろ?」
「あんたが自分で脱げって言ったからだろ」


好きで裸になった訳じゃない、とスコールは怒った顔で言う。
目の前でストリップショーを開く羽目になったのも、今も裸で恋人に献身するような事をしているのも、決して自分の本位ではないのだ、と。

しかし、そんな顔をして見せても、本気で怒ってはこないのだから、クラウドはついつい調子に乗りたくなる。

ズボンを脱がせにかかったスコールへ、クラウドの手が伸びる。
首の後ろにするりと指を滑らせると、すっかり油断していたのだろう、「ひぅっ!」と言う声が上がった。


「あんた、何してるっ」
「触ってみた」
「余計なことするな!」


怒って噛みついてきそうなスコールに、クラウドはくつりと笑って、その体をぐっと引っ張り寄せた。
無防備にしていたスコールの身体は、簡単に力に従って、クラウドの下へと引き寄せられる。
密着した身体の背中に両腕を回し、閉じ込めながら手指を滑らせれば、


「っクラウド!」
「良いだろう、今日は俺の好きにして良いと言ったのはお前だ」
「言……ったけど!服だってまだ」
「ああ、そうだな。だからほら、このまま脱がしてくれ」


スコールの細身の腰骨を摩りながら、クラウドはスコールに指示を出す。
抱き締められた状態で、碌な身動きが出来ないスコールは、「邪魔するな」と怒ったが、クラウドはくつくつと笑うばかり。
律儀に言われた事は果たそうとする恋人を、クラウドは敢えて妨害しながら、赤らんだスコールの肌の感触を楽しんでいる。


「変な所を触るな」
「可愛がってるだけだ。気にしなくて良い」
「気になるんだ!だから、やらしい触り方をするなって……!」


小ぶりな臀部を撫で下り、足の付け根の皺を辿る指先に、スコールは必死に抗議する。
そうも懸命に振り払おうとするのは、触れられている場所から、ぞくぞくとした官能の種が芽吹いて行く所為だ。
彼の中心部は、此処に至るまでに既に半分は起き上がっている。
これ以上、意図的な触れられ方をしたら、決定的な熱を貰っている訳でもないのに、内側にため込んだ熱が溢れ出してしまいそうだった。
幼い矜持がそれだけはと抵抗するが、そんな拙い抵抗の様子こそが、目の前の不埒な男を煽っているとは知らない。

クラウドの指が、双丘の谷間に近付いて、スコールの身体がビクッと強張る。
やだ、と小さな声がクラウドの耳元で零れたが、それが恐怖や嫌悪を伴っていない事は、何度も肌を重ねた経験から判っていた。
クラウドは直ぐ其処にあるスコールの耳に、舌先を這わせながら囁く。


「スコール。ほら、ちゃんと脱がせてくれ」
「っあ……!」
「俺の好きにしてくれるんだろう」


クラウドの言葉に、スコールが唇を噛んで小さく呻く。
渡せるものが思いつかないからと言って、軽率なことをするんじゃななかった。
彼の呻きの声の中には、きっとそんな言葉が渦巻いているに違いない。

はあ、とクラウドの耳元で熱の籠った吐息が零れ、スコールの震える指がもう一度下へと下りて行く。
半端に脱がせていたクラウドのズボンを、一所懸命に引き下ろそうとする気配があって、クラウドも手助けに腰を浮かせて足も曲げる。
後はトランクスが残っているが、その中心の膨らみはもう明らかで、クラウドに寄り掛かるスコールの手は、最後の一枚を脱がすよりも先に、その中へと侵入していたのだった。




クラウド誕生日おめでとう、と言う事で。

誕生日なんだから何かした方が、でも何をすれば、と判らなくて本人に聞いた末、「今日は全部お前がやってくれ」とか言われたスコールです。
普段はイチから後始末までクラウドがするのですが、誕生日だし、スコールからもして欲しい事を聞かれたし、じゃあスコールにして貰って見よう、となった訳です。
主導権を渡されたのが初めてのスコールなので、どうして良いか判らないのでクラウドの指示に従う形をしてたんですが、えっちい触られ方をしてスイッチが入ってきたんだと思います。

[バツスコ←サイ]さかしまの糸

  • 2024/08/08 22:25
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

オメガーバースパロ




運命なんて陳腐な言葉を信じていた訳ではないけれど、そうだったら良いな、と思っていた自分がいたのも、確かだった。

元々、スコールはβだった。
それが12歳の頃、突然の性の転換が起こって、Ω性だと診断された。
特に得意なものがある訳でもなく、凡夫だと、自分への自信のなさからそれ以下であるとすら思っていたスコールにとって、この転換は大きなショックを与える。
ただでさえ他人と上手く意見交換も出来ず、縮こまって時間が過ぎるのを待つしかなかったと言うのに───いや、それで待っていれば事もなく世は回ってくれたのだから、それでも良かったのだ。
自分自身の不出来さに、膝を抱えて俯いて、それでも誰かの邪魔をすることなく過ごしていれば、何事もなかった。
それなのに、Ωと言う性まで持ってしまって、他人にしてみれば、余計に手がかかる存在になってしまった。

引き取られたばかりだった父親に伝えるにも随分と時間がかかり、結局彼に知られたのは、“発情期”───ヒートによって昏倒した時のこと。
以降は父親の伝手もあり、ヒートを抑制する薬は欠かさず常備されるようになったが、それもあまり効かない傾向がある。
薬で辛うじて正常な意識を保ちながら、ヒートの期間が終わるまでは、とにかく待って過ごすしかなかった。
その間は学校に行くことは勿論、誰かと会う事も満足に出来ない。
面倒な奴を引き取ったって思ってる、と言う父親に対するスコールの思いは、当人曰くは杞憂で済んだようだけれど、本当はまだ、心の何処かでそう思っているんじゃないかと考えている。
それは、マイナスなことを自分から考えることで、捨てられた時の心の準備をしているからだ。
せめて少しでも早く、そんな不安から逃れられるように、スコールは一秒でも早く自立できる日を目指しているけれど、やはりΩ性故の特性は、そんな少年の思いの足を引っ張っていた。

そんなスコールにとって、何があっても一緒にいるよ、と言ってくれたバッツの存在は、数少ない心の救いだった。
バッツは、スコールが父ラグナに引き取られ、その家に来てから逢った青年だ。
三つ年上の彼は、気難しい年頃だったスコールに何くれと構い、スコールがΩ性へと転換したと最初に気付いた。
それはバッツがα性であったからで、Ω性に見られる、他者を引き付けるフェロモンの発露を肌で感じ取ったからだ。
当時、既にスコールの性格を大まかに把握していたバッツは、言葉を慎重に選びながら、スコールを知り合いで信頼できると言う医者の下へ連れて行った。
だから、スコールがΩ性となった時から、彼はスコールの面倒を見ているのだ。
スコールがΩになった事について、混乱で不安定になっている間も、彼は言葉の通り、ずっと傍にいてくれた。
それが当時のスコールにとって、変え難い経験であった事は、間違いない。

そう言う経緯があるから、スコールにとってバッツが特別信頼できる人間となるのも、自然なことだ。
バッツ以外に何もかもを曝け出し、それを受け止め包み込んでくれる人はいない。
バッツの方も、何くれとスコールを優先し、不安に泣けば抱き締めてくれたし、落ち着くまでずっと傍にいてくれた。
ラグナが家にいない日、ヒートで倒れたスコールの僅かなメッセージを聞いて、駆け付けてくれた。
そうして二人が、お互いの熱に浮かされるようにして交わったのは、二人にとっては当たり前の結果だったと言って良い。

それ以来、逢瀬を重ねては、隠れるように肌を合わせた。
スコールはそれが一番安心したし、バッツはスコールが安心する為に世話を焼くのを惜しまない。
Ωが一人のαの唯一となる為の、“番”になることも考えた。
だが、スコールは今年でまだ十七歳で、父親の庇護下で暮らしているし、“番”は一度その関係を作ったら、離れることが出来ない。
αがΩを捨てると言う出来事は稀に聞く話ではあったが、それはΩに多大なストレスを齎し、収まった筈のヒートも再発するが、二度と“番”を作ることも出来なくなる。
Ωにとって、“番”となったαは唯一無二の存在となり、その存在なくして生きていくことは出来ないのだ。
“番”になることは、Ωの今後の人生の選択を決めるも同然。
だからバッツは、“番”になりたがるスコールを敢えて宥めて、「成人まで待とう」と言ったのだ。
戻れない選択をするのだから、それまでに選べる筈の未来を早くに切り捨ててしまわないで、色んな未来の形を考える為に────と。

バッツに宥められてからも、スコールは彼と“番”になる日を今か今かと待っている。
彼との交わりをする度、項を差し出して見せると、バッツは窘めながら其処にキスをしてくれた。
ぞくぞくと感じる高揚と安堵に、やっぱり此処を噛んでくれるのは彼なのだと思った。
バッツが自分の“運命の番”なのだと、スコールは肌身で感じていたのだ。

だから、バッツの言う通り、二十歳になる日を待とうと思った。
そうすれば、その日になれば、バッツは噛んでくれるから、彼の為だけのΩになれるのだから。

─────そう、信じていたのに。


「おい。お前、スコールか?」


眩い程の金色、ペリドット色の瞳、幼い頃に自分と揃いでつけてしまった逆向きの顔の傷。
五年ぶりに逢ったその顔を見た瞬間、何かの底が抜けるような感覚がした。




後ろを追う足音から、逃げるように歩く。
走っても良かったが、それだと露骨すぎて、きっと火に油を注ぐ。
そも、こうやって逃げている事に気付かれている時点で、全てが油にしかならないのだろうけれど、燃え上がる事は避けたいと思っていた。

待て、と言う声が近付いて来る。
やっぱり走ろうか、でもこの距離まできて走った所で、逃げ切れるとも思えなかった。
彼の事は子供の頃からよく知っている、一緒に走るとスコールはいつも置いて行かれていた。
あの頃よりもスコールは運動が出来るようになったけれど、染み付いた感覚はやはり拭う事は出来なくて、いつだって三つも四つも先を行っていた幼馴染には、今でも勝てる気がしなかった。

そうやって頭の中で考えている内に、追い付かれていたらしい。
ぐいっ、と腕を後ろに引っ張られて、彼────サイファーがすぐ後ろに着ていた事にようやく気付く。


「待てって言ってんだろうが、バカスコール!」
「……バカじゃない」


苛立ち混じりのサイファーに、スコールも眉根を寄せて睨み返した。
当然ながらサイファーがそれに臆する訳もなく、寧ろより苛立った表情で、ずいと顔を近付けてくる。


「毎度毎度、無視してんじゃねえ。少しは話を聞きやがれ」
「話なんて、する事なんかないだろう。離せ」


スコールは、腕を掴むサイファーの手を振り払おうと試みた。
しかし、手首の骨が軋むほどに痛い力で握り締められ、スコールが何度腕を振ってもびくともしない。
それが幼年の頃から培われて根を張った、スコールの劣等感を刺激する。

逃がすまいと掴む腕をそのままに、サイファーはスコールを向き直らせる。
自分とちゃんと相対しろと言うサイファーに、スコールは苦々しい顔を浮かべていた。


「スコール。判ってねえとは言わせねえぞ。だから俺から逃げてるんだろ」
「……逃げてない」
「だったら避ける必要もないだろ?」
「あんたが煩いから嫌なんだ」
「お前が俺の話を聞かないからだろうが」


荒げてこそいないものの、サイファーの声には明らかに怒気が混じっている。
子供の頃なら、スコールはそれに当てられるだけで、縮こまって泣き出していただろう。
その頃よりは成長してるんだ、と拙い反論をする自分に言い聞かせながら、スコールは早くこの場を離れたくて仕方がなかった。
だが、相変わらず腕を掴んだままのサイファーの手があって、どうやってもこの場に縫い留められてしまう。


(離れないと。離れないといけないのに)


学校でサイファーの姿を見る度に、スコールはそう思っている。
学年が違うから、毎日必ず顔を合わせる訳ではないけれど、それでも彼が近くを通れば、本能的に体がその気配を感じ取る。
気を抜くと目がその存在を探しそうになるのを、スコールはいつも歯を噛んで堪えていた。
……“堪えなければならない”ことが、またスコールを自己嫌悪に貶める。

サイファーもそれを判っているのだ。
元々、サイファーは不思議とスコールのことには本人以上に敏感で、スコールの身に異変があると、誰よりも先に気付いていた。
思えばあれは、幼い時代に既に無意識にあった、本能が齎していた行動だったのかも知れない。
けれどそう考えてしまうと、“運命”はあの頃から既に根付いていたことになって、それはつまり────と嫌な結論に行き付いてしまう。
それが嫌だから、スコールは再会してから意図的にこの幼馴染を避けているのだけれど、


「ラグナさんから聞いたぞ。Ωになったって」
「……勘違いだ。俺はβだ」
「だったらお前のこの匂いはなんだよ」
「……香水」
「お前にそんなもんつける甲斐性があるか。ガキの頃、消臭剤にだって鼻曲げてた奴が」


どうでも良いことばかり覚えているな、とスコールは独り言ちた。
けれど、子供の頃、良い匂いだから嗅いでごらん、と差し出されたフローラルな匂いを放つ消臭剤に、一人鼻を摘まんでいたのは事実だ。
今でも匂いの多くには不快感が先立つものだから、サイファーの言う通り、スコールが香水なんてものをつける筈がない。

ずい、と近付けられる顔は、幼い頃と同じで、勝ち気で自信に満ち溢れている。
幼い頃、その光に魅せられるようにして、密かな憧れを抱いていたことを、スコールは思い出していた。
最早幼い日の郷愁でしかなかった筈のその感覚に、今になってまた襲われるなんて。
近付いて来る碧眼に、心臓が馬鹿になったように早鐘を打っている事を、認めたくなかった。


「スコール」
「……!」


向き合え、と名前を呼ぶ声に、鼓膜の奥でぞくりとしたものが奔る。
それが嫌悪感なら良かったのに、言いようのない高揚があるのが判ってしまった。


(やだ。いやだ。いやじゃない。いやじゃないのがいやだ)


直ぐ其処にある碧眼から、俯いて逃げる。
手首を掴む手が益々苛立ちを表すように力を増したけれど、スコールは顔を挙げなかった。
挙げられなかった、と言うのが正しい。

そんなスコールに、サイファーは露骨な舌打ちをして、


「そんなに俺が嫌いかよ」


サイファーの言葉に、今度はぞくりと背中が冷たくなる。

何もかもが自分の想いとは裏腹の反応が起きて、更にはスコールの身体から力が抜ける。
ずるりと座り込んでいくスコールを、サイファーは睨むように見下ろしていた。
唯一、掴まれたままのスコールの腕が、微かに震えながら精一杯に緩い拳を握り、


「……あんたじゃない」


吐き出すように零した言葉は、確かにサイファーの耳にも届いていた。
爛々としていた碧眼が、じわりと重い感情を浮かび上がらせる。


「……なんだと」
「……あんたじゃない……あんたじゃない!」
「お前、」
「あんたじゃないんだ……!」


絞り出すスコールに、サイファーも並々ならぬものを感じたのだろう。
スコールの腕を掴んでいた手から微かに力が抜け、俯くスコールの旋毛を見つめる目が細められる。

スコールは顔を上げないままで、言った。


「好きな奴が、いる」
「……!」
「俺がΩになった時から、一緒にいる。俺を大事にしてくれて、これからもずっと一緒にいるって約束してくれた。番になろうって、俺がちゃんと大人になったら、その時に、ちゃんと」


そう約束したのだ。
あれは一時のものではないし、彼に抱かれていると安心できる。
この腕の中が自分の“巣”だと、スコールはそう信じていた。

だが、そう思えば思う程、その言葉を吐き出せば吐き出す程、どうしようもなく息が出来なくなる。
頭の中の奥隅、深層意識とでも言うような場所から、もう一つの声がする────『判っている癖に』と。

サイファーがスコールのことを良く知っているように、スコールも彼をよく知っている。
父に引き取られて孤児院を離れ、数年間を別々に過ごしていたとは言え、昔は何かと同じ時間を共有していたのだ。
良い所も悪い所も知っていて、幼い日、彼に頻繁に泣かされたのは事実だが、反面、サイファーに慰められたことも多かった。
不器用な子供は、存外と根が真っ直ぐで世話焼きで、いつも一人でいるスコールを放っておけず、また他の子供がスコールにちょっかいを出すと、「俺のスコールに触るな」とばかりに割り込んできた。

幼い頃のサイファーが、どういうつもりでスコールに執着していたのか、正確な所は判らない。
だが、昔からロマンチストな気質だった彼が、αとΩの間にある“運命の番”と言うものに憧れていたことは知っている。
幾千幾億と存在する人間の中で、唯一無二の存在に出会えると言うことは、それこそ得難い幸福だと思っていることも。
若しもその相手に逢えたなら、全力で守ってやるんだと、幼心に誓いを立てていたことも、目の前で見ていたから知っている。

それでも、自分が約束したのは彼なのだと、スコールは見下ろす幼馴染を睨んで言った。


「あんたじゃない。俺の“運命”は、あんたじゃない」
「……」
「あんたじゃ、ないんだ……!」


碧眼に映り込む蒼灰色は、涙と悲しみと悔しさで歪んでいる。
瞬きせずとも溢れ出したその雫に、サイファーの手が伸びて、それは触れる前に止まった。
押し留めるようにゆっくりと握り締められた手が退いて、スコールの腕を掴んでいた手も離れる。

ようやく自由になった、とスコールの覚束ない足が立ち上がり、ふらふらと歩き出す。
走る事も出来ずに遠ざかって行くスコールの背を、サイファーはただ見送っていた。

いつも何気なく歩いている道が、酷く長くて、足が重い。
家までがやけに遠くて、座り込んでしまいたかったけれど、早く愛しい人に逢いたかった。
その一心だけで歩いていたから、名前を呼ぶ声があった事にも気付かず歩く。


「───ール。…スコール。スコール!」


何度目の呼ぶ声だったのかは判らないが、それが辛うじて聞こえてようやく、スコールは顔を上げる。
褐色の瞳がすぐ其処まで駆け寄ってきて、青白い顔をしたスコールの両肩を掴んだ。
どうしたんだよ、と心配そうに覗き込んでくる愛しい人───バッツの顔を見た瞬間、スコールは堪え続けていたものが溢れ出すのが判った。


(どうしよう、バッツ。俺の運命、あんたじゃなかった)


運命なんてバカバカしいと言っていた。
それでも、運命と言うものがあるなら、これが良いと思っていた。


(今はもう、どう思えば良いのかも判らない)


嗚咽を零して泣き出したスコールを、バッツは戸惑った表情を浮かべながら抱き締める。
大丈夫だよと頭を撫でられて、いつもの匂いを嗅ぎながら、スコールはどうしようもない遣る瀬無さに打ちひしがれていた。






『オメガバース設定で、最愛の恋人と運命の相手が違う三角関係』のリクを頂きました。
CPをお任せで頂きましたので、バツスコ前提サイ→スコになりました。

スコールはβだったけど、元々性質としてΩの資質も持っていて、αのサイファーは本能的に子供の頃からそれを感じ取っていたんだと思います。診断上はスコールがβなので、そうと思っていなかっただけで。
二人が離れ離れになってからスコールがΩになり、その時一緒にいたのがバッツで、何かと面倒を見てくれたし、スコールも信頼してるし、バッツもスコールが好きになった。αとΩだし、きっと運命だなって二人で納得してた訳です。番になる約束もしたし。
でもスコールとサイファーが再会してしまい、αとΩとして“運命の相手はこいつだ”と感じ取ってしまったと言う話でした。

サイファーは運命を信じていて、子供の頃からの無自覚の独占欲や恋慕(当時は未満)があって、再会後は自分がスコールと番になりたいことはもう自覚しているけど、スコールの気持ちを無視したくはない。
追い駆けてたのは、お互い明らかに感じ取ってる節があるのに、スコールが逃げてばかりで話も出来てなかったからです。
やっと話せたと思ったら、スコールの方が追い詰められた状態にあると悟って、スコールの気持ちを汲んで追い駆けなかった(追い駆けられなかった)……と言う状態でした。

[フリスコ♀]夕海の音

  • 2024/08/08 22:10
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



そもそもがインドアな気質であるから、真夏の海なんてものに誘った所で、スコールが諸手を挙げるような性格ではない事は、フリオニールにも判っている事だった。
しかし、アルバイト先の先輩から、厚意で譲られたチケットを無碍にするのも詮無いと、一応の体で、と言うつもりだったのだろう。

貰ったんだけど、どうかな、と眉尻を下げて言ったフリオニールの手には、有名なリゾートホテルの宿泊招待券。
ペアで一組、と記されたそれは、宿泊代の他、朝晩の食事も無料になると言う好待遇だ。
テレビ番組の懸賞だかで手に入ったらしいそれを、ぽいと人に譲るような人物がいるとは、奇特なことだ───いや、フリオニールの人望だろうか。
ともかく、応募したし当たったけれど行くつもりがないらしい先輩は、フリオニールがひとつ年下の恋人と付き合い始めた事について、色々とお節介を焼いてくれているらしい。
そして、生活の為にアルバイトに追われざるを得ず、中々具体的に二人の時間を作るのが難しいフリオニールを慮り、このチケットを寄越してくれたのだとか。
スコールはそれをフリオニールからの話でしか知らないが、随分と面倒見の良い奴がいるもんだ、と思った。

だからフリオニールから、スコールに「夏休みの間に旅行に行かないか」なんて言う誘いが出て来たのだ。
場所は有名な避暑地だし、夏休みなんて何処に行ってもイモ洗い宜しく人混みになっているだろうから、スコールがその手の場所に行かないことは、フリオニールもよく知っている。
それでも、誘う口実が手元に出来てしまったのだ。
だったら一度くらいは誘ってみないと、と思ったのだそうだ。

そんな感じで誘った訳なので、スコールが頷いた時には、フリオニールは大いに驚いていた。
「良いのか?本当に?」と目を丸くしていた彼に、スコールは「……嫌なら良い」と顔を顰めて言ったが、フリオニールは直ぐに「嫌なんて!」と言った。
ただただ驚いたんだと言うフリオニールに、まあそう言う反応になるよな、とスコールも自覚している。
夏休みだからと、開放的に遊び惚ける性格でもないし、街にある遊泳プールにだって、幼い頃に行ったきりだ。
年齢が上がるにつれて、スコールは人混みを避けるようになったし、昨今も猛暑酷暑の日差しを思えば、外で遊ぶより、図書館で過ごしている方が何倍も良い。
フリオニールもよくよくそれを判っているから、スコールが旅行になんて行く訳ないか、とダメ元で一応の誘いをしたに過ぎなかったのだ。

フリオニールは、予想に反したスコールの返事に驚いたが、しかし一緒に出掛けられるのなら喜ばない事はなかった。
きちんとした日程を組み、アルバイトの休みも取って、滞在先となるホテルのアクセスルートや、周辺情報の下調べもした。
スコールは寮に宿泊届を出し、ルームメイトのリノアに揶揄われつつ世話を焼かれつつ、旅行日までに必要となるであろうあれこれを買い揃えていた。

かくしてやって来た小旅行の日、二人は最寄り駅で待ち合わせして、出発した。
普段のデートも滅多に出来ていないのに、いきなり旅行なんて、となんとなく意識してしまってか、往時の二人の間で会話は少ない。
それでもスコールは、隣にフリオニールがいてくれると言うのが嬉しかった。
出発の前に駅前のコンビニで買ったおにぎりを食べながら、車窓に映る景色をぼうと眺めたり、同じように外を眺めているフリオニールの横顔を盗み見たりしているだけで、楽しい。
少女はささやかな楽しみを堪能しながら、束の間の旅路に耽ったのだった。

ホテルは、リゾート地のそれとして名高いことに相応しく、海が目の前にある。
ホテルの裏手から直接海へと遊びに行ける道も整備されていて、正しく真夏に御用達になっていた。
今日も例に漏れず、ホテルの客の多くは、到着早々に海へと繰り出しており、また地元民もよく遊びに行くようで、遠目から見ても遊泳エリアは沢山の人に溢れている。
判っていたことと言えばそうだが、スコールは其処に飛び込んでいくような気にはなれなかった。
フリオニールもそれはよくよく悟っていて、


「観光できそうな施設があるんだ。そっちに行ってみないか?」


と、提案してくれた。

リゾートとして有名な場所だから、やはり海に客が集まるのは当然だろう。
だが、避暑地としても名が知れているからか、其処に限らず人が興味を寄せそうな施設や店はそこここに散らばっている。
スコールが地元でも良く行く図書館だったり、工芸品が展示されている屋内ミュージアムだったり。
少し距離を延ばせば、小さいながらも水族館もあるようで、移動することに苦がなければ、海に限らずそこそこに楽しむことが出来るだろう。

────本音を言うと、避暑地とは言え、やはり暑い日差しの中を歩き回る事には抵抗があった。
だが、そうなると、ホテルで二人きりの時間を過ごすことになる。
宿泊する部屋は、当然ながらペア一組で使うもので、シングルベッドが二つ並んだツイン仕様だ。
それ程豪奢な訳ではなく、ビジネスホテルに比べれば広くゆったりとしている、と言う程度で、後は窓から海を臨めるのが良い、と言う位か。
貰い物の無料チケットで泊まれるホテルの部屋としては、十分贅沢と言えるものだから、何も不満はない。
ないが、まだまだ初々しい、恋人になりたての男女にとって、そんな場所でも二人きりになると言うのは、色々と意識が働いてしまうものであった。

だからスコールは、出掛けようか、と言うフリオニールに頷いた。
二人きりの空間でまんじりと、なんとも言えない空気の時間を過ごすより、気が紛れると思った。
……恐らくは、誘ったフリオニールの方も、同じ気持ちだったのだろう。

そうして二人は、ホテルを中心に、歩いていけそうな範囲をのんびりと散策した。
道行に街路樹が植えられ、並ぶ店々や宿泊施設も、グリーンカーテンをふんだんに使っており、海辺の街と言うこともあってか、都心で過ごす時間に比べると、少し涼しさも感じられる。
工芸品ミュージアムや、小さな水族館をのんびりと見て回ると、太陽は次第に海の向こうへと傾いていた。

夕方になって、もうめぼしい所は見て回ったかとフリオニールが言った。


「そろそろ、その……戻るか?夕飯の時間もあるしな」
「……ああ」


ホテルに戻る、あの二人きりの部屋に────と思うと、勝手に心臓が跳ねる二人だ。
それをお互い、相手に覚られないようにと平静を装いつつ、足を帰路へと向ける。

海辺の方が道が判り易いから、とフリオニールに促されて、二人は海沿いの道を行くことにした。
西日が海の水面に反射して、きらきらと黄金色に輝いている。
浜で遊んでいた海水浴客も、流石にそろそろお開きのようで、各自パラソルやテントを畳んでいた。


「………」


スコールはなんとなく、道すがらに海を眺めていた。
普段の生活で、海をこんなに間近に見る事はないから、少々の物珍しさも働いている。
そんなスコールを横目に見て歩いていたフリオニールは、


「ちょっと浜に降りてみるか?」
「……まあ……そう、だな」


丁度、道路から浜に降りるステップがあった。

さらさらのきめ細かな砂に覆われた浜を少し下れば、波が寄せて返す際まで行ける。
波打ち際で、まだ遊び足りない若者たちが、白波との追いかけっこをして遊んでいた。
無邪気なその声を何処か遠くに聞きながら、スコールとフリオニールも、波の傍まで行ってみる。


「気持ち良さそうだな。ちょっと入ってみるか」
「……水着もないのに?」
「足元だけなら大丈夫だよ」


そう言うと、フリオニールはサンダルを脱いで、素足で波打ち際へと近付いていく。
ざ、と寄せて来た白波が、フリオニールの足首を浚った。


「おお、冷たい。スコールもどうだ?」
「……俺は……」
「暑かったから、ちょっと冷やしていくのも良いと思うよ」
「……」


フリオニールの言葉に、スコールはしばし考える。
街路樹が多かったので、日中の移動は思ったほどに辛いものにはならなかったが、とは言え真夏である。
随所で蝉の声が聞こえる位には夏真っ盛りで、水分やアイスを堪能しながら過ごしたが、籠った熱が体の中に残っているのも確か。
足首を水に浸すフリオにールは、楽しそうで涼しそうで、少しだけスコールに羨ましさを齎していた。

スコールは靴を脱ぎ、靴下も脱いで、素足で砂浜を踏んだ。
日中の熱を蓄えた砂土は、まだまだ冷めるには至っていないようだが、色の違う場所───波が寄せて返す所まで来ると、今度はひんやりとしている。
足の裏に細かな砂土が付着するのを感じながら、スコールは「ほら」と手を伸ばす恋人の下へと向かった。

ぱしゃん、と足元で水が跳ねる。
冷えた感触で足の裏が洗われて、ふかふかと柔らかな砂地に少しだけ足が埋もれた。


「っ」
「おっと」


感触の変わった足元に、ぐらっと体を揺らしたスコールを、フリオニールが受け止める。
ぽすっと頭を押し付けて支えられたスコールの頬には、フリオニールの胸板が押し付けられていた。
長身に、筋肉が引き締まっている事もあってか、遠目に見るとフリオニールは細身に見えるが、こうして密着すると、その逞しい体つきがよりよく判る。
それがスコールの鼓動を無性に早く急き立るものだから、スコールは赤い顔を隠しながら、いそいそと体勢を繕い直した。


「助かった」
「ああ。波って結構力が強いんだな、初めて知った」


フリオニールの言葉に、俺も、とスコールは頷く。

子供の頃、孤児院で一緒に過ごしていた子供たちと一緒に、最寄りにあった海辺に降りた事は何度もある。
けれども、子供だけで海に入ることは禁止されていたし、そうでなくとも、当時泳げなかったスコールは、自ら海に入ろうとはしなかった。
今ではプール授業で泳ぎも覚え、運動や海への苦手意識もないが、今度は海に近付く機会がない。
遊泳プールに海のような寄せて引く波はないから、波打ち際の足元が、こうも不思議な感覚になるものとは知らなかった。

スコールはフリオニールに両手を握られた状態で、足元を見遣る。
ざあ、さあ、ざあ……と寄せては返す波で、足首や足の甲が何度も浚われ、浜砂を巻き取りながら逃げていく感触が擽ったい。
けれども悪い気はしないのは、夏の日差しで火照った身体が、足元から冷えていくのが心地良いからだろうか。


「もうちょっと向こうに行ってみるか?」
「……服は濡らしたくない」
「うん。だから、膝くらいまで」
「……それなら良い」


水に浸かっているフリオニールは、何処か楽しそうだった。
彼も決してアクティブなタイプでもないが、外遊びが苦ではない性格なのだ。
同行しているのがスコールだから、恋人の趣向に合わせて海に行こうとは言わなかったが、本当は海を堪能するのを楽しみにしていたのかも知れない。
彼は内陸の生まれで、水遊びと言えば川だったらしいので、果てのない海の景色に憧れもあると言っていたか。


(……それなら、明日……少しくらいは、海で過ごしてみても……)


結局、今日一日、フリオニールはスコールの希望に沿って行動してくれた。
暑いのが苦手なスコールの為、見て回った施設は殆どが屋内のもので、冷房も効いている。
屋外を歩く時には、「あった方が良いか思って」と日傘まで用意してくれていた。
余りに気が利いて至れり尽くせりなものだから、スコールは反ってちょっとした罪悪感まで沸いてしまう。
自分ばかりが大事にされて、何も返していないのは不公平なのではないか、と。

フリオニールに手を引かれて、膝まで水が浸かる位置に移動する。
膝元をちゃぷちゃぷと水面が遊び、ホットパンツを履いているスコールはともかく、短パンのフリオニールは裾が濡れていた。
だが、フリオニールは全く気にする様子はなく、スコールの顔を見て楽しそうに笑っている。


「……あんた、海、好きだったんだな」


その様子にスコールが呟くと、フリオニールはううんと考える様子を見せつつ、


「そう、だな。そうみたいだ。海に来たのなんて初めてだったから、ちょっと浮かれてるのもあると思う」
「子供みたいだぞ」
「はは、そうかもな。海ってこんなに冷たいんだな、知らなかった」
「まあ、もう夕方だし。冷えてきてるのもあるんだろう」
「夏に皆が海に行きたがるのが判る気がするな。凄く気持ち良い」


無邪気なフリオニールの言葉に、スコールは、やっぱり遊びたかったんだな、と思った。
彼がそうと口にすることは、相手がスコールである以上、恐らくはしないのだろうが。

……それなら、とスコールは言った。


「明日、泳ぐか」
「えっ?」
「午前中の内、ならだけど」


昼日中になれば、太陽が本格的に熱線を注いでくるから、スコールはそれを浴びるのは避けたかった。
そんな気持ちから、僅かな時間で良ければだけど、と提案してみると、俄かに夕焼け色の瞳がきらきらと輝く。


「良いのか?」
「折角の海だろ。全然泳がないで帰るのも何だし。あんた、水着は?」
「あ、え。ええと、ある。使わないかもと思ったんだけど、その、一応……」


しどろもどろに言うフリオニールは、密かな期待をしていた事を吐露する恥ずかしさを感じているようだった。
恋人の趣向を思えば、使わなくともと思ってはいたが、やはり一抹の期待はあったのだ。
それなら尚更、スコールは、使わないまま帰るのも勿体ない、と思う。
何せ、自分も彼と同じ、密かに用意していたものはあったのだから。


「じゃあ、明日」
「うん」
「昼くらいまで」
「そうだな。帰る準備もしないとだし」


明日の朝、ホテルのチェックアウトを済ませたら、海へ。
昼にはまた遊泳客が増えるだろうから、その頃に上がって、何処かで腹を満たして帰路に着こう。
そう言う予定をざっくりと組んで、スコールは明日を楽しみにしているフリオニールの顔を見ていた。

足元だけとは言え、冷え行く水に長く浸かっていると、その内体も冷えて来る。
上がろうか、と手を引くフリオニールに、スコールもついて行った。
濡れた足元を敢えてそのままに靴を履いて、帰ったらスリッパに履き替えよう、と笑う。

それからホテルに戻り、バイキング形式の夕食を堪能した後、部屋に戻る。
其処で二人は、改めて二人きりで泊まると言う環境に、少々ぎこちない一時を過ごすことになるのだが、それはまた別の話として────。
翌日、海辺でお披露目されたスコールの水着姿に、フリオニールが言葉を失うのも、また別の話なのであった。






『海に行くフリスコ♀』のリクエストを頂きました。

泳がずに水辺でぱしゃぱしゃしてる二人は可愛いと思います。
地元と違って自分たちを知ってる知り合いに遭遇することがないし、ちょっとだけ開放的になって、手を繋いだりしている二人。
それでも結構ドキドキしているので、ホテルで二人きりとかもまだまだ緊張する初々しさ。
スコールの水着は、毎度のパターンですが、寮のルームメイトの親友リノアが、この日の為に選ばなきゃ!とコーディネートしたものだと思います。

[ラグスコ]いつか全てを染め変えて

  • 2024/08/08 22:05
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

※Dom/Subユニバースパロ




あの頃は、自分が“そう”だとは気付いていなかった。

人間の───と言うよりは、生物の本能として根付いた習性は、それがどんな形であれ、可惜に差をつけるべきではないと言われている。
だが、そんな風に声高に言われるようになったのは、時代としてそれ程遠くはないことらしい。
どんな性質を持って生まれたのだとしても、等しく権利はあるべきだと、それは決して、上下や優劣をつけて奪い奪われるべきではないと、そんな風潮が尊重されるようになってから、半世紀も経ってはいないそうだ。
だからだろう、世界は平等を叫びながらも、未だ優劣の色眼鏡はついて回るし、それによる迫害・差別を避ける為に、己の本質については隠そうとする者も多い。
そうしないと、己の意図や意思とは関係なく、奪い奪われが当たり前に起きてしまう。

バラムガーデン、ひいてはバラムの島は、世界の流れからは少々取り残される環境下にある。
だからこそ、バラムガーデンでは、他国に先んじて、新たな価値観を育むことが出来たのかも知れない。
だが、其処から一歩離れて大陸に渡れば、其処にあるのは旧来から根強く続く価値観だ。
其処で初めて触れるカルチャーギャップにショックを受ける生徒もいる傍ら、ああどうりで、と納得と共に古くからの価値観に迎合、染まってしまう生徒も少なくない。

その最たるものが、DomとSubと呼ばれる性質であった。
大きく言えば、Domとは支配するもの、Subとは支配されるものとされ、生物の本能として備わっている性質とされている。
Domは他者を支配することによって充足感を得て、Subは支配されることによって安心を得る。
それは持って生まれた性質ではあるが、その質の内訳となるグラデーションは様々で、両方の性質を持ち常に揺らぎの中で過ごしている者もいれば、いずれにも属さずそもそもそう言った性質への依存のない者もいたり、時には極一遍に強く偏る者もいる。
両者には生物学的な違いや、社会的地位における立場の優劣はないとされているが、とは言え、本能が持つその性質により、聊か歪なパワーバランスが生まれ易い事は確かにあった。

また、この支配するもの・されるものという本質に根付いた傾向は、それが長く満たされない環境にあると、強い抑圧やストレス症状を伴い、Domの場合は攻撃的になり、Subの場合は情緒不安定な恐慌状態を招くことがある。
それは言わば“過度な欲求不満”であり、適度に発散・充足させる事が出来ないと、Domは周囲にあるものを支配しようと過剰に圧力を与える事態も起こり、もしもその場にSubがいた場合、Domが放つ威圧感に本能的に支配されようとしてしまう、意図せぬ服従関係が作られてしまう場合もあった。

スコールが自分がSubだと気付いたのも、その時だ。
まだSeeD試験の参加資格も得る前、酷い苛立ちを隠さずに、生徒に圧力的な指導を与える教師がいた。
元々厳しい教員ではあったが、その日は特に酷く、指導と言うよりも八つ当たりじゃないかと、その授業に参加した生徒たちは思っていた。
何度も声を荒げるその教員に睨まれた時、スコールは突然、膝から力が抜け落ちるのを感じた。
ハードな運動をした後で、多くの生徒がへたりこんでいた所だったから、スコールが崩れ落ちても、疲れの所為だと思われたが、スコール自身は判っていた。
疲労じゃない、立てない、頭を上げることが出来ない────スコールは、Domである教師の放つ威圧感に飲み込まれ、彼へと服従しようとしていたのだ。
その時は、教員の異変に気付いた別の教師が割り込み、授業もお開きとなった後、疲れ切っていた生徒たちには授業終わりまで休憩時間が設けられた。
お陰でスコールの意識はゆっくりと戻ることが出来たが、その時に浴びせられた教員の言葉は、スコールの中に重い枷をかけることになってしまった。


『お前たちは従っていれば良い。逆らおうなんて考えるな。兵士は命令に従うものだ』


それは、兵士のあるべき形のひとつとして、正しいものだろう。
上から齎された命令に従い、駒として動くのが、兵士として求められる役割なのだから。
だが、現実には兵士とて考える力は必要であり、時には命令に背いてでも、目標の為に行動パターンを変えたり、自己の命を護るべき行動を優先せねばならない時もある。
そうした個人の意思力を奪うような指導は危険であると、後にその教員は学園長から指摘され、真偽の所は不明だが、それが理由でバラムガーデンの教職員としての席を追われたとも噂されている。

苛立ちをぶつけるように突き付けられた言葉が、生徒のどれ程に響くものを齎したのかは判らない。
あの日、教員は酷く苛々としていたから、何を言われた所で、多くの生徒は、ただストレス発散に使われているとしか思っていなかっただろう。
だが、スコールにとっては違う。
あれは、スコールにとって期せずして与えられた、Domからの“躾”だったのだから。




未だ内政に不安要素の多いガルバディアのデリングシティで行われる首脳会談と言うのは、その警護に立つ者たちにとって、一瞬たりと気が抜けないものであった。
スコールも大統領の側近位置に立つことから、SeeD服を着用し、終わりまで背筋を正して警戒を続けていた為、常以上に疲れが溜まっている。
それでも、明日の予定を含めた確認を怠る訳には行かず、最後の気力で随伴メンバーとの打ち合わせを行った。

全員の配置の確認と、要注意事項の伝達を終えた時には、予定の時間を少々オーバーしており、しまった、とスコールは密かに舌打ちした。


「────以上だ。0625、出発前に最後の確認を取る。遅れないように」


スコールの言葉に、SeeD達が敬礼と共に「はい!」と返事をする。

打ち合わせの場を離れたスコールは、真っ直ぐにラグナの下へと向かった。
其処に行き付くまでの廊下には、エスタの兵士が等間隔に並んで配置され、警備体制を続けている。
エスタ出発から大統領の直近警護として随行しているスコールは、ノーチェックで大統領の宿泊の為に用意された部屋へと到着した。

ノックを二つすると、鍵の回る音がして、ゆっくりと扉が開かれる。
扉の隙間から覗いた大柄な男────ウォードと目が合うと、強面の目元が少し緩んだように見えた。
中に入るように促され、「失礼します」と断ってから、入室する。

他国の大統領が泊まる部屋とあって、中は広々としており、調度品も上質なものが揃えられている。
そのソファに座って書類を眺めていたラグナが、近付く足音に気付いて顔を上げ、


「お、スコール。打ち合わせ終わったのか?」
「本日分は終了しました」


事務的に答えると、ラグナはそっかそっかと笑みを浮かべる。
それからラグナは、テーブルを挟んで向かい合って座っていたキロスと、スコールの後ろに立っているウォードを見た。
言葉なく目配せのみのラグナの意図を、旧友二人は直ぐに汲み取る。


「では、私たちも休ませて貰うとしよう。スコールくん、大統領をよろしく」
「………」
「はい。お疲れ様でした」


ぽん、と大きな手に肩を叩かれて、スコールは定型も挨拶を済ませた。

キロスとウォードが部屋を出るまで、スコールはじっとその場に立ち尽くしていた。
両手を背中に当て、直立不動の姿勢を取る様は、日中の首脳会談の時と何ら変わらぬ姿である。
しかし、警戒中のそれとは違い、視線だけはじっとラグナ一人を見詰めて離れない。

ラグナは手にしていた書類を片付けると、改めてソファに座り直して、スコールを見て言った。


「スコール、お座り(Kneel)


その言葉が耳に、脳に届いた瞬間、スコールの身体から力が抜ける。
ゆらりと足元が揺れた後、膝が床と平行になり、スコールはぺたんとその場に座り込んでいた。
背に回していた腕も既に力なく垂れて、ともすればそのまま前に倒れ込みそうな体を、床に手をついて支えている程度。
先までの無感情な鉄面皮は溶けたように剥がれ落ち、蒼の瞳はぼんやりとしている。

続けてラグナが「おいで(Come) 」と言うと、スコールはずりずりと下肢を床に擦り付けながら、手で身体を前へとずり動かす。
ゆっくりと近付いて来るスコールを、ラグナはソファに座ったまま、柔く双眸を窄めて見つめていた。

歩けば十歩となく終わる距離を、スコールは這うようにして進み、ようやくラグナの下へと辿り着く。
足元に座り込んだままのスコールに、ラグナは濃茶色の髪をそっと撫でて、


「よしよし。良い子だな」
「………」


子供を褒めるようなラグナの言葉に、スコールの小さな唇から、ほう、と吐息が漏れる。
眦を擽る指先に、スコールは子猫のように目を細めていた。

ラグナはスコールの顔をゆっくりと指で辿りながら、


「今日は……うーん、一時間くらいかな。明日は俺もお前も、お仕事あるしな」
「……ん……」
「だから、一時間が経ったら、止めよう。俺から時計、見えないから、スコール見ててくれな」
「……わかった……」


ラグナの言葉に、スコールは何処か恍惚とした表情を浮かべながら頷く。
それにまた、ラグナがよしよしと、猫をあやすように首元を擽ると、スコールはぞくぞくとしたものが背筋を走るのを感じていた。

熱を灯した蒼の瞳に見詰められ、ラグナは静かに告げる。


「スコール、脱いで(Strip)
「……どう、言う風に?」
「じゃあ、そうだなあ。ゆっくり、見たいかな」


ラグナの指示を受けて、スコールはSeeD服の詰襟に手をかけた。
一番上を止めているボタンを外し、前を閉じているファスナーをゆっくりと下ろしていく。
ウエストを絞っているベルトに引っかかったので、それを外してから、最後までファスナーを下げた。

ジャケットを脱ぎ、その下に着ていたシャツ、インナーも脱ぐ。
靴を脱ぎ、ズボンのベルトに手をかけると、一瞬、スコールの動きが止まって、ちらとラグナの顔を見た。
ラグナが頷いて見せてから、改めてベルトの前を外し、焦らすようにじわじわとボトムを下げて行った。
最後に下着と靴下も脱いでしまえば、スコールはすっかり生まれたままの姿になって、またラグナの足元にぺたりと座る。

じっと見上げる蒼灰色の瞳に、ラグナはそれが求める言葉を読み取っていた。


「よく出来ました」
「………」


ラグナの指がスコールの首筋を撫でる。
スコールはうっとりとした表情で、その感触に身を委ねていた。


「じゃあ……そのまま(Stay) だ、スコール」
「っ……」


ラグナの指示に、ピクッ、とスコールの微かに肩が震える。
言われた通り、そのままの姿勢で身動ぎも封じるスコールに、ラグナは良い子良い子と頭を撫でる。

SeeDであるスコールにとって、クライアントの依頼や指示と言うものは、命令と同義だ。
だが、ラグナの指示は明らかにクライアントとしての枠を越えている。
だからSeeDの班リーダーであり、その組織の指揮官と言うポストに座っているスコールは、行き過ぎたそれには明確に「否」を示さなければならないものだ。
そうしなければ、SeeDと言う傭兵としての商品価値を貶める事にも繋がり、SeeDへの信頼や信用性は勿論のこと、帰属しているバラムガーデンと言う場所を護る術を喪うことになる。

だが、今のスコールにそう言った意識はない。
彼は今、生来から持ち得ているSubの本能に従い、ラグナの指示に従っている。

そもそもがSubの性質を強く持つスコールにとって、他者からの命令や指示に従うと言うのは、本能的に精神に安定を齎すものであった。
その中でも、Domの指示と言うものは、特に従属意識を強く刺激する。
ラグナはDomであり、彼もまた、他者を────Subを支配することを欲求として強く持っていた。
魔女戦争以降、頻繁に時間を共有する内に、それぞれの持つ性質を匂いのように感じ取り、それぞれに渇望していた充足を求めるように噛み合ったのは、自然なことだった────少なくとも、本人たちにとっては。

ラグナに命令を貰うことは、スコールにとって“ご褒美”なのだ。
加えて、従えばラグナは欠かさず褒めてくれる。
Subと言う性質でなくとも、愛に餓えた少年にとって、それは何よりも甘くて美味しい砂糖菓子だった。

そして言われた通りに行動し、指示を順守するスコールの姿に、ラグナも言葉に表せない程の充足感を感じていた。
首筋を指先でくすぐり、露わにされている胸元にまで這わせていくと、スコールはぴくっ、ぴくっ、と四肢を小さく震わせながら、『Stay』の指示を守ろうと努めている。
触れ合いについて経験不足のスコールの身体は、こうした戯れめいたスキンシップに敏感だ。
それでもラグナの触れる手から逃げないようにと努める姿は、いじらしくもある反面、匂いたつ未成熟な性の気配に、ラグナの雄の衝動も刺激する。


「スコール、見せて(Present)
「……っあ……」


ラグナの言葉に、ぞくん、とスコールの身体に熱が奔る。
どくどくと心臓が早鐘を打つのを感じながら、スコールはそっと体を反らして見せた。

頭を上に持ち上げ、天井を仰ぎながら、胸を差し出す格好を取るスコール。
床に座ったスコールが、ラグナに向けてそんなポーズを取れば、何もかもを晒して見せる事になる。
ほんのりと火照った白い肌も、じんわりと蜜を滲ませ始めた下肢も、全て。


「良い子だな、スコール」
「は……、ラグ、ナ……っ」
そのまま(Stay)
「あ……っあ……!」


ラグナの瞳に、重い熱が籠るのを見付けて、スコールは意識が宙に浮かび上がるのを感じていた。
このまま何もかも、ラグナに委ねてしまいたい。
そうしたら、もっともっと心地良い安心感を得ることが出来ると、スコールの本能は知っている。

だが、視界の隅に見える時計は、いつの間にか指定された時間───一時間を越えていた。


(止め、ないと……)


この時間はとても心地良いけれど、行き過ぎると二人とも夢中になって戻って来れなくなる。
そのまま褥まで入ってしまえば、明日の予定に支障が出てしまう可能性もあった。
だからちゃんと止めないと、とスコールの微かに残る冷静な意識が訴える。

この遣り取りを止める方法は判っている。
最初に決めたセーフワードを言えば良い。
それを言えばラグナは絶対に止めてくれると約束した。

─────だが、


「……っ、…………っ」


どく、どく、とスコールの心臓の音が大きくなっていく。
夢を見るように茫洋としていたキトゥン・ブルーの瞳に、じわじわと冷たいものが混じって行く。
ラグナの触れる指の感触に、うっとりと甘い吐息を零していた唇からは、乱れた呼気が零れ始めていた。

セーフワードを、と頭の中で何度もそれを繰り返すが、音になって出てこない。
喉が詰まり、其処に言葉そのものが張り付いたように、スコールは声を出せなくなっていた。

かひゅ、と吐息にもならず掠れた音が零れて、ラグナは目を瞠る。
見開かれた蒼灰色の瞳が彷徨い、其処にいる筈の男すら認識できていない少年の姿に、ラグナの高揚していた感覚が一気にどす黒く燃え上がる。
その瞬間に、スコールの全身は棘の鞭でも打たれたように強張り、


「………っあ………!!」


がくっと体中の力を失ったスコールは、次の時には地面に額を擦り付けていた。
平伏の姿勢を取ったスコールに、ラグナははっと我に返った。


「スコール!スコール、見て(Look) 見て(Look) 、だ。スコール」
「……っ、……!」


身を伏せたまま、がくがくと体を震わせるスコールに、ラグナはその肩を抱え起こしながら『Look』を繰り返す。
抱きこされたスコールの目は、ラグナを避けるように床一点を見詰めている。
それを、両頬を包み込んで頭を上向かせ、ラグナは今一度、強く『見て(Look) 』と言った。

焦点を喪っていた蒼灰色の瞳が、少しずつその恐慌から逃れて、目の前にある翠を見付ける。
それでも言葉を発することが出来ないでいるスコールを、ラグナは強く抱きしめた。
床に二人で座り込んだまま、細身の少年を腕の中に閉じ込めて、ラグナはその眦にキスをしながら囁く。


「大丈夫、大丈夫だよ。うん。セーフワード、言おうとしたんだな。頑張ったな」
「っは……あ……っ、ラグ……、ナ……っ」
「うん、うん。一時間経ってたな。ちゃんと時間を守れた。スコールは良い子だ」


くしゃくしゃとラグナの手が濃茶色の髪を掻き撫ぜる。

スコールの背中は、ぐっしょりとした汗に濡れて、酷く冷たくなっていた。
ラグナはソファに投げるように放置していたジャケットを取って、スコールの肩にかけてやる。

スコールの身体は、全身の力の強張りこそ抜けたものの、虚脱して動ける状態ではなかった。
ラグナはそんなスコールを横抱きにして抱き上げると、整えられたベッドへと運ぶ。
綺麗なリネンの上に下ろされたスコールは、ようやく自分が陥った状態を理解していた。


「ラグナ……俺、また……」
「良いよ。お前の所為じゃないんだから。気付くのが遅れてごめんな」
「………」


謝るラグナに、スコールは小さく首を横に振る。

何年も前に、意図せず刻み込まれた乱暴な“躾”。
その所為でスコールは、本来ならば自分の身と、Domであるラグナとの間で信頼関係を保つ為に必要である筈のセーフワードを、示すことが出来ない。
セーフワードはDomの支配に抗うものでもある為、元々Subには負担のかかる傾向があるが、スコールはその負担が一層重い状態になっている。
このままは危険だから、とラグナは意図的にスコールがセーフワードを発するよう、訓練としての“躾”を意識していたが、未だその効果は具体的には見えていない。

それでも、初めの頃よりは良くなったのだと、ラグナは考えている。
Subと一口で言っても、そのグラデーションは様々で、“躾”だとしても嫌悪を齎す行為はある。
スコールはその一切を示さずに、Domであるラグナの言う事ならばと、無制限に従おうとしていた。
決して無体をしたい訳ではなく、あくまでスコールからの信頼があることを重きとするラグナにとって、スコールは余りにも危うかった。
だから、こうして少しずつ、意識と行動を改善できるようにと“躾”を重ねている。

ベッドに沈むスコールの身体は、ぐったりと重く、指一本も動かせない。
ラグナはそんなスコールの身体を抱き締めながら、布団の中へと潜り込んだ。


「今日はお疲れ様。このまま寝よう。温かいだろ?」
「……ん……」
「……お前の卒業まで、まだ時間もあるんだ。焦らないで行こう。な?」


言い聞かせるように囁くラグナに、スコールは小さく頷く。
触れ合う場所から伝わる温もりが、ようやくスコールの体温を戻しつつあった。

ラグナの指が、そっとスコールの首に触れていく。
いつか其処に、その指でもって証がかけられる日が来ることを、スコールは静かに願っている。






『ラグスコでDom/Subユニバース』のリクを頂きました。

時々この設定の二次創作のものを読んだ事はあったのですが、改めて色々設定を調べて、美味しいなあ………と思って色々詰め込んでしまいました。
Subのスコールにとって、SeeDになるべくして与えられる、授業中の指示だったり、任務の命令だったりは、本能的に従う事に抵抗感がない為、多少理不尽でも黙って従う。
子供の頃からそうやって蓄積された『従うこと』の無意識的な従属に加えて、事故的に浴びたDom教師のGlareが忘れられなくなってしまったって言う状態。
きっとこのスコール、ハードプレイを望むタイプ。しかし危険状態を知らせるセーフワードが言えないのでやばい。
Domのラグナは、支配したいと言うのはあるけど、それより甘やかしたい、自分だけに甘えるスコールを可愛がりたいと言う感じ。スコールに自分以外のDomの躾があると嫉妬する。しかし嫉妬が露骨に出るとGlareでスコールがSub dropに落ちるので、自制もしつつ、スコールをずっと可愛がっていけるように、ゆっくり躾をしている所です。

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