[ウォルスコ]あなたのそばにいたいだけ
スコールには、少し変わった癖がある。
それは子供の頃から積み重ねられてきたものだ。
幼年期のスコールは、引っ込み思案で人見知りが激しく、身内以外には滅多に懐かない子供であった。
生後間もない頃から付き合いのある、父の旧友たちにも、自ら近付かなかった程である。
今も人見知りの片鱗は残っているが、幼い頃は怖がりだったこともあって、より顕著だったと言える。
そんなスコールが懐いていた数少ない年上の人間が、ウォーリアだ。
8歳年上の幼馴染に、彼は随分と心を許していた。
顔を見れば自ら駆け寄り、ぴったりと彼の傍から離れない。
見慣れない人間がいるのを見付けると、一目散でウォーリアの背中に隠れていた。
そんなスコールを、ウォーリアも無碍にはせず、スコールの両親からも「うちの子をよろしく」と言われていた。
ウォーリアの方は、始めは自分の方が年上だから、スコールが幼いから、と言う理由で面倒を見ていたと思う。
その面倒見の良さと、決して声を荒げたり、騒がしい気質ではなかったから、大人しいスコールにとって丁度良い塩梅だったのだろう。
家族以外で、必ずこの人は守ってくれる、と言う安心感で、スコールが懐いていたのは間違いない。
成長と共に、スコールの怖がりや泣き虫は克服されている。
それでも、ウォーリアに対する信頼までもが薄れることはなく、寧ろそれはより強いものとなっていた。
いつしかスコールはウォーリアに対し、自身の心を預けるようになっている。
それが、一時の憧れが齎す幻ではないことを、ウォーリアも受け入れている。
……二人がそこに至るまでに、約三年、周囲がやきもきする攻防があったことは、別の話として。
現在、スコールは高校二年生になっている。
ウォーリアは大学を卒業し、都内に構える進学塾の講師となっていた。
ウォーリアは実家を出て一人暮らしのアパートを持ち、そこにまだ実家暮らしのスコールが頻繁に訪れている。
理由としては、来年には受験シーズンを迎えるスコールの対策の為だが、それもどこか言い訳めいているのも確か。
お互い、拗らせるように三年の攻防をした反動があるのは否めなかった。
週末の休みに合わせて、スコールはウォーリアの自宅を訪れる。
ウォーリアもその日は大抵休みだから、お互いに気兼ねをしなくて良かった。
信頼しているウォーリアの下にいるならと、スコールの両親も目くじらを立てることはない。
スコールが作ってくれた夕飯を食べた後、ウォーリアはソファに座ってノートパソコンを開いていた。
その隣では、スコールがローテーブルに教材を広げ、宿題に取り組んでいる。
名目では“ウォーリアに勉強を教わる”として足を運ぶスコールだが、実の所、ウォーリアが手を貸すことは少ない。
スコールは地力で十分に優秀な成績を収めており、勉強姿勢も真面目なものだ。
ウォーリアがやる事と言ったら、ただただ見守ることと、彼が稀に悩んだ時に少しヒントを与える程度のことであった。
今日も例に漏れず、スコールは自力ですべての課題をクリアする。
最後にプリントの頭から順に確認をして、スコールはシャーペンを置いた。
「はあ……」
「終わったのか」
「ん」
「ご苦労様」
眼精疲労か、スコールは猫のように目を擦っている。
子供の頃にも勉強の後にはよく見られた仕草に、ウォーリアの口元が緩んだ。
スコールは勉強道具を片付けると、ウォーリアの隣に移動した。
「あんたの仕事は……」
「もう直に終わる。あとは確認だけだ」
「そうか」
ウォーリアの返事を聞いて、スコールはソファの背凭れに寄り掛かった。
携帯電話をいじりながら、そのまま時間を潰すことしばし。
ウォーリアも最後のチェックが終わり、ファイルを保存して、パソコンの電源を落とす。
端末が小さく音を立てて、液晶画面が暗くなると、
「終わった?」
「ああ」
答えると、すぐにするりと気配が近付いた。
ソファに座るウォーリアの膝に片手を突いて、腕の下───脇の隙間からスコールが体を突っ込んでくる。
そのまま体半分ほどをウォーリアの脇から侵入させたスコールは、ウォーリアの膝の上に上半身を乗せた。
スコールに膝上を占領された格好になって、ウォーリアは立ち上がることも儘ならない。
「スコール」
「ん」
「リモコンを取ってくれるか」
「ん」
スコールはウォーリアの膝上に居座ったまま、腕を伸ばして、テーブル端に置かれたリモコンを掴む。
無言で差し出されたそれを受け取って、ウォーリアはテレビの電源を点けた。
膝の重みを感じながら、ウォーリアはテレビを見ていた。
時間はもう直に21時となる所で、番組と番組の合間にニュースが流れている。
都内で事件があったと言うが、どうやらこの辺りからは遠いようだし、スコールもこの時間から外には出るまい。
物騒な世の中であるから、少年少女は日も落ちきった時間には外に出ないのが健全だ。
その“少年”はと言えば、ウォーリアの膝の上ですっかり落ち着いている。
ここはスコールが子供の頃からお気に入りの場所で、自分だけの定位置なのだ。
時折、過ごし辛くはないのだろうか、とウォーリアは思うのだが、スコールはそこにいて当たり前、と言う顔で、携帯電話をいじっていた。
ウォーリアが視線を落とすと、スコールの形の良い後頭部と、旋毛が見える。
柔らかな濃茶色の髪を手櫛で梳くと、ぴくりと小さく反応があった。
「……」
「……」
スコールはしばらく止まっていたが、ウォーリアが髪を梳き続けていると、また携帯電話を触り始める。
特に気にする必要はない、と判断したようだ。
ウォーリアはゆっくりとスコールの頭を撫でながら、
(……何かに似ている気がする)
そんなことを考えて、はて何だろうか、と首を傾げた。
テレビはニュースを終えて、バラエティ番組が始まった。
日々のささやかな疑問を、実験しながら検証し、最後に専門家の解説を挟む。
放送時間がゴールデンタイムの終盤とあってか、時には派手で過激なこともするのだが、今日はなんとも牧歌的だ。
テーマが“動物の不思議”と言うことで、動物の生態や特徴について調べているからだろう。
テレビに可愛らしい猫が映り、その独特な癖を飼い主が語っている。
猫の日々の過ごし方のVTRが流れて、パネルで可愛い可愛いと言う声が相次いだ。
それをじっと見つめながら、ああ、とウォーリアは得心する。
(……なるほど。猫、か)
膝に乗っているスコールを見て、ウォーリアはくすりと笑う。
今そこにいるスコールは、飼い主の膝の上で丸くなっている猫と、よく似ている。
テレビに映る猫の飼い主が言った。
『眠る時、かならず私にくっつくんですよ。専用のベッドも買ったんですけど、ちっとも興味がないみたいで』
高いベッドだったのになぁ、と飼い主は笑っている。
吟味したアイテムがお気に召されなかったのは悔しいが、自分に密着して眠る猫の姿は可愛い。
折角ではあったけれど、まあ良いか、と言う気持ちになった、とか。
───スコールも、そう言う所が少し、ある。
ここはウォーリアの一人暮らしのマンションだから、ベッドはひとつしかない。
だからスコールが泊まりにくるようになってから、布団をひとつ誂えて、彼が来たら敷いている。
布団でもベッドでも、スコールが落ち着く方を使うと良いと言ったのだが、スコールの行動はどちらとも違った。
ウォーリアがベッドで寝るならベッドで、布団で寝るなら布団でと、移動して来るのである。
そしてウォーリアの体に身を寄せて眠るのがお決まりだ。
今もそれと同じことだ。
ソファは長椅子になっていて、横幅には余裕があるのに、スコールの定位置はウォーリアの膝の上。
仕事をしている時はさすがにそこにはいなかったが、終われば自然とやってくる。
『猫って、自分が安心できる場所を覚えていて、そこをお気に入りにするんですよね』
猫を飼っていたというパネラーが語った。
動物を飼ったことがないウォーリアは、そう言うものなのか、と感心する。
もう一度視線を下へと落とせば、スコールがいる。
ふあ、と欠伸を殺す声が聞こえ、スコールは携帯電話から手を離していた。
もぞもぞと身動ぎしたスコールは、体の向きを変えて、ウォーリアの腹に顔を寄せる。
「スコール」
「……ん」
「眠いのなら、ベッドに行った方が良い」
「……」
促すと、ちら、と蒼がこちらを見遣る。
寝転んだまま、横目で見下ろす恋人を見つめたスコールは、不満そうに唇を引き結び、
「……ここで良い」
「そこでは寝辛いだろう」
「別に」
スコールの腕がウォーリアの腰へと回る。
しっかりとウォーリアの体に捕まって、スコールは足を縮めて丸くなった。
「スコール。ここでは窮屈だろう。落ちてしまうかも知れない」
「平気だ」
「スコール」
「……ここがいい」
ぎゅう、と捕まる腕に力が籠る。
ここじゃなければ嫌なんだと、尖らせた唇がウォーリアに訴えた。
スコールの我儘に弱いウォーリアである。
こうも言われては、仕方あるまい、と折れるのが常であった。
そんなウォーリアに、甘やかしすぎると癖になるぞ、と友人から忠告されたこともあったが、既に遅い。
ウォーリアはスコールの髪を撫でた。
それが恋人の了承の合図だと悟って、スコールのしがみつく力が緩む。
代わりに、スコールはまたもぞもぞと身動ぎして、自分が落ち着く場所を探す。
ややもしてから、自分の体がぴったりと収まりよくウォーリアと密着すると、ふう、と安心したように息を吐いた。
スコールが密着した場所から、彼の体温が移ってくる。
くすぐったくて暖かいその感触に、ウォーリアの唇は自然と緩む。
「スコール」
「……ん」
「寒くはないか」
「……別に……」
スコールはうつらうつらとしているようで、声にもあまり力が入っていない。
蒼い瞳が、ゆっくりとした瞬きの奥へと隠れながら、小さな声が言った。
「……あんた、体温、高いよな……」
「そうだろうか」
寧ろそれは君の方が、とウォーリアは思ったが、口を噤む。
すぅ、すぅ、と聞こえてきた寝息の邪魔をしたくなかった。
眠ったのなら、ベッドに運んでおかなくては。
ここで良いとスコールは言ったが、ソファはどうしても窮屈だ。
きちんと手足が伸ばせるところの方が、明日に差し支えもあるまい。
離れようとすればいやいやと訴えるから、ウォーリアは密着しているスコールから体を離さないように努めて、彼を抱き上げる。
意識が夢に入っても、流石にまだ睡眠は浅いらしく、振動でスコールが小さくむずかった。
首に伸ばされた腕が絡みついて、縋るように、寄り掛かるように、抱き着かれる。
寝室についても、スコールは離れまいとするので、一緒にベッドに横になる。
「んん……」
スコールが寝返りを打って、ウォーリアの方へ身を寄せる。
「……ウォ、ル……」
小さな声で名を呼ばれる。
顔を見ても、スコールは眼を開けていない。
そっと頬に触れてみると、スコールの眦が微か緩んだように見えた。
(君は私に、安心してくれているのだろうか)
問うには聊か野暮な気がして、口には出せない。
けれど、子供の頃から何度となく、こうしてぴったりと身を寄せてくれるのだから、そう自惚れても良いのではないか。
いつものように密着すると、もう離れる気のないスコールに、ウォーリアはそっとその身体を抱き寄せた。
『WoLスコで、ウォルにひっついてる安心するから、全身でくっついてくるスコール』のリクを頂きました。
安心するし、甘えたいし、許してくれるし。甘えたおすスコールと、甘やかし倒すWoLになりました。
子供の頃は守ってくれるお兄ちゃん、成長してからは自分を全部受け入れてくれる人。スコールから見たWoLはそんな感じだと思います。
WoLからすると、スコールの印象は子供の頃からあまり変わっていないのかも知れない。ずっとくっついて来てるので。
でも傍から見ると、スコールがそんなに密着したがる相手って、今となってはWoLだけなんだと思います。……傍からそれを見る人がいませんが(スコールが人前では密着しない為)。